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【友達の卒業作品 『医患』 を観て】

―中国の医療現場の話―

目次:
・きっかけ
・あらすじ
・感想

・きっかけ

友達の作ったドキュメンタリー作品上映会に参加した。中国・山東省出身の彼女は、大学3年の時、渡日し、早稲田大学大学院でジャーナリズムを勉強している、聡明で明るい人だ。彼女が頑張って中国の医療問題に関するドキュメンタリーを作っていたのは分かっていたが、それを正式に、まとめて見るのは初めてであった。

・あらすじ

ドキュメンタリーの舞台は、中国山東省の公立総合病院。主要な登場人物は、その病院の若き熱血外科医師の秦さんと、脳動脈瘤で倒れた農民の賀さんと、その家族だ。

家で突然倒れた賀さんが病院に運ばれ、彼の家族が慌てて病院に赴き、外科医師の秦さんが、家族に賀さんの状態を説明することから、ドキュメンタリーが始まる。

既に倒れた賀さんの意識が戻る可能性は低くて、手術したとしても意識が戻らないかもしれない。そのことについて、医者の秦さんは賀さんの家族に詳しく丁寧に説明する。家族はどうしても彼を救いたがる。しかし、農民である賀さんの家族が、いきなり手術のために大金を用意するのは難しいことであり、大変な手術をしても医者に払われるお金は極めて少ない。手術に使うお金の大部分は、病院と医療機器の会社に払われることになっているからだ。

このような状況にも関わらず、患者の家族の一部が、医者が「お金のためにわざわざ大きな手術を強要する」と疑い、医者に暴力を振うことすらあったようである。かかった病気によって、家族の財産が一瞬でなくなる可能性すらあるので、理解できない反応ではない。また、教育水準が低く、医療に対する知識がない人であれば、よく知らないことに対して恐怖や嫌悪を持つことも、理解できないことではない。しかし、このように、お互いへの不信の溝がますます深くなるのは、非常に残念なことであると思った。

それで、秦さんは賀さんに対する手術を行うが、手術後も、賀さんの意識は戻らず、お金がなくなって窮地に陥った家族は、手術後の治療を諦めようとする。しかし、秦さんの説得により、もう少し治療を延長することを決める。しばらくしてから、賀さんは、優秀な秦さんの医術で意識が戻り、再び家族の懐へ戻ることができる。家族は秦さんに大変感謝し、秦さんもやりがいを感じる。しかし、家族がすでに使ったお金は、彼らの収入をはるかに超えていて、大きな借金を抱えることとなる。医療保険があるとしても、先に病院側にお金を払わないといけないため、借金を抱えることとなる。

秦さんは、お金のためではなく、命を救う医者になるために、医者になったという。三日以上睡眠を削ってでも、彼は応急室に来た患者をみて、大変な手術を続けていく。しかしながら、私は、彼のような医者はどれぐらいいるだろうかと、疑問を思うことになった。

・感想

政府の産児制限の影響で、急激な少子高齢化が進んでいる中国では、全国的に患者数が増えていて、保険制度は昔と比べて整備はされたが、政府の財政負担が高くなっているため、医療環境が、患者の社会的地位のよって大きく違う。前払い制度や、医療機器が保険に含まれていない点は、さらに患者と医者の関係を悪化させる外部要素として働いている。

大きな病気にかかった場合、家族の全財産を投入しないといけないケースすらある。これはただ中国の問題ではなくて、アメリカなど、医療が民営化されているところでも、よく起きている問題である。中国型社会主義を唱え、小康社会を目指している中国だとしても、医療格差、教育格差を短期間で縮めることは、なかなか難しいことである。

このドキュメンタリーを観て、国民皆保険制度が整えている韓国や日本の保険制度を守ることが、どれほど重要であるか、再び認識するようになった。日韓両国は、少子高齢化が進むと、財政圧迫による保険の民営化等による修正が不可抗力である。最近問題となっている外国人による医療観光により、国民皆保険制度に穴ができて、それを維持できず、近い将来には医療保険制度を民営化しないといけない日が来るかもしれない。

一方で、中国は、このような医師に不利な状況が続くと、医師たちは海外に行くか、製薬会社や医療機器の会社などに転職する等、さらに医者が不足する可能性があるのではないかと、考えるようになった。

予想をはるかに超える秀作であったので、彼女の努力と才能に驚いた。彼女はこれから日本で働くことになるので、彼女の活躍を大きく期待している。ドキュメンタリー監督として、撮影する人、テーマに対する、執念と熱情がないと、観客に感動を与えることは不可能である。その面において、彼女は素晴らしいジャーナリストになれるはずだと考えている。まさに「渾身の作品」である。

お陰様で、とても意義深い濃い経験ができた。そして何よりも、考えさせられた。ありがとう。

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