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vol.1


ゴダールの映画を観ながら眉毛を脱色していた。

女の子がローストビーフを焦がしていた。子どもがほしいと言う。彼女は天真爛漫で愛らしいが、みていると胃がむかむかしてくる。冷蔵庫にあった白ワインを彼のマグカップについで飲む。酸味を感じる。眉尻がぴりぴりしてきた。わたしも彼に子どもがほしいという日がいつか来るのだろうか。

明日の仕事に行きたくない。どうしても行きたくない。物事において全て感覚的なわたしにとって精密さが必要な今の職業が合わないことなんて分かりきっている。なぜそこで働くのか、働くことの意味とは何なのか。女の性根が腐った部分を煮詰めてミキサーにかけてミンチにしたような魔女の巣窟に通うことがわたしにとって必要な時間だとは思えない。人生の時間を犠牲にしている。そんなことよりもっと遠くに行ったり美味しいものを食べたり美術館に行きたい。金色になった柔らかい眉毛をなでる。

18:30…。料理を作り始めないと。彼から電話が来る。「作り始めた?」首から上が熱くなってきて、頬が乾燥し始めているのがわかる。隠しカメラでもついているのかと思う。口の中に白ワインの酸味を感じた。キッチンに立って包丁を取り出し野菜を切り始める。つま先が冷たくなってきた。早く帰ってきてと伝えた。

明日は絶対に仕事に行きたくない。早起きなんて嫌いだ。髪をオレンジ色にしたい。エターナルサンシャインのクレメンタインや、フィフスエレメントのリールーのように。そうすればわたしも自由を手に入れられる気がする。そうだわたしはいつだって自由なはずだ。

窓を開けると、冷たくて乾燥した夜の冬の匂いがする。わたしはこの匂いを愛して止まない。この匂いの香水を作りたいくらいにだ。

わたしも彼に子どもがほしいと言う日が来るのだろうか。ぶつ切りの音楽が脳内に響いた。

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