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すすきのの夜に

筆者は童貞である。1度もそのようなことをした経験がない。非常に恥ずかしい告白を冒頭にしているが、別にいいんじゃないかなどと考えてしまうのだ。そんなことは置いておいて...

赤線・青線

昔、日本には「赤線」「青線」と呼ばれる場所があった。日本が戦争に負けた1945年、日本を統治した進駐軍、いわゆるGHQ(連合国軍総司令部)は、これまであった公娼制度なるものを廃止させた。
しかしながら、売春行為は「私娼」との形で続くこととなる。その際、警察がとある区域を区切り、その区切りが赤色だったことから「赤線」と呼ばれるようになったのだ。ここでは自由な意志のもと、売春が行われていた。
この赤線にあたる場所の1つに、札幌最大の歓楽街、すすきのがある。すすきのは「薄野」と書かれていた通り、ススキが生えていたともいわれている。すすきのには以前、遊郭があった。すすきの遊廓として有名である。度々すすきの足を運ぶが、まさかこんなところに遊郭があったんだなぁといまだに信じることができていない。
本稿は、昔の赤線だったあたりで飲むというのが趣旨である。なぜか自分のポケットにはなぜかコ◯ドームが入っている。買ってきたばかりの新品同様である。パッケージも一切開封されていない。

「どこで飲もうかな?」

そう考えて、あたりの居酒屋を探していた。しばらくするとあった。あった。良い居酒屋だ。外観はあまり綺麗なものではなかった。ただ、筆者の考えは「ビンビン」当たる。そういう店だからこそ、味は格別だと。
潜って中に入ると「へい、いらっしゃい」と大将が声をかけてくれた。

「瓶ビールをお願いします」

そう話すと、サッポロ黒ラベルがお出迎えする。グラスにビールを注ぎ、一気に飲み干す。至福の瞬間だ。お通しはポテトサラダ。また、これがうまいのである。

とある女性が...

しばらくすると、店内に女性が1人入ってきた。筆者よりも少し年上に見える女性である。

「生ビールお願いします」

女性はそう言うと、運ばれてきた生ビールをごくごくと飲んでいた。まるで「女酒場放浪記」に出てくる女性のようだ。
少し様子を伺っていると、女性の方から筆者に話しかけてきた。

「どうされましたか?」

「こういう雰囲気の店は、なかなか女性にとって、入りづらいんじゃないですか?」

「私、好きなんです。こういうお店。きれいなお店も行くっちゃ行くんですが、そればっかり言っててもつまらないじゃないですか」

「こんな雰囲気のお店の何が良かったりします?」

「外観はなかなか重い雰囲気ですが、中の料理はまた別なんです。本当においしいですよね」

話は弾むはず。また初対面ではないほどの喋りようである。

「お兄さん、これから何か予定はあるんです?」

「いえいえ、何も予定はありませんよ。どうしました?」

「ほんとに?お話を聞いて欲しいんです」

「はあ、お話とは」

「それは次の店に一緒に行ってからしませんか?」

「いいですよ」

こうして、筆者は女性と2人で、すすきののとあるバーに足を踏み入れた。筆者はこのまま大変なことに巻き込まれるのではないかと頭の片隅に不安を抱きながら、そのバーに向かった。
バーの店内には2、3人の客がいた。端っこの席に空席があり、私とその女性は奥に通された。

「何にしますか?」

と聞かれ、メニューの目に付くところに書いてあったとあるカクテルを頼んだ。

「私もそれにします」

女性も同じカクテルを頼んだ。女性と乾杯を交わし、さぁ、何が始まるのかと身構えていた。何か自分に危害を加われてしまうのではないか。不安がさらに高まった。
すると女性は話し始めた。

「さっきの相談なんですが...」

「はい。何かあったんですか?」

「親のことで相談がありまして」

「親ですか?」

「はい」

女性によれば、女性の母親、そしてその姪の仲が大変悪く、相当険悪な雰囲気になっているのだという。女性はその状態が大変嫌で、自分がなんとかしたいと思っているが、なかなか行動に移せないと打ち明けた。

「どうしたらいいんでしょうか?」

筆者は困った。ほんとにどうしたらいいか筆者もわからなかった。じゃあどうしようか。そこで心に決めた。一緒に女性について掘り下げて聞こうと。女性の内心に迫っていこうと決めたのだ。

「その状態はやっぱり解決しなきゃいけない問題なんでしょうかね」

「はい。私にとっては家族みんなが幸せでいるほうがいいんですよ。家族円満の方が世の中的にはいいっていうじゃないですか」

「お姉さんは平和主義を好む感じですか?」

「そうですね。私はそういうことが嫌いで、みんなが幸せに生きている方がいいんですー

「さっきからお姉さんと話していますが、お姉さんは周りから影響を受ける感じじゃないですか?」

「どういうことですか?」

「みんなが笑顔だったり、楽しかったりすると私も楽しいみたいな」

「あぁ、それはそうだと思います。お兄さんの言う通りです。だから、家族と喧嘩をしたら、私は辛いんです」

「みんなが仲良いほうがいいかなと思っているわけですね」

「そうです。私の心は大きく傷つきました。それで毎日夜な夜な飲みに出ているんです」

「ちなみに、お姉さんは、お仕事、何をしているんですか?」

「事務員をしています。毎日楽しくないです。お酒を飲んでいる時が一番楽しいんです」

「何が楽しくないんですか?」

「上司とあんまり合わなくて」

「何が合わなかったんですか?」

「考え方ですかね。会社にとっての目標とか、社員それぞれが持っている目標とかが合っていない気がして、なかなかコミュニケーションもうまく取れていないんです」

こうして、夜は更けていった。まるで、とあるカップルの会話のような時間が長く長く続いた。

翌朝

翌朝、筆者は自宅で寝ていた。布団に横になりぼーっとしていたのだ。その傍らには、昨日、ズボンのポケットに入っていたコ◯ドームがあった。それは、5個入っているはずだった。朝には、4つに減っていたー。

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