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Betrayer [裏切り者] 3

一度自分のキャビン(部屋)へ帰り今日の書類をまとめてから足早に彼のキャビンへ向かった

ゲストレストランでアシスタントマネージャーとして働くDavid も、ちょうど終わった頃だった

Josh 『おつかれ! 今日も忙しかったか?』

David 『あぁ、まぁな』

Josh 『それより、Kimiは大丈夫か?』

David 『あと、30分くらいしたら仕事が終わってここへ戻ってくるから、Crew Bar へ行かないか?』

僕は普段 Crew Bar に行くのが嫌いだ
何故ならpick up bar (女性を引っ掛ける場所)としてみんなに認識されてるからだ

Josh 『あそこは人もいてうるさいから、オープンデッキへ行こう』

David 『それもそうだな』

そして、口数も少なく二人でオープンデッキの人気の少ない場所へ向かった

Josh 『昨日は何があったんだ?』
僕の彼女Marina からあらかた話は聞いていたが
本人からちゃんと聞きたかった

David 『Kimiとの関係は終わったよ』

Josh 『え?そうなのか?』

David 『あぁ、もう修復不可能だ』

Josh 『....... 』

David 『Kimi が最近様子が変なのは話したよな?』

Josh 『あぁ、最近なんだか冷たいって言ってたな』

David 『あぁ、そうなんだ それで、昨日の昼休憩の時に携帯をキャビンに忘れたフリして彼女が帰ってくる前に録音ボタン押して置いておいたんだ』

Josh 『は?盗聴したのか?』

あまりにもびっくりしすぎて
思わずDavid の顔を覗き込んだ

David 『あぁ、いけないとは分かっていたが、いてもたってもいられなくなって...』

Josh 『で?何か録音されてたのか?』

David は声もなく頷いた

David 『 Kimi はバーテンダーの Chrisと話してた 明後日ののEmbarkation day(ゲスト乗船日)でCityで待ち合わせする約束してたよ』

Embarkation dayとは、お客様が入れ替わる日

レストランセクションは毎日どんな日だろうと休みがないので、ホームポート(港)に着くEmbarkation dayと島に停泊するport day の午後2時頃までだけクルーみんながシフト制で休み時間をとっている

そこではたらくDavidとKimiはカップルなので
休みを合わせることも可能だが、マネージャーであるDavidは船に残らなければいけない日もあり、最近Kimiと船外へ出かけていなかった

バーテンダーの Chris はメインで働くのは夜
Embarkation dayの船が動き出すまでの時間はいつも空いていた

Josh 『え?なんだって? あいつらいつからそんな仲に... たしか Chrisってジャマイカに妻子いたよな?』

David 『あぁ、そうらしいな』

Kimi はDavid との仲が退屈になってきたらしく、だから最近触れられるのも嫌がってたとDavid からは聞いていたが、ほかに会ってる奴が居たなんて...

Kimi が職場に戻ってきてお客様への食事の準備してるのを見計らって、David はキャビンに戻りその場で携帯確認したら2人の会話が録音されていたらしい

David 『録音聞いた時は、何がなんだか分からなかったよ それから自分でもどうやって持ち場に戻ったか覚えてないんだけど、気づいたらレストランでアナウンスするマイクに向かって、録音した音声を流してしまった』

Josh 『え⁉️なんだって⁉️』

David 『君はツアーデスクだからその時間何が起こったか知らないと思うけど、Hotel Director(支配人)が僕のところ飛んできて、携帯を没収された...』

Josh 『.... なにやってんだよ‼️... Kimi はどうしたんだ?』

David 『Kimi も飛んできたよ』

Josh 『だろうな... 』

David は昨日のディナーの時間の一部始終を話してくれた

まだ沢山のゲストが食事中ではあったが、支配人にDavid とKimi は呼ばれ、事情を全て話したらしい

ゲストは何が起こってるのかさっぱりな状況ではあったが、マネージャーによって謝罪のアナウンスがなされ、心配させないような心配りが施された

しかし、勝手にアナウンス室で訳もわからない盗聴記録を流した罪は重く、しかもそんなものを他のクルーにも聞かれた Kimi も Chris も穴があったら入りたい状況だっただろう

長いこと支配人とミーティングが行われた結果、マネージャであるDavidは船にこのり、Kimiはすぐにでも船から降りるといいだし、明後日のEmbarkation day (船がHome Portにつきお客様が入れ替わる日)で Sign off(契約終了)し、インドネシアに帰ることを選んだ

一方Chrisも同じ日に下船するのだが、他の船へ移動になった

あんなことがあってからじゃ、この船には居れないだろう 妥当な判断だったと思う

Josh 『大変だったな... Kimiとも二人で話したのか?』

David 『あぁ、話したよ キャビンも昨晩バラバラにする様にKimiが要請したから、明後日まで別々だ それで、当然だけど別れる事になったよ』

Josh 『そうだったのか... 』

David 『お前とはMarina も含めて楽しい時間を過ごせて楽しかったんだけどな...
今回のContract (契約)で初めて仲良くなったけど、ずっと長い間親友だった気分だ... 』

Josh 『オレもだよ、お前とは母国は違えど仲良くしてもらって楽しかったよ ここまで仲良くしてくれたのもお前が初めてだ』

David 『オレが他のキャビンに移動になったから、これから荷造りするんだ だから、早めに戻るよ』

Josh 『そうか、わかった... 明後日は見送りに行くからな まぁ、明日の夜も時間あけれるから最後にお前のキャビンで一杯最後に飲もうや』

David 『おぅ、わかった じゃ、俺先行くな... 』

そうやってDavid は荷造りを済ませるため彼女との部屋へトボトボと戻っていった

最近二人の仲が冷めきってるとは本人も言っていたが
昨晩こんな事件になってたなんて...

母国に家族を残してきてるクルーが、船上でだけの彼女を作るのは日常茶飯事

Joshが船での仕事を始めた頃は、そんな人が沢山いる事に驚いてたが、もう15年もship life を経験してるとそんな事では驚かなくなっていた

ただ、今回は親友の身に起きた事と、夫婦で船上生活を共にしているのに、その彼女が同じ船上で浮気をしていたなんて、そんな大それたこと一度も聞いたことなくて、昨日僕の彼女から聞いた時点で半信半疑だったのだ

それから自分もMarinaの待つ自分のキャビンへ戻り、ちょうど仕事を終えた彼女にDavid と話をしてきたことを伝えた

Marina『Davidどうだった?』

Josh 『昨日君が話してくれたこと本当だったんだね Kimiがそんなことしてたなんてびっくりだよ』

Marina 『そうよね。。。でも周りの人はそんなにビックリしてなかったわ』

Josh 『え?そうなのか?』

Marina 『私の同僚はKimiのことGold Digger(お金目当て)だから、家買ってもらって飽きちゃったのよって言ってた。。。』

Josh『は?そんなふうには見えなかったが。。。女って怖いな。。。』

Marina 『私は違うわよ!! あなたの事心から尊敬して愛してるわ』

Josh 『ははっ、わかってるよ♡』

そうやって、いつものようにたわいもなくじゃれあって1日を終えたが、改めて女性とはしたたかで、何を考えてるか分からない生き物だなと複雑な気持ちになった

それと同時に、Davidの気持ちを考えるとますます可哀想な結末になってしまったと深く彼に同情していた

次の日のEmbarkation dayでKimi とChrisが下船し、一ヶ月ほど月日が流れたある日、仕事を終えてキャビンに戻ったら、Marina が静かに泣いていた




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