私の小学校時代の思い出~没原稿供養~

※登場人物紹介
・rei…特別支援学校に通う小学4年生。当時は1切喋れず唖者と思われていた
・ケイサン…同級生の友人。頭が良く力も強いが計算が全くできない
・ムシ君…同級生の友人。虫にしか興味がなく、家庭事情が芳しくない

●授業中のできごと、勉強、学校生活、帰り道に石を投げられる2

事件以降、通学路で表立って小突かれたりする事は無くなった。私達も放課後はしばらく学校に残って同世代の子供達との下校時間をズラす等の対策を取るようになっていった。しばらくはこれで上手く行ってたが、やがて重大な問題の発生に気付かされた。小学校低~中学年より下校時間の遅い小学校高学年女子との鉢合わせである。小学校高学年においては女子の方が成長が早いので男子より力が強いが、加えて女子には男子と違い暴行の手加減がなかった。全力で石を投げつけてくる。男子より力の強い人間が全力で私達目掛けて複数で石を投げつけてくるのである。私はどうしていいか分からず、下校時は防災頭巾を被るようになっていたが、いつかは殺されるか、それに準じる被害を負うのではないかと確信していた。


そして、その時は(たしか)小学校四年生の時に訪れた。ある日、学校に来たらムシ君の左目が黄色く濁っていた。同世代の女子達に投げられた石が目に入ったということであった。すぐさま医者に見せなきゃと思ったが、しかしムシ君の親は事件以降ムシ君に…もともともそこまで有情ではなかったが…非情になっており、確証はないが最低限の手当てだけでキチンとした治療をされなかったのだろう。日を追う毎にムシ君の眼球には赤いような黄色いような粘膜に覆われていき、何が起こってるのかサッパリ分からないながら子供心にも、ただならぬ事態に陥ってる事が直感出来た。今にして振り返ると、あの時のムシ君に起きていたのは確証はないが眼球の外傷に伴う角膜の混濁化といったところなのだろう。とにかく私達は石が目に入り目に傷が出来たのが原因とまでは分かっても、どうする事も出来ず、とりあえず毎日保健室からガーゼをくすねては新しいガーゼに取り換えていた。


「い、医者だ。い、医者に治してもらうしかない」、ケイさんは日々悪化していくムシ君の眼球を見ながら、そう結論を下す。先生や保健室の先生?に相談したものの、先生は「親に言って病院に連れてって貰え」と言い、保健室の先生も「病院に行け」と言うだけで、何もしてくれず、また私達の手当てでは当然ながら悪化するばかりだったからだ。当時はそんな先生方を「使えない人間だ」と思ったものだが、今から思えば勝手に医療行為をやるわけにいかないし、直接的に病院にムシ君を運べば家庭の事情から種々の問題が生じそうなので、そう言うしかなかったのだろう。そして私達は病院に行く必要がある事は分かったものの、そんな金がない事に絶望していた。これも今から思えば、通常の学校は登下校中の事故及び校内や学校行事中の事故については学校単位で保険に入っており、ムシ君の怪我も保険の適用範囲内であるはずだった。しかし、私達はそれを知らず、またムシ君の親もどのような意図によるものか今も不明だが、とにかく使おうとはしなかった為、私達は「金がなければ治療を受けられない」と思い込んでいた。

私が金策に4苦8苦(本参照)してる頃、ケイさんはムシ君の目を潰した女子達に治療費を請求するという手段にでていた。

ケイさんがムシ君の目を潰した女子達を見つけてどうなったか?について、ケイさんとムシ君、女子達は全く違うことを語った。


まずケイさんの話によると、ケイさんはムシ君の目を潰した女子達をどうやって探したらいいか困って途方に暮れて「で、でてこい!で、でてこい!い、石をなげたやつだ!」とヤケクソで叫びながらウロウロしていたそうであるが、それは女子達が「ムシ君の目を潰した後も尚も石を投げる事を止めなかった」事であっさり解決した。ムシ君と一緒に通学路をウロウロし、人通りのない裏路地に入ったら向こうの方から石を投げてきたということである。ケイさんは「お、お前かぁ!」と大声をあげて即座に石を投げ返して女子達の動きを止め、そのまま「うぉぉぉぉ!」と雄たけびを上げて突進して女子を転ばし、その女子のランドセルを開けてノートを抜き取り「お、おぼえたぞ。お、お前は××小学校×年×組のフルネームだな!××小学校×年×組のフルネームだな!!」と逃げても意味がない事を伝えた。そしてムシ君のガーゼを剥がし、その赤黄色い粘膜で覆われた眼球を見せて女子を威圧し「お、お前のせいだ。ち、治療費を出せ」と奪ったノートをランドセルに戻しながら迫ったところ、女子は泣き叫びながら石で思い切りケイさんをぶん殴り始めたという。流石のケイさんも第二次性徴を迎え、更に一切手加減してこない相手複数に勝てるわけがない。ケイさんは亀のように蹲りながらも「ち、チリョーヒ!」と言い続けて女子1人の足首を掴んで離さず反撃…しようとして近所の大人が止めに入ったそうである。


「ま、負けたわけじゃない」とケイさんはアチコチ内出血して赤紫色に腫れあがった顔で必死でそう主張した。ムシ君は「でも凄く大きな悲鳴をあげてたよ?」と心配そうに言うと、それでもケイさんは「しょ、しょうこもある。い、今は見せられない」と強がった。


次に先生の話によると女子達は次のように語ったという事であった。通学路で石蹴りして遊んでいたら、それがあらぬ方向に飛んで行ってケイさんに当たってしまい、ブチ切れたケイさんに石を思い切り投げつけられ、逃げようとしたものの1人が転んでしまい、その女子にケイさんが襲いかかった為に引きはがすべく必死になっていた…という事であった。ケイさんは先生がそう話す中、ただ黙って腕を組みジッとしていた。勿論、この話はケイさんのそれと全く違うストーリーが展開されている。しかし、それでも尚、ケイさんは何も言わずに黙り込み、先生と女子達の親に呼び出されて怒られたさいも、ただひたすらに沈黙していた。結局、この件はケイさんの普段の態度もあり、ケイさんの癇癪として片付けられてしまった…わけでは無かった。ケイさんは「しょ、しょうこだ」と今度こそ自然な笑顔を浮かべた。


この事件には目撃者が複数いた。ケイさんはそれを見て、自分が事あるごとに叫んで悲鳴まであげ、そして女子の足首を掴むだけで反撃しなかったのは、目撃者をなるべく増やす為だったと明かす。「あ、あいつらは俺が叫ぶと逃げるが、と、遠くからいつもチラチラを俺を見るんだ。だ、だからあいつらはいないように見えて、ちゃ、ちゃんと見てる。そ、そういう習性があるんだ」と一般人の習性を利用したとムシ君の好きな虫の習性になぞらえて得意げに私達に語っていた。これにより再び先生と女子達の親及び女子達が収集されたが、女子達は相変わらず「石で遊んでいたら手が滑って当たったのかもしれない」「ケイさんは掴んだ足首に爪を立てていた」と上記の話を細部を変えて繰り返すだけであったが、ケイさんが女子のランドセルを開けさせて、密かにあの時に開けたランドセルに仕込んでおいたムシ君のガーゼを、ランドセルの蓋の裏に貼られていた時間割?の隙間から取り出した事が決定打となる。女子達の話にはムシ君が出てこず、またケイさんが「チリョーヒ」と叫んでいたのを聞いていた人間が多かったからだ。そして私が普段から防災頭巾を被っていた…つまり私達は日常的に石を投げられる危険性がある…という事も加わり全てがひっくり返った。


私達三人はこの結果に浮かれに浮かれた。勝利を祝うべく、私達三人は私が(本参照)で稼いだ2000円を手に取って、ガチャポンを回してはカプセルを開けずに遠くに投げたり、互いに投げてぶつけて遊ぶという今から振り返っても意味不明な遊びをした。恐らく喜びのあまり身体がソワソワし、とにかく何かして発散したかったのだろう。ガチャポンの中身が入ったカプセルを遠くに投げる瞬間、謎の多幸感に襲われた事を今でも覚えてる。


しかし私達は肝心な事を忘れていた。女子達が普段から石を投げていたこと自体は証明されたものの、その女子達がムシ君の目を潰した事までは証明されてはいなかったのだ。なにしろ石を投げつけるないし暴行を振るうのは、先の女子達に限った話ではない。「石を投げた事はあるけど、その事故について私達は知らない」、そう言われればどうしようもなかった。結局、ムシ君の左目は失明した。

※この記事は「生きてるだけで、疲労困憊。」の没原稿を1部再構成したものになります。P37辺りの出来事です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4040646029/ref

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