女性の発達障害事情からみる女性の共感力の内実
「男性は目的解決を志向し、女性は共感を志向する」「女性の方が男性より共感力が強い」というのは、広く言われている俗説である。例えば5chのコピペには以下のようなものがある。
女『車のエンジンがかからないの…』
男『あらら?バッテリーかな?ライトは点く?』
女『昨日まではちゃんと動いてたのに。なんでいきなり動かなくなっちゃうんだろう。』
男『トラブルって怖いよね。で、バッテリーかどうか知りたいんだけどライトは点く?』
女『今日は○○まで行かなきゃならないから車使えないと困るのに』
男『それは困ったね。どう?ライトは点く?』
女『前に乗ってた車はこんな事無かったのに。こんなのに買い替えなきゃよかった。』
男『…ライトは点く?点かない?』
女『○時に約束だからまだ時間あるけどこのままじゃ困る。』
男『そうだね。で、ライトはどうかな?点くかな?』
女『え?ごめんよく聞こえなかった』
男『あ、えーと、、ライトは点くかな?』
女『何で?』
男『あ、えーと、エンジン掛からないんだよね?バッテリーがあがってるかも知れないから』
女『何の?』
男『え?』
女『ん?』
男『車のバッテリーがあがってるかどうか知りたいから、ライト点けてみてくれないかな?』
女『別にいいけど。でもバッテリーあがってたらライト点かないよね?』
男『いや、だから。それを知りたいからライト点けてみて欲しいんだけど。』
女『もしかしてちょっと怒ってる?』
男『いや別に怒ってはないけど?』
女『怒ってるじゃん。何で怒ってるの?』
男『だから怒ってないです』
女『何か悪いこと言いました?言ってくれれば謝りますけど?』
男『大丈夫だから。怒ってないから。大丈夫、大丈夫だから』
女『何が大丈夫なの?』
男『バッテリーの話だったよね?』
女『車でしょ?』
男『ああそう車の話だった』
このコピペは正に上記の俗説をネタにした「共感を求める女性と解決を求める男性のスレ違い」を描いたものだろう。そして、これがコピペになる程度には上記の俗説は「男女あるある」として受容されている。
これを裏付ける科学的な研究としては、2009年にカナダで行われた調査では女性は共感指数は高く、男性はシステム化指数(システムを分析、検討し規則を探り出す、あるいはシステムを構築する傾向)が高い事が示唆されていたり、2003年にsaimon baron cohenによって行われた研究レビューでは女性が目(の画像)だけで感情を推測するのは得意なのに対し、男性は抽象的なシステムの理解や構築が得意な傾向があることが示唆されている。
こうした男女の志向の違いにより、共感が困難な障害とされてきた自閉症は「極端な男性脳」とも言われ、長らく定説とされており、また女性の自閉症が少ない原因だと考えられていた。(男女比4:1)また自閉症と併存率が滅茶苦茶高いADHD(ADHDの人間は59~83%と極めて高い確率でASD及びその傾向を有し、またこれは異なる障害の重なりなのか、それとも共通の遺伝 的又或るいは障害的基盤を有する群の表現型が異なって評価されてるに過ぎないのかは議論あり)や、学習障害や知的障害などの他の発達障害全般においても、男性の方が比率が高い傾向にある。
(出典https://www.spectrumnews.org/news/gender-disparities-in-psychiatric-conditions/)
しかしながら、近年そうでもない可能性が多々指摘され始めており、例えば成人期ADHD患者を対象とした11試験の世界規模のメタ回帰解析によると、ADHD患者の男女比は年齢とともにその差が縮小し、19歳以上の成人においては男女比は1.6:1になったという。また自閉症においても「未診断だが脳の状態を見たり、ヒアリングしてみると自閉傾向のある」女性当事者の存在も指摘されつつある。
これらの原因として従来は「女性は共感性や社会性が高く、発達障害症状を有していてもソーシャルスキル(コミュ力)により目立ちにくい」と言われてきた。また以前から自閉症男性と比して、自閉症女性の鬱病率及び自殺率の高さが指摘されてきたが、上記の説と合わせて「女性は共感性や社会性といったソーシャルスキルで自閉症状を有していても、周囲に溶け込むことが出来るが、そのせいで多大なストレスに苛まされてる」とも言われた。
しかし、近年の研究では「女性当事者と男性当事者のソーシャルスキルに有意な差はない」ことが明らかになっている。例えば「女性は共感性や社会性が高く、発達障害症状を有していてもコミュ力により目立ちにくい」説が正しいか確認すべく、5〜10歳のASDを調査して自閉症傾向をはかるテストをさせた結果、性差として男性はジェスチャーが苦手な1方、女性は表情が読めない傾向があったがコミュ力総体は差があるか微妙だった研究がある。こうした事から近年では女性自閉症の見えにくさの説として「自閉症の基準や臨床像が男性のものであることを前提に作られている」「女性は自閉症遺伝子が発現しても表に出にくい」とも唱えられている。
これに対し近年指摘されているのは「女性当事者は独特の社会的圧力により適応させられるのではないか?」という説だ。例えば研究者が女性当事者をソーシャルメディアサイトで募集し面接した研究では、女性当事者は「(定型)女性に虐められたうえに悪者にされる」「友人の排他的な注意の欲求で詰められる(原文はexclusive attention of a particular friend.所謂女性特有の派閥争いを指してる)」「誰かの噂やゴシップについて上手く対応出来ないと自分がターゲットにされる」などの独特の社会的圧力を経験したと述べた。また逆に男性社会に対して若い女性当事者の多くが「安心して友情を感じられた」と述べている。
(2020年4月28日修正、修正前の文はコメント欄にて)
この研究は「女性は共感性や社会性といったソーシャルスキルで自閉症状を有していても、周囲に溶け込むことが出来るが、そのせいで多大なストレスに苛まされてる」という説は因果が逆である事を示唆している。つまり多大なストレスに苛まされてるからこそ周囲に溶け込めてる可能性がある…と。
そして女性当事者の鬱及び自殺企図は定型と比べて滅茶苦茶高く、男性当事者と比しても尚高い。自閉症が自殺する確率は定型の10倍と言われているが、女性は更にASD・ADHDは自殺企図及び自殺率が高い事を示唆する研究がある。
この原因として唱えられているのが「女性社会の同調圧力」及び「女性1般の共感性の乏しさ」だ。1般的には「女性の方が男性より共感力が強い」と言われているが、近年においてはむしろ「女性は(男性と比して)自身とは異なる性向を持つ人間を共感せずに攻撃・排除する」事が示唆されている。
例えば、女性と男性に同性のルームメイトが違反行為をした場合、それに対する怒りの強さを報告するように依頼たところ、全体的に女性は違反に対して男性よりも強い怒りを報告した研究がある。また続けてロールプレイングシナリオを使用して、対立に対する主観的および生理学的反応の性差を調査したところ、女性は男性と比較して怒りがすぐに解消されず和解に時間がかかると報告された。
https://link.springer.com/article/10.1007/s12110-014-9198-z
また男女のコミュニケーション研究において、女性は男性より「会話の割り込み」をされる傾向があるが、男性より女性の方により多く会話の割り込みをされる事が示唆された。
また幼児期以降、女性は報復のリスクを最小限に抑え、他の女の子の力を減らす戦略を使用して競争するが、女性は6歳から他の少女の目標への直接干渉の回避、競争の偽装、コミュニティでの地位の高い地位からのみの公然の競争、女性コミュニティ内での平等の実施といった高度な政治を行い、気に入らない女性を排除する傾向があると示唆されている。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014292116300368?via%3Dihub
また囚人のジレンマゲームにおいて、男性とペアになった男性は、女性とペアになった女性のほぼ2倍の頻度で協力することも報告されている。
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0001691817305917?via%3Dihub
またTwitterにおいて女性へのヘイトスピーチの少なくとも45%は女性によって作成されており、カジュアルにも攻撃的にも相手に向けていることを示唆する研究や、2016年にBrandwatchが行った64.8Kの性別関連ツイートの分析によると、その数はさらに高く、女性から女性ヘイトスピーチの61.3%が生成されたことを示唆する研究もある。
また労働環境において、女性は女性上司の下では多大なストレスに苛まされる傾向がある事が報告されている。重要なことにこの研究は、個々の労働者の固定効果を制御し、労働者の仕事に他の変更を加えることなく、そのうえで監督者の性別の変化が労働者の幸福に影響を与えてる事が特定されてることである。また女性は職場で不条理に扱われる傾向が高い事が知られており、これが女性が組織内で男性によって人権がないようにに扱われるのか、それとも他の女性によって人権がないように扱われるのかは不明であったが、3つの補完的な研究全体で女性が男性よりも他の女性からより多くの人権剥奪を経験していると報告していたことが明らかになった。
これらの研究を総括するに、女性が共感力の高低は別として「自分とは異なる/気にいらない/劣位の相手に対して共感が乏しくなること」は間違いないと言えるだろう。そのうえで私の考えを述べると「女性は共感力が強い」というよりかは「共感させ力や志向が強い」ということだ。つまり同調圧力により、ある共感レンジに自他を寄せて「同じような人間」として共感しあっているのではないか?ということだ。
この考えを裏付けるか分からないが、京都大学の研究では従来共感性が乏しいとされてきた自閉症も同じような自閉症的な行動パターンを有するような人間にはよく共感する事が示唆されている。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141105_2.html
恐らく、自閉症に限らず人間全般において「自分と似た人間ほど共感を寄せる」のは間違いないと思われるが、女性は特にその傾向が強く、同調圧力を用いて共感を寄せ合う環境を構築する傾向があるのではないないだろうか?
そのような中で女性発達障害当事者は「異分子」として排除や攻撃されやすく、それ故に「抑うつ」して周囲に溶け込もうとしてしまう。。。それは適応の1つの形ではあるものの、生き辛さに直結してる。このような生き辛さが少しでも緩和する事を祈って記事を終わる事とする。
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