托卵に関しての覚え書き

 托卵は子供が父親であると信じている男性以外に、女性が別の男性とセックスし妊娠出産した場合によって発生する現象であるが、結論から先に書くと先進国調査における托卵率中央値は3.4% (N = 20,871, 95% CI: 3.12% to 3.61%)である。

 托卵率は研究によってバラツキがあり、最高は英国200人サンプルの30%で(Philipp, 1973)、最低はスイス1600人サンプルの0.8%だ。この高い数字は外れ値として、1般集団からランダムに2600人サンプル選択した最も信頼性が高いとみられるの英国の托卵研究では托卵率は3.7%であった。

 尚ランダム検査ではなく裁判によって…つまり夫が妻の托卵を疑って争いを起こした場合に…托卵が判明する確率はの中央値は16件の研究において27%だ。

 これを多いと見るか少ないと見るかは別にして、日本に当てはめればザッと30人クラスに1人ぐらいは托卵子がいて、男性の違和感の4分の1ぐらいは正しいという感じになる。

 また托卵には関して人類史においては普遍的に行われてた可能性が近年指摘されている。例えば2019年に研究者はヨーロッパにおいて托卵がどの程度行われていたかを推測すべく、ベルギーとオランダに住む現代の成人団男性513組を調査した。この男性達は法的な系図上の証拠に基づくと共通の父方の祖先を有しており、托卵のがない限りは同じY染色体を持っているはずである。しかしながらやはりY染色体の遺伝子型間突然変異では説明できない不1致が96件発見された。これは過去100人中6人ぐらいが托卵により違う父親によって育てられた事を意味している。

 興味深いのは96件の事例のうち25件は1人以上の追加DNA提供者(托卵もとの精子)のY染色体遺伝子型により、托卵が判明した際の家系図の正確な部分を更に絞り込むことに成功したことだ。これにより研究者は出生年や出生知や職業や社会階級も含む父方の先祖全員の家系図記録を入手し、托卵が何によって予測されるか?を調べる事が可能になった。結果、托卵の予測因子は「社会経済的地位」と「人口密度」である事が判明した。意外にも宗教や文化の違いにも関わらず各国間の托卵率に有意差は見られなかったという。

 托卵率は農民や裕福な職人や商人の間では約1%、下層階級の労働者や織工の間では約4%とバラつきがあり、また人口密度の低い町に住む中流から上流階級および農民の間では0.5%であるのに対し、最も人口密度の高い都市に住む社会経済的に低い階級では6%と凄いバラツキがあることが示唆された。このバラつきは上記の現代先進国における托卵のバラつきも、ある程度説明可能にすると思われる。

https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(19)31305-3

 とここまで読んでこう疑問に思った方は多いだろう。「托卵率が文化的規範ではなく社会経済的地位と人口密度に依り上下するなら、現代の人口密度と格差を踏まえれば托卵率は上昇傾向にあるのではないか?」と。その疑問の答えはYESだ。実は現代先進国研究でも托卵されるリスクが最も高いのは社会的経済的地位の低い男性であり、尚且つ少なくとも英国では托卵が増加傾向にあると認めている

 そして同時にこう思った方も多いだろう「現代の先進国研究と言うけどreiのリンク先の研究は2005年に発表された、それ以前の研究のレビューじゃないか。もっと新しい研究もあるのでは?」と。その答えは「もう出来なくなった」だ。

 世界的に托卵は増加している事が示唆されてる1方で、それらの調査研究に関しては物凄い逆風が吹いている。現在先進国におけるランダム調査の最新版は2016年英国の托卵率を過去研究をレビュー(not 実地調査)して2%とするものだが、その論文タイトルがコレだ。「人間社会では托卵は稀(Cuckolded Fathers Rare in Human Populations)」…これで全てを察せられるだろう。

https://www.cell.com/trends/ecology-evolution/abstract/S0169-5347(16)00070-7?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS0169534716000707%3F

 というよりアカデミアは明確に「托卵無罪」に舵を切り、客観的な研究や具体的数字を出すことを拒否してる。例えば2007年頃から医学アカデミアの間では「(托卵された)子供の利益にならない」事を理由に托卵に対する補償は正当性がないのでは?を主張するようになった。

https://philpapers.org/rec/DRAPFA

 医学がそうなのだから騎士総本山の人文学は言うまでもない。例えば最新(2020年)の哲学アカデミアでは「そもそも騙されたとは何か?托卵とは何か?」といった概念をこねくり回したあげく「DNA検査だけで父親を特定出来るという主張は出来ない」という結論を出している。何れも子供の利益や父親概念を押し出して、托卵された男性の心情や不利益といった男性の人権や、自分のDNAを残せないといった生物学的喪失についての言及を避けてるのがポイントだ。https://philpapers.org/rec/CUTDFC

 尚、余談だが先進国以外の地域では普通に遺伝子マーカー使った大規模な追跡調査が出来てたりする。

 また研究だけではなく法的にも逆風傾向であり、例えばフランス政府は現在フランス刑法第226-28条で父子鑑定を禁止し、裁判所の命令なしに父子鑑定する男性は懲役1年と1万500ユーロ(240万円)の罰金に科せられる。またドイツでは2005年に法務大臣が「父子鑑定は禁止すべき」と訴え、また2008年に「(妻側の)承諾なしにやったDNA検査は証拠品にならない」という判決が下された。尚ドイツは2008年に「家庭裁判所に訴えれば裁判によって検体採取の受忍を命ずることが出来るよ」と緩和だか禁止だかよく分からない法改正を行った。とりあえずドイツネイティブですら首を傾げる法律なので、非ネイティブな我々がその意味を理解するのは不可能だろう。

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000257_po_02350205.pdf?contentNo=1

 日本も例外ではなく、例えば2009年に東京高裁は元夫が元妻の托卵子を18年間実子として養育してきたことについて、元夫は元妻に対して養育費相当額の不当利得返還請求したものの却下している。裁判所の言い分は雑に言えばこんな感じだ。「言うても托卵発覚までは子供と結構仲良くやってたやん。それにより悩みや苦しみあるだろうけど親としての喜びや感動とかも貰ったはずやろ?せやから金銭はその代償と思っとき」

 因みに大阪高裁では別居中に元妻が「貴方の子供だから」と元夫から婚姻費用分担金として貰った養育費に関して不当利得とする判決を下している。実子誘拐→親権GETといい、日本の司法はどうも「子供と1緒にいるか否か?」を重視してるらしい。

 尚、例によってフェミニストは父子鑑定に反対している。なんでもDNA検査は反フェミニスト科学(DNA tests are an anti-feminist appliance of science)だそうだ。

https://archive.is/F07RN#selection-1099.262-1099.313

 さてここまで読んで皆様が知りたいのは「ではどういった女性が托卵するのか?」だろう。結論から言えば「人口密度の高い地域に住む複数の性的関係を持つ若い女性」だ。これは過去研究でも現代研究でも1致する傾向である。何故か?については単純に「不倫しやすい女性は不倫機会の多い環境=人口密度の高い地域だとそりゃ不倫する」以外の答えはない。

そしてまた「どうしてコレが犯罪じゃないんだ?」と思う方も多いだろう。事実先進国において托卵を違法とするのはテネシー州ぐらいであり、しかもそのテネシー州ですら「軽犯罪」とされている。その答えは言うまでもない。現代先進国において男性には人権がなく、女性が金銭その他リソースを男性から騙し取る事は悪とは見做されてない…少なくとも悪と見なさい女性が多いからだろう。実際頂き女子が逮捕された際は「被害者男性の方を収監しろ」というポストが10万イイネされたのは記憶に新しい。

オマケ・托卵率10%という言説について

この言説は主にこの記事の

夫以外の子を産むケースは、一般的には6%程度と言われているが、産婦人科医たちの体感としては「10人に1人くらいいるような気がする」とのことだった

https://news.yahoo.co.jp/articles/0cffa1efbfbd4a0ae175fc21c37e99cb4f674635

が拡散してると思われる。

また1996年に出版され、それなりに話題となったロビン・ベイカーの著書「精子戦争」でも托卵率は10%とする記述がある。

「世界中で血液型研究から、約10%の子供が父親だと思っている男性によっては実際に生まれていないことが計算されている(Worldwide, it has been calculated from studies of blood groups that about 10 percent of children are in fact not sired by the men who they think are their fathers.)」

 しかしながら著書ではロビン・ベイカーの主張する血液型研究の出展が確認出来ず、これについてどの程度根拠があるのかは不明である。1応反知性ネットワークからは「Non-paternity and prenatal genetic screeningじゃないか?」と回答があり、出生前遺伝子スクリーニングだと約10%程度の胎児に托卵可能性があるとの記述は確認された。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1681226/

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