赤いきつねと緑のたぬきとアナログ記録とデジタル保存 8(前回よりなお一層がっつりとしたエロネタ)

初出 2021年3月7日 Facebook

北海道に住んでいた頃、パソコン通信(インターネットではない)が世の中にじわりじわりと浸透しはじめた。

私は大手ではNiftyの会員だったのだが、そこに北海道フォーラムという北海道に関して雑談をする場所がその当時開設され、今で言うオフ会がほぼ毎週のように盛んに催され、数え切れないぐらい参加した。

会員の中には異様に広い家に住んでいる人もいて、時々その人の自宅マンションがオフ会の会場になることがあった。

その日、その人の家に向かうと、広いリビングの真ん中にテレビが置かれ、そのテレビにはテレビシリーズ(だと思う)のエヴァンゲリオンが流されていた。
よく見ると、テレビの映像は接続されたレーザーディスクの映像で、そこから出力された映像はVHSのビデオデッキに流し込まれ、テレビの映像は今送信されている映像の確認に使われていて、要はレーザーディスクからVHSにダビングする、という作業の真っ最中だったのだ。

家主は、今構えないので自由にしてて、と言いながら必死になって私の知らない誰かと一緒に二人がかりでダビングをしていた様子を覚えている。

映画などの映像作品はテレビで放送される時を狙って録画すれば保存することができるようになった。

音楽作品もFMのエアチェックや、今回の話の中には出さなかったがこの当時「貸しレコード屋」が出現してレコードやCDを借りてきてカセットに録音して手元に置いておくということができるようになった。

これらは、完全にコピーを作るわけではなく、一度出力されたものをもう一度保存し直すような、いわばアナログコピーであった。アナログコピーは必ず一定の劣化を起こす。なので、そういう観点から黙認されていたような当時の社会情勢だった。

しかし、アナログであっても動画を「複製」して手元に保存しておくには、まだまだ障壁があった。

動画に限らない。写真であっても入手はそれなりに障壁があった時代である。

北海道在住の頃、その手のエロ話を平気でできる友人がネットとは関係のないところで数人いた。

その友人のひとりから、

「東京に出張するの? だったらさ、大塚の×口の××っていう本屋さんで、適当に何冊か買ってきてよ最新版から。これ店の地図が入った会員証。多分スタンプで1冊もらえるようになると思うからそれももらってきて。店が消滅してたらこの話はなかったことにして」と誘いを受けたことがある。

この本、まぁ、その、俗に言う裏本、ビニ本だ。公序良俗に反するとされる性器の画像が隠されもせずに撮影されて印刷製本されているやつだ。

残念ながらGoogle Mapもない時代、不案内な大塚という街で、会員証にとても簡単な略地図しか書かれていなかった店の位置を特定することができなかったため購入には至らなかったのだが、裏本とはどういうものなのか実物を見たことがなかった私としては是非見てみたいと鼻息を荒くしていた。実際に見るためには自力で買うか谷村新司氏のコレクションを見せていただくか(博物館級のビニ本コレクションをお持ちだと伺う)か、裏本を持っている中のひとりにこっそり見せてもらうぐらいしか手立てがなく、購入できなかった事が結構悔やまれたものであった。

仮に誰かが非常に出来のいいビニ本を持っていたとする。それを自分も保存するには、カラーコピーを取るかもう一冊購入するか、そのぐらいしか選択肢がなかった時代である。

その当時でこそ10円コピーや大学の近くだと7円だったり5円だったりのモノクロコピーは普通にあったが、VHSが世の中に出回り始めた80年代当時はモノクロコピーであっても1枚50円とかした時代だ。久留米井筒屋(福岡県久留米市・現在閉館)の中に当時印刷とコピー専門のショップがあり、まだ個人の印刷やコピーに馴染みのない一般の私達向けにどのように使えばいいのかをレクチャするリーフレットが置いてあった。それに学生服を着た男子のイラストがあって、「コピーは1枚50円。試験の時は大助かりさ!」とか書いてあった。20枚コピーしたら1000円だ。よほど金のある人しか使えないじゃないか、と思ったものである。

今でこそとても画質のいいカラーコピーを1枚20円でコンビニで手軽に取れるようになったが、しかし今でもヌード写真は諸衆の目もあることだしおおっぴらにはコピーを取りづらい。

ましてや、動画はどう考えてもデッキが2台必要になるので、ダビングは困難だった。実際にダビングしようとすると冒頭のような光景になったりするわけでもあるし。

時制は多少前後するが、私が転勤という事態で北海道に移住するよりも前、まだ昭和の頃である。
私が行きつけにしていた西鉄久留米駅の裏手の方にあった個人経営の大掛かりなビデオレンタルショップは、再生専用ビデオデッキのレンタルもしていた。そのショップが、型落ちレンタル落ちの再生専用ビデオデッキを、確か4980円とかで台数限定で販売していたところにたまたま出くわした事がある。
50円のコピーでさえ高いと思う当時の私に4980円はなかなか思い切った金額ではあるが、しかし(これはチャンスだ)と即断した私は、すぐに購入した。

以来、私はレンタルしたビデオを全てダビングできる環境を手に入れたのだ。

冒頭のレーザーディスクの状況とは明らかに違う、一時凌ぎではなく、いつでもできるダビング専用の環境を構築したのである。

借りたビデオのダビング設定を登校前に済ませ、学校に行っている間にダビングを済ませるという寸法で、あっという間にU-NEXTのCMのようにエロビデオが溜まっていった。

貸してくれというやつもいたので、(今考えれば本来は金を介在しての貸し借りは違法だとは思うが)一泊30円で貸した。ダビングさせてくれというやつもいたのでテープは持ち込んでもらい、電気代の足しという名目で10円もらっていたが中にはカップ麺とかチョコレートとか10円よりも遥かに価値の高いものを持ってくる連中もいた。それだけの事をしてでも、どうしても保存しておきたいものがきっとあったのだろう。今にして思うと明らかな違法行為(ダビングが、ではなく、自分が著作権を持っていないモノの貸し借りで金銭の授受をすること)であるのだが……

しかし大袈裟な言い方をすれば、当時の私の部屋はエロ動画専門のメディアセンターになっていたのだ。

(中途半端だけど長くなっちゃったのでここで次に続く)

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