赤いきつねと緑のたぬきとアナログ記録とデジタル保存(まさかこんなに長いシリーズになるとは自分でも思っていなかった)16

初出 2021年5月9日 Facebook

当時の私達が、エロは無料だ、と勘違いをしていた背景には、もう一つの、あの当時ならではのバックヤードがある。

突然だがBOBYと名乗る人物にご記憶のある方はいらっしゃらないだろうか?

名前に記憶がなくても、PGF、と言えば、ああ、懐かしいなと思う方も多かろうと思う。

PGFは photo gallery frontier の略で、BOBYを名乗る謎の人物が自分が関係を持った女性たちの無修正の写真(ときに音声や動画)を無料で公開していたサイト(※)である。

※厳密には違うが省略

まだスキャナが高価だった時代に、スキャンされた紙焼きの写真がJpeg画像として公開されていた。動画は当時の事実上の標準だったReal Player形式、音声はWAVEだった。

仮にその当時Googleがあったら、セーフサーチをオフにして検索すると簡単に探せるのだろうが、なにせ当時は検索のためには登録制のYahoo!しかなかった頃だ。アダルトの検索などは望むべくもなく、PGFが公開されていることを知ってはいても、そのURLが載っている雑誌か書籍か知人がない限り自力で探し出すことは困難だった。故に、すべてのPGFをダウンロードした後、自分のサイトに再掲載して大量の広告も貼って荒稼ぎをするような者まで現れた。

大元のBOBY氏のサイトはかなり早い時期に消滅してしまったのだが、広告を掲載してちゃっかり小遣い稼ぎをしようとしたサイトはなんと未だに残っている。広告のリンクは自動更新で今でも最新の動画を紹介する広告になっており、おそらくはSHIFT−JISの2バイト文字コードはUnicode全盛の今すべて文字化けしてしまっているのだが、しかしそれでもあの当時やっとの思いで探し出して猿のようにダウンロードしてうきゃうきゃ言っていた写真を令和の今でも見ることができるのだ。しかもあの当時続編なのかパクリなのかよくわかっていなかったPixyまでもが全種類コンプリートされた状態で残っている。PGFはあの当時あったCD-ROM付き雑誌にまでも転載されて販売されていたが一部の人が持っていたPixyについては当時は謎だったことを記憶なさっている方もいらっしゃるかもしれない。

今とは明らかに違う著作権などあってないようなエロの扱いと、検索すらままならないため黙っていればわからないという当時まだ闇が深かったインターネットの世界とが如実にわかる事象であろうと思う。

BOBY氏が何を思ってそれら大量のエロ写真をネットにばらまいていたのかは今となってはわからない。
モテ自慢なのか、技術力の見せつけなのか、それとも「違法だよ!あげるくん」のあげるくんのように「お手軽にエロい画像を見たい面々が喜んでくれるからボクは法を犯すのでぇす」みたいなノリなのか、そのどれとも違うもっと違ったベクトルがあったのか。

しかし、Nifty-Serveのような著作権に少々厳しいネットの社会を経由せず、いきなりインターネットからネットの世界に入った人たちからしてみれば、「インターネットの世界はこういうものが無料で公開されているんだ」とファーストインプレッションで思ったとしても、それがごく普通で無理のない環境だったとも言えるのだ。

このあたりは既に21年前に大変詳細な考察がなされたサイトがまだあるので、ご興味お有りな方は「BOBY PGF」で検索なさると読める。かなり上位に表示されるはずだ。

その考察によると、当時毎日新聞がかなり突っ込んだネットの著作権に関する記事を掲載したことが契機となって一部違法に転載して荒稼ぎをしていた人たちは逮捕されたりしたようだ。しかし本家のサイトが無料配布していたものを第三者や出版社が有料媒体に転載してしまっていた局面もあったので、マスコミとしても示しがつかなかったことだろう。

斯様に、デジタルコピーというものはそのイージーさとネット技術とによって、あっさりと世の中に蔓延してしまうという事をエロを介することでだんだん世の中が理解するようになってきた、そういう過渡期だったと言えるかもしれない。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?