赤いきつねと緑のたぬきとアナログ記録とデジタル保存(エロつづ ← こういう略し方をすると各方面に迷惑をかけるぞ多分) 7

初出 2021年1月23日 Facebook

都市伝説レベルの話かも知れないので明言はしにくいのだが、各家庭にVHSのビデオデッキが導入されだしたきっかけは、販売店が無修正のエロビデオをつけたからだという、なんとなく妙に納得できる話を皆様もどこかで聞いたことがあるのではないだろうか。

その中でも筆頭で有名なのは「洗濯屋ケンちゃん」だろう。

はっきり申し上げて、今改めて見てみると、決して佳作ではない。駄作とは言わないが、学生たちがノリで作った映像作品、に限りなく近いような気がする。

しかし、当時としては、有って無いようなストーリーとダビングを繰り返してもはや何が映っているのかわからないような滲んだ色味であったとしても、世の殿方達は家族が寝静まってからこっそりイヤホンを付けて見ていたに違いない。そう、声こそ出せないが心の中であのブルーフィルムのオッサンたちと同じような雄叫びを上げていたに違いないのだ。

エロ動画を入手する、そして、保存するというのは、やっと普通に家庭でも動画を取り扱えるようになってからでもそれはそれは大変なことだった。

家庭用のビデオシステムが発売されたのは意外に古く、1972年のことである。ナショナル(現パナソニック)が新聞広告として家庭用ビデオデッキ内蔵テレビの広告を打ったときのコピーは「私の家では『藍より青く』を夕食時家族全員で見ます」というものだった

これは説明が必要だろう。藍より青く、というのは当時放送されていたNHKの朝の連続テレビ小説だ。国民の大半が、とは言わないが、実感的にはそういうレベルでみんなが見ていたドラマだった。そもそもあの当時は民放の朝のワイドショーなるものもなく、共働きの主婦はまだ珍しく、朝子供を送り出すぐらいの時間にちょうどやっている朝の連続テレビ小説は朝の支度にバタバタ追われた主婦が一息つくのにちょうどよい存在だったのだ。

そのビデオ付きテレビシステムは当時の値段で40万円ほどだったようだ。当然ダビングなどということはできず、貴重なテープ(実はこのテープに関する情報がどこにも見当たらなくて困っている。パナソニックのウェブサイトにもaccの古い広告のアーカイブスや朝日新聞(広告が掲載されたのは朝日新聞だった)の当時の縮刷版にも詳細な情報は載っていない。もしご存知の方がいらっしゃったらご一報いただければ幸いである。私の予想ではUマチックのような気がするのだが…)を撮っちゃ消し撮っちゃ消ししていたのだろう。

それは別に家庭用に限ったことではない。
NHKでも、当時は「番組を保存する」という発想はなかったそうで、少年ドラマシリーズの不朽の名作「タイムトラベラー」も1話分しか残っていなかったのだそうだ。当時家庭用のビデオシステムを持っていた一般の人がたまたま数話録画されたテープを持っていて、そのテープを権利ごとNHKが譲り受けたというニュースを記憶している方も多いのではないだろうか。

さて、エロビデオである。
1980年代になって、映画業界の人々がどんどんビデオの可能性に賭けてビデオの世界に入ってきた。
代々木忠氏の著書「オープン・ハート」によれば、15分単位でマガジンを交換しなければならない映画の撮影と違い、ビデオならばその気になれば数十分の長回しも可能になるので、そうなると今までのいかにも演技なポルノ映画と違い、限りなく本物に近いものが撮影できるのではないか、と、ビデオ参入の理由を考えたのだそうだ。

まだアテナ映像が設立されるより前の話である。代々木氏は映画のビデオグラム(当時はそう言っていた)の販売経路などを活用してポルノ映画として撮影された作品ではなく最初からビデオとして再生されることを前提とした作品を広く販売しようとなさっている。しかし、かろうじて映画のVHS化はレンタルショップの台頭などで広まっていったが、1本15000円近くしたので簡単に購入してコレクションするというわけには行かなかった。ましてやエロビデオには「著作権なんかあってないような時代だった(同著による)」という時代背景もあり、激安の粗悪なコピーが市中に出回るという面倒な事態になったのもこの時代である。

では、世の方々は、どうしても保存しておきたい映画作品があった場合どうしたのか。
それがエロビデオではないならば、テレビで放送される時に「標準」で録画して、ラベルを貼って、爪を折っておいたのである。

U-NEXTのCMで、VHSテープに映画をたくさん録画してコレクションしている少年が出てくる。
「ザ・テレビジョン」のようなテレビ番組情報週刊誌に、その週に放送される映画のタイトルが予め印刷されたシールが付録で毎号ついていて、まっさらなVHSテープにその映画を録画したらきれいに印刷されている付録のシールをVHSテープの背に貼って保存していたのだ。
そういうものが用意されないマイナーな映画をきれいに保存したい場合は、レンタルショップの録画用テープの売り場にあったレタリング転写シールを使ったりもした。凝ったデザインを自分でする人向けのレタリング転写シールなるものが売られていた時代だったのだ。

考えてみれば音楽データもそうだった。ぴあやFM STATIONやFMレコパルといった雑誌にFMの番組表が掲載されていて、その番組の中で何の曲がかかるかが一覧になっていた。ぴあはアーティスト別のインデックスのページが別にあり、録音をしたいアーティストや楽曲をそこから見つけ出したら当該番組が放送されるときには録音をスタンバイしておいて曲がかかったらすぐさま録音をするというのがごく普通のエアチェックの楽しみ方でもあったのだ。

(続く)

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