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ありがとうパラソルサイダー、ありがとう桃井愛莉

 今年の年末年始はここ20年生きた中で最悪と言ってよかった。
 勿論悪いことばかりだったわけでもないけれど、それらを差し引いてもやはり過去最悪という評価は到底覆らないだろう。変なアカウントにTwitterアカウントとそのlitlinkをアカウント名を隠すこともなく晒されて年を越したかと思えば、正月気分もそろそろ終わるだろうという頃にここで内容を述べるのも憚られるほどの誹謗中傷と呼んで差し支えない匿名メッセージを受け取ったのだ。最悪の年越しと最低な年明けである。

 下がりに下がった気分を変えるべく、プロセカのイベストを読み進めたのが昨日のこと。そしてイベントストーリーを読み終えた後は対応楽曲のMVを見るのが常だった。
 昨日読んだのはMORE MORE JUMP!のイベント「青空の先、輝きを追いかけて」であり、対応楽曲は「パラソルサイダー」だ。ストーリー自体も当然良かったのだが、パラソルサイダーのMVを見た時になんだか無性に涙が出てしまった。なんとなく、「あ、自分、明日も大丈夫かもな」と思えた。

 このイベントで焦点を当てられているのは桃井愛莉だ。彼女は雫や遥といったオーラのあるアイドルとは違うけれど、それでも足掻いている中で自分の輝き方、自分を一番可愛く見せる方法を確立した。ダンスにおける表現が上手く行かないみのりにその方法を伝えた時、愛莉が自分ならこうしているとして実践して見せたのは「ファンと目があった時にウインクする」というレスポンスである。なるほど、みのりも言ったようにライブで好きなアイドルからこんなレスポンスが返ってきたならばたいへんに嬉しいものだろう、とその時は他人事のように思った。
 イベントストーリーでは、一番大切にすべきはファンとのコミュニケーション、つまりコールアンドレスポンスであること、ダンスの表現もファンに想いを伝えるために行うともっと良くなるということが描かれた。そのため、対応楽曲のパラソルサイダーの「君」はおそらくファンと解釈するのが最も矛盾がなく、悩んだり葛藤したりしたステージから降りた愛莉ではなく、ファンとコールアンドレスポンスを通じてコミュニケーションをするというステージ上のアイドル桃井愛莉に重きを置いたものとなっていると考えられる。つまり、この楽曲のMVはいわばモモジャンのライブであり、見ている私たちは彼女たちのパフォーマンスを見つめるファンであると言うことができる。
 さて、パラソルサイダーのMVではサビの直前に次のようなカットが入る。

「パラソルサイダー」MV(https://www.youtube.com/watch?v=KJI_3HaLtmc)の0:56

 先ほどの「MVを見ている私たちはモモジャンのライブを見に来たファン」という構図がこの楽曲で成立しているという話を踏まえれば、ライブで愛莉に指をさしてもらってかつウインクまでしてくれた、というとっておきのファンサービスの場面と言い換えてよいだろう。この時愛莉は、私たちに――私に、「見てくれてありがとう」とウインクしてくれているのである。
 愛莉からのこのレスポンスに、私はどうにも涙が止まらなかった。今彼女たちのライブを見つめる私のことを愛莉が真っ直ぐ見つめ返してくれたことがなんだか凄く嬉しかった。愛莉自身の語っていたこのウインクに込められている「見てくれてありがとう」の気持ちが、私にも届いたような気がした。自分の行動は誰かの反感や悪意を買ってしまうものなんだと俯いていた私に、愛莉からの「ありがとう」は深くまで沁みて、響いて、それが本当に嬉しくて、ドキドキした。今日は最悪だったけど明日は今日よりちょっとだけきらきらしているのかもしれない、そんな期待感で私の胸はいっぱいになった。

 私はもともとアイドルコンテンツ自体はかなり好きな方だが、勇気や元気をもらうのはアイドルがそのステージに立つまでに積み重ねた努力であったりステージに上がるにあたり固めた決意や信念であったりで、ライブシーンのファンサそのものに感動するようなことは一度もなかった。なんならファンに向かっての歌よりも自分の夢やそこに向けての気持ちを歌い上げる楽曲の方がはるかに好きだった。
 だから、パラソルサイダーの愛莉からのファンサにここまで心を動かされている現状が非常に不思議で、そこそこ長くアイドルコンテンツを好んでいながら初めての体験に少し落ち着かない。でも、気分はちっとも悪くない。私がこれまであまり好んでいなかった「カメラの奥のファン」を思い切り意識している楽曲なのに。アイドルに「ファンを見ていてくれてありがとう」と心から言いたくなったのは、初めてだった。
 また、今回の経験で、それまであまりピンと来ていなかったアイドルのライブに行きたいと思うファンの気持ちもようやく少し理解できた気がする。ステージのアイドルを見て明日を頑張る希望をもらうことって、自分にも起こり得るんだ。アイドルと目が合って、「ありがとう」ってウインクされることってこんなに嬉しいことなんだ。ステージに立つアイドルって客席から見てこんなにきらきら輝いているんだ。

 嫌なことがあって傷ついた気持ちそのものがなくなったわけじゃない。しばらくTwitterの鍵は開けられそうにないし、今にもまた悪意をぶつけられたらどうしようという恐怖心だって消えていない。それでも、ファンを正面から見つめて「ありがとう」と伝えてくれる桃井愛莉に救われてこちらも「ありがとう」と思ったこと、桃井愛莉のレスポンスに希望をもらったこと、これらだって紛れもない事実で、結局今日も「なんとかなるな、大丈夫だな」と思いながら息をしている。

 ありがとうパラソルサイダー。ありがとう桃井愛莉。あなたが私を見つめ返してくれたから、きっと明日は大丈夫な気がします。今日までアイドルでいてくれてありがとう。私に希望をくれてありがとう。私のアイドルになってくれてありがとう。ワンマンライブ頑張ってね。

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