長田様1枚目

自分の「道」をしっかり持って、人の道、世の中の道を踏み外さないように。単なる空手で終わると何にも残らない。 だから「空手道」でないといけない。

一般社団法人関西学生空手道連盟理事長
大阪経済法科大学空手部総監督
長田義行

―――まずはじめに、長田先生が理事長を務められている関西学生空手道連盟とは、どのような組織なのですか?

 全日本学生空手道連盟というものがありまして、北海道、東北、北信越、関東、東海、関西、中四国、全九州の8地区に分かれています。その中の一つが関西学生空手道連盟です。全日本学生空手道連盟は、空手道の大会を始めてから61年目になります。その長い歴史の中で、連盟の大先輩方が海外に出て空手道の普及活動をしてきました。今、世界各国で空手道が認知されている原点となる活動ですね。
 一方、公益財団法人の全日本空手道連盟も、その連盟の先輩方が尽力を注いで立ち上げたんです。ただ「空手競技」という、よりわかりやすい形で普及してきました。学生空手道連盟は、無骨に「武道」というものを物凄く意識してやってきたのですが、この4?5年でそれでは今のニーズにマッチしないという事になり、武道は武道として残しつつ、競技としても全日本空手道連盟と協力してやっていこうという形に変わりました。

勝つためにはどうするか、という競技としての空手だけでなく、「空手道」としての大切な事が失われることをもっと懸念する必要がある。

―――武道と競技との違いは具体的にはどのようなところですか?

 例えば、競技だとポイントの取り合いなのに対し、武道だと一撃で倒せる強さも求められてきます。あと、形をひとつとっても全く違います。競技としての形も一般の方が見るとわからないと思いますが、基本的に細かい一つ一つの空手道の形としての緩急のつけかたなどが全く違います。禅でいうところの静と動ですね。そういう意味では、今の日本人選手たちでも緩急が分かっている人は少ないのではないかと思います。逆に海外の方々はそういった日本の神秘的な部分に凄く興味を持っています。海外での空手人口は凄く多いんですが、実は競技に出ている方はごく一部で、あとの方は「空手道」として神秘性のある武道を勉強したいからやっているという方が多いです。日本人よりも形を研究している方がたくさんいる印象ですね。

―――各地域の道場などでは武道と競技ではどっち寄りなんですか?

 競技寄りでしょうね。学生空手道連盟のOBの方々は母校のために奉仕で学生達を教えています。ところが道場はビジネスですからお金を取っていかないと運営できません。そうすると完全に「武道」としてやってしまうと生徒が来ないんです。そして今は「オリンピックなどで勝たないとだめな競技」という風潮になってきていて、そのために道場に通うというケースも多く、どんどん武道としての空手道が消滅していっている印象です。せめて大学だけでも武道としての空手を子ども達に教えるようにしてくださいということを学生空手道連盟としても訴えかけていますが、なかなか難しいところがあります。
 教えることの出来る先生も少なくなってきているという問題もあります。先日も連盟の素晴らしい大先輩の一人、立命館大学の三本同さんが亡くなられました。関西学生空手道連盟と全日本学生空手道連盟の理事長もされていて、FISUの大会に日本が加盟する状況をつくられたりと、すごく貢献された方です。
 伝承していける方々が少なくなっていくなか、このまま日本の空手道が廃れないようになんとか残さないといけません。勝つためにはどうするか、という競技としての空手だけでなく、「空手道」としての大切な事が失われることをもっと懸念する必要があると思います。

―――長田先生が考える空手道とはどういうものなんでしょうか?

 イギリスで「騎士道」があるように、日本では本来、「武道」があります。「道」というのは「みち」ですよね。これを極める事は空手にも繋がるでしょうし、その中で競技に進化するだけなんです。
 ただ勝てばいいのではなくて、相手を敬う気持ちやその人に対しての礼節が大切なんです。つい先日、剣道の大会でガッツポーズをして勝ちを取り消しにされていた事例がありました。もちろん空手道の学生の大会でもガッツポーズをしてはいけません。相手がいてこそ自分の勝負があるので、ガッツポーズをしたり声を出したりという行為自体が失礼だということになります。礼に始まり礼に終わる、そういう気持ちがないと。全てがそうとは言いませんが、どうしても競技制になるとそういう考え方が欠落したりすることがあります。それはおかしい。真剣勝負だからこそ、礼を尽くさないと。
 本来は空手道を通してそういうことを学ぶのですが、競技制だけに走ると、勝ち負けだけを判断して心が育たないんですよね。見ていると、マナー・礼儀・礼法が今の子は欠けてしまっていることが多いので、このままでは空手道をやっている意味がないと思います。競技だけでチャンピオンになっても、人には教えられないし、それだけで終わってしまうでしょう。日本の歴史を見てもそれは分かります。柳生がなぜ残ったのか。宮本武蔵、佐々木小次郎は強かったかもしれませんが一代で終わりました。個の強さだけでは伝承されていかないんです。自分だけの自己満足で終わらしてしまわず、「道」に繋がる事をして末代まで残さないといけません。せっかく日本の素晴らしい武道なんだから。

組織として伝承していくにはどうするかが重要。特に重視しているのは語学力。外国語を喋れるスタッフを連盟にどんどん増やしたい。全く違う空気を入れてアドバイスをもらいながら、空手道の普及を考えていきたい。

―――学生空手道連盟組織として、空手道を残していくためにどのような取り組みをされているんですか?

 まず、一般社団法人にしたのも社会的にもっと認めてもらうためです。更に今度は公益法人を目指しています。どうしてもある程度体制が続くと知らず知らずに上が傲慢になり、下にはイエスマンが育ち、逆らうと弾かれてしまうという風潮が出てきてしまいます。それではだめなんです。社会的にオープンにして出来るだけ公平に。もちろん先輩を敬う気持ちは持たないといけませんが、ダメな事はダメと言える関係で分かり合わないと。
 そして、もちろん財力も作らないといけません。財力がなかったら何も出来ませんから。今まで連盟は、加盟校の試合の参加費と連盟費だけで補えていたんですね。それがどんどん少子化になり、昔と違って安全性をより考慮したマットや道具やら消耗品でお金がかかる時代になっています。そういう意味でも、一般の方々から応援をしてもらえるように一般社団法人という形を作って、更に公益法人に向けて襟元を正し「空手道」を守っていきたいと思っています。世の中から認められて「よし協力してやろう!」というみなさんからの賛同がないとこの先の発展はないと思うので。
 あとは、人材です。特に重視しているのは語学力です。喋れなかったら世界に通用しないので、外国語を喋れるスタッフを連盟にどんどん入れていきたいと考えています。空手をやっていたとか、強かった弱かったというのは昔話に過ぎないのです。組織としてずっと伝承していくにはどうするかが重要。空手だけでは視野が狭いので時代に遅れてしまうと思うんですよね。全く違う空気を入れて、第三者から見た目で”どうしたらもっと空手を普及出来るのか、どうしたら財源を企業から集められるのか“などアドバイスをもらわないといけない。過去の強さと技術だけの者が上に立って組織を運営すると、優秀な協力者が集まらないんです。それを無くそうと思います。そして、空手道出身の優秀な先輩方にもご協力頂けるように声をおかけしています。政財界でも空手道部の出身が多いですね、菅官房長官も空手道部なんですよ。そういう素晴らしい優秀な先輩たちに集まって頂ける場所にしないといけないですね。そういう組織にすることで、はじめて世界に立ち向かえるんだと思います。

―――大阪経済法科大学で空手部の総監督もされています。昨今、指導者として在り方が問われることも多いですが、長田先生はどのように感じておられますか?

 私自身、若い頃は指導者として失敗も多くしてきました。稽古でも厳しくやりすぎで怪我をさせてしまった事もあります。指導を自分の目線だけでやってしまうと、なぜこれが出来ないのか?とも思ってしまう。そうじゃなくて、出来ないから生徒の目線に下りて指導していかないといけないですよね。人それぞれ器用さと能力がありますから。あとは指導者と生徒との相性というか、周波数が合わないといけません。それが合わないと、生徒の限界がどこにあるのかということも読み取れませんし、時として過剰な指導になってしまうと思います。

―――体罰など学生スポーツで時折問題にされている指導方法に関しては如何ですか?
 あれは指導者のエゴと無知です。科学的、生理学的、精神的
な事も含めて指導者はもっと勉強したうえで指導しないといけません。そういう意味では、昔の私たちの世代の指導者も今の価値観で言うと通用しません。よっぽど指導者がしっかりしていないと単なるいじめになってしまう。あとは、あとは親御さんとの信頼関係も作っていかないと厳しいですよね。ちょっと触っただけで叩かれたという人もいますからね。
 私は正直、指導者としてはビシバシいっていました。でもその中で親御さんとの信頼関係は大事にしていました。親は私を信頼して子どもを預けてくれるんです。そうすると4年間は私がその生徒の親となるので、自分の子どもとして厳しく指導しました。普段の生活も含め、全てにおいてです。私財をはたいてでも面倒をみた子も何人もいました。そこは間違えていなかったと思っています。
 そういう意味では、厳しい指導自体が悪いことではないと思います。学生時代の部活での厳しさをぐっと堪えて乗り越えてこそ、社会に出て通用する力がつくことも確かですからね。私の教え子で、現在はある企業の営業をしている子と話をしたんですけど、「学生時代に比べたら痛くも痒くもない」と言ってました。誰に罵倒されても何を言われようがなんともないと(笑)。そして誰も出来なかった取引先を口説き落としたりして、今では出世して偉くなっています。
 やっぱり温室で育ったらだめなんじゃないですか?外に出て寒さがきたらすぐ枯れてしまうからね。野ざらしにされて、寒いなと思った時にはどうしたら温もれるかを考え、暑いなと思った時には川で水浴びでもしようかなと考える。私の言い方で言うと「野に放たれんとあかん」。自分で草刈りもして耕して自分の居場所を見つける、これが出来ないと。そうしたらなんとでもなる。

武道としての空手、競技としての空手、この二刀流を目指さないといけない。その事に少しでも多くの人が気付いてくれたら良いと思います。

―――最後に長田先生にとってのスポーツの力とは?

 私は大した大学も出ず、大して勉強もしていなかったけど、空手道を一生懸命やったおかげで素晴らしい先輩方や後輩たちに恵まれて、現在においても色々な事で助けて頂くし、困った時には先輩方が日本全国、世界にもいらっしゃるので物凄く力になっています。学生たちにも「空手道を一生懸命やって、色んな人と交流しろ。社会人になって空手をやるやらないは別として、それがひとつの自分の生きる力になるから。助けてくれるから。」と言っています。これが私の思う空手道の大きな力であり、スポーツの力です。
 単に競技をやっていて、何も繋がりがなく勝ち負けだとその時で終わります。そして肉体は歳とともに限界があります。頭は若い時の最高の事しか残っていないけど、身体は反応しませんから、どんどん流れについていけなくなる。ただ一番残るのは、やってきた事でたくさんの周りの方々の力を得るわけです。
 そして今はそれに対しての恩返しです。私たち学生空手道連盟は「恩返し」なんです。自分の「道」をしっかり持って、人の道、世の中の道を踏み外さないように。単なる空手で終わると何にも残らない。だから「空手道」でないといけない。そしてそれを競技に活かすという事が大切です。「道」だけで捉えてもいけないし、「競技」だけで捉えてもだめですし。両面性を持った中でやりきらないといけません。武道としての空手、競技としての空手、この二刀流を目指さないといけない。その事に少しでも多くの人が気付いてくれたら良いと思います。

長田義行 おさだよしゆき
岡山県生まれ。大阪経済法科大学で空手を始める。1977年同校卒業。1980年より母校の監督就任。多くの選手を育てる。2015年関西学生空手道連盟理事長就任。2018年一般社団法人全日本学生空手道連盟副理事長就任。

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