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ブランドデザインで繋がる、自分と世界。 / 若者研究所・ボヴェ啓吾さん

BranCo!にて多くの学生が挑戦するブランドデザインのツボを紐解き、その魅力を掘り起こすインタビュー企画『ブランド解剖学』

今回は博報堂ブランド・イノベーションデザイン局にて現役で活躍されているボヴェ啓吾さんに伺い、氏が代表を務め、調査・分析から事業開発までを手がける「若者研究所」を題材にブランドデザインの醍醐味に迫ります!

インタビュワー:BranCo!学生スタッフ江木(左)、小宮山(右)

1 若者と、未来の暮らしを考える

:若者研究所について

――若者研究所での活動はいつ頃から続けているのですか?

2019年ですね。若者研究所そのものは以前からあるのですが、リーダーの交代に伴いBranCo!や東大の授業で学生との接点もあるボヴェに声がかかりました。そこから新しい若手のメンバーにも入ってもらって新しい体制で動き出したみたいな、そんな感じです。

――そうなのですね。新しい体制になってから、若者研究所の方向性や目的に変化はありましたか?

よりブランドイノベーションに寄ったと思います。
データだけから分析するのではなく、若者自身と一緒に話をして、行動の変化とか背景にある価値観をともに考えるというのは以前から変わっていません。

ただ、今この瞬間に流行ってることよりも、長期スパンで時代はどこへ向かおうとしているのか、若者に象徴的に現れている未来の兆しや時代全体のうねりは何なのか、みたいなことをより意識した活動になりました。

なので、クライアントと活動する時に、若者と広告のアイデア出しをやるというよりは、「そもそもどういうブランドを作るべきか」みたいな根本の仕事を受けないといけないし、そっちの方が意味深いかなと思っています。それで、ホームページでも「若者と未来の暮らしを考える」って書いています。

――若者研究所の目的という意味でも、若者と未来を考える点が一番特徴的な点でしょうか。

そうですね。若者たちと一緒に暮らしや価値観の変化を丁寧に読みほぐしていくことによって、今はないどんな商品やサービスを作るとよいのか?や、既存のブランドがどのように変化するとよいのか?を考えるヒントにしていたりします。

あとは、従業員としての若者が魅力的に感じながら成長していける組織に関することも含めて、若者たちと一緒に示唆を届けるというようなことが活動の目的かなと思っています。

:若者の抱く「おかしさ」

――若者研究所には社員だけじゃなくて学生も所属されていると思いますが、その活動の中で何を大事にされていますか?

未来を考える中で、ただ抽象的に話していてもそれは机上の空論になっちゃうし、あまり人の心に届きません。なので、とても些細だなと思えることでも、今この瞬間の細かい心の動きや行動から考えはじめることを大切にしています。

また若い人とやることの意味として、違和感とか〈おかしさ〉みたいなものを大事にしようとも考えています。社会の中に長く身を置くと「そういうもんだよね」と思考や感じること自体が止まっちゃったりしますが、そうなっていない若者だからこそ感じられるものがあります。

若者が感じるものの中には「もっとこうなったほうが人が幸せになれるのに」や「こういう選択肢があったっていいのに」という違和感や〈おかしさ〉の気づきがあり、それらを大切にしようと思っています。

――たしかに、無意識に感じている社会のおかしさに対して意識的に目を向けるって、なかなかする機会のないことのようにも思います。

ただ、若者が持つ不満を伝えるだけだと、それも言いっぱなしになってしまう気もします。
私も社会の中でそれなりに長く生きているので、一見おかしいものでも、それが生まれた理由や、なくした時に別の新たな問題が発生する可能性があることもわかります。それらも覚悟しながら変えていく誠実さも大事にしたいです。
基本的には日本の場合は政治もビジネスも若者の言葉や感覚が反映されにくい構造があるので、「若者が感じる違和感」をちゃんと顕現させていくことがまずは大事だと思っています。

あとは、若者を応援するという気持ちを大事にしていて、若者からアイデアや視点を一方的に搾取するような構造にはしたくないなと思います。
若者から何かを学んで影響力のある企業や組織が変わることはすごく大事で意味のあることですが、若者自身の活動によっても社会は変わっていくだろうし、そこも応援できる存在でありたいなと思います。

少なくとも、参加してくれる若者自身がすごく面白いなとか学びになったなとか、自分自身に対する気づきを経てちょっと生きやすくなったとか、そういうものを提供できる活動でありたいと思っています。

――今から始めて未来を考える、若者の持っている「おかしさ」を大事にする、若者を応援する。どれをとっても素敵に感じます。

若者に寄り添った調査と、そこから生じる未来への示唆を届けている。

2 若者研究所というブランド

:若者研究所に見るリボン思考

――今回BranCo!では〈インプット・コンセプト・アウトプット〉というリボン思考で学生の皆さんが取り組まれていますが、研究所ではそれぞれどのような取り組みをされているのですか。

インプットで言うと、学生会議という大学生中心の会議で毎月色々なテーマで話をしながら膨大なインプットをしています。

例えば「音楽」がテーマの時は、最近どんな音楽を聴くか、どう出会ったのか、どんな風に聞いてるのか、それらには過去と違うどんな傾向があるのかといったことを探ります。
テーマに関するそれぞれの視点をみんなで持ち寄って共有し、他の人の話との共通点や、これとこれって一見違うけどどうして違うのか?など仮説を出し合いながらみんなで解釈をしていきます。この辺の作業は、コンセプトづくりに近いと思っていて、インプットの解像度を高めたり、そこから気づきを引き出していったりということをします。

――いろんな視点があるからこその思わぬ発見がありそうですね。

次にそこから、みんなが出した意見や考えを改めて俯瞰して構造化します。

例えば「セルフケア」というテーマで探求を行ったケースで言うと「人の中には常に波のようなものがあり、その波と向き合い乗りこなすことが若者のセルフケアの本質的構造ではないか」という分析を若手メンバーがしてくれました。
気候や他人などの外的要因と、身体のバイオリズムのような内的要因によって気分や体調が落ち込む場合もあれば、逆に盛り上がって前向きな気持ちになることもある。そんな陽の波と陰の波が、落ちすぎたり上がりすぎた時にはそれを元に戻していく行動があるんじゃないかとか、波が無ければ良いのではなく、頑張って意識的に出かけようとする「波をつくる行動」も含めて「セルフケア」なんじゃないか?といった具合に、学生たちとの話から一歩深めて構造的に解釈していきます。

若者の行動の背景とか工夫を汲み取りながら、それを若者以外の世代の人たちにとっても大事なこととして抽出できた時は特に意義深く感じます。例えば「何もしないというのも一つのセルフケアだ」といった気づきは個人的にもハッとするもので深い学びになりました。

――「若者」を様々な角度から分析されているのですね。

様々なテーマについて若者たちと議論し気づきを集めながら、「そもそもなぜそのような変化が生まれるのか」という環境要因なども含めて整理をして、1個のストーリーとして語ることを目指すことも意識しています。

そのストーリーを講演のような形で話させてもらい、それを聞いた多様な事業領域を持つ企業の方が商品・サービス開発や組織改革などに活用していただくことがよくあります。
具体的な商材やテーマが明確にある場合は、実際にプロジェクトを作って若者たちとクライアントの課題に取り組むというのも若者研究所の重要な仕事です。後者はアウトプットまでを若者と一緒に考えることも多いので、まさに〈インプット・コンセプト・アウトプット〉という構造の中で、若者自身やそこに現れる社会を捉えて、新しいブランドを生み出すということが若者研究所の活動だと言えそうです。

――なるほど、セルフケアのお話で言うと、若者って自己承認欲求を気にしつつも同時にそれを楽しんでいるよな…とか、自分自身も思うところがありました。そうした若者の心持ちを汲み取って、アウトプットをクライアントに届ける構造が素敵だなと1人の学生として感じます。

:形はなくとも残り続けるもの

――今「若者研究所」というブランドを成立させている根本的な要素にはどういったものがあるのでしょうか?

ひとつはやっぱり“コミュニティ”であるという点ですね。

若者研究所はそこにいる人間によってできているところが結構大きいと思っていて、新しい体制になってから見出される気づきやアウトプットが変わったように、違う人がやると違うものになるんだと思います。そんなことを言うと、客観性が薄いと批判されるかもしれませんが、世代・時代の研究やマーケティングは主観を排除することを徹底するよりも、関わっている本人たちが気づいたり驚いたり変わったりしながら向き合う方が誠実で、意味のあるものになるというのが個人的な考えです。

若者研究所は大学生が主なので卒業で抜けるメンバーもいますし、忙しさや興味の変化で来られなくなるメンバーもいる流動性が前提の組織なんですが、そこに残り続けているものも確かにあると感じます。異なる背景のメンバーが集まっていることや、議論するプロセスそのものを楽しむ姿勢、議論する時の暗黙のルールやその場の雰囲気みたいなものが「ブランド」として存在している気がしています。

――場所に引き寄せられる、みたいなことは僕にもあります。

それがブランドの本質というか。実態があるようでないけど、その中で存在している人や仕組み、空気感としてそこに漂っているものがブランドなんだなっていうことを、この活動をやっていて特に思います。

人が変わればまた違うものとして変わるということ。ブランドに関わる人のそれまでの人生や日常の思考などが結果的にそのブランドに現れるものだという側面と合わせると面白いですね。
若者研のようなものに限らず、「ブランド」はそれと関わる人が意識的につくったり使ったりするものであるだけでなく、意図せず滲んだり混ざったりもする、不思議な生き物っぽいものだと思っています。(うまく答えられていないですが。。)

――いえいえありがとうございます。なんかこう「すごく居心地のいいテセウスの船」みたいな感じでしょうか。今回のBranCo!でもアプリやボードゲーム、カードゲームみたいな有形のアウトプットが多かった中で、「形はなくとも残り続けるブランド」といった視座をいただけたかなと思います。

若者と、未来の暮らしを考える

3 ブランドデザインの醍醐味とは

:若者からオジサンまでハッピーに。

――いよいよ最後のセクションになります。はじめに、若者研究所での活動の中で感じられてきたやりがいや喜びについてお伺いしてもよろしいでしょうか?

個人的には、ものを生み出したアウトプットや得られた成果よりも、何かを発見したときとか、事実と解釈の間にパスがつながってそこに物語が生まれた瞬間にすごく喜びを感じます。
世界とか人間とか自分をちょっと理解できた気がする、ということ自体がとてもハッピーで、それを日頃から得られるということが嬉しいですね。

先ほどの学生会議でも、若手のメンバーが「こういうことですかね」って仮説や構造を持ってきた時に「あーそんな気がする!」「なんかめっちゃいいじゃん!」となる時にとても感動するんですよね。
誰かのことを少し理解できた気がしたり、自分の中にもそういうことがあるかもしれない、と思うからハッピーというのはありますね。

――まさしく事実と解釈がつながって物語が生まれる瞬間ですね。

あとは何年もやっていると、学生時代に若者研究所に来てくれていた子が社会人になって働いていたりもします。当時の経験を通して自分自身について理解が深まり、働き出した今も生きやすくなっていると言ってもらった時は嬉しかったですね。

BranCo!に出てくれた人からも、物事の考え方が得られたとか、何かを思いついた時の手応えがその後の仕事やプライベートで正解のない問題に向き合う時の力になっている、って言ってもらったりもしました。

誰かの支えになったり生きやすくなったり、何かが生まれるためのちょっとした土台を作ることに少しでも寄与できたのかもなって思うと、この活動やっててよかったなって思いますね。

――未来に話が向いたところでお聞きしてみたいのですが、若者研の今後の活動の目標や、若者研究所が向かっていく先について考えているところがございましたらお聞かせいただきたいです。

最近少しずつ、「若者」の行動や価値観の変化について、上の世代や力を持っている企業に理解してもらえるようになってきたと思います。ただその上で、もっと変化をつくるところまで行った方がいいなと思います。

その変化の一個として「これがあそこ(若者研究所)から生まれたんだね!」というような、象徴的な商品やサービスを作ることは目指すべきだなと思います。

――若者研究所の顔となるようなアウトプット、ということでしょうか。

そうですね。ただそれだけではなくて、上の世代が個人として変わるということも大事だと感じています。

若者の話を聞いて「あ、若者ってこうなんだね」という理解だけでなく、「若者のそれ私も取り入れてみたらもっと生きやすくなるかも」や「自分の中にもあるこの気持ちをもっと大事にしよう」といった感じです。そうやって上の世代が若者の話を受けてその人自身や組織が変容する機会をもっと作りたいと思います。

特にさっき言った「ケア」はすごく重要なワードな気がします。
若い世代は自己肯定感との戦いを長く続けているので、自分の肯定感をどう作るのか友達とかの肯定感をどう大事にするのか、どうお互い支え合うか、みたいなことを上の世代よりもはるかに自覚的にやっていると思います。それはとても素敵なことだと思うし、そこに可能性を感じます。

――可能性、ですか。

そうです。上の世代には自分で自分の心や生活をケアする意識や技術が若者ほどないから、そのケアを当たり前のように他者に求めたり、他者の自己肯定感を安易に削るようなコミュニケーションをしてしまう人が少なくない。

それってその世代の苦しみだとも思います。若者世代の研究を通して意図せず気づいたことの一つは、「競争社会のなかで疲弊したおじさん世代の苦しみや怨嗟のようなものが結構深刻にもかかわらず放置されている」という現状だったりします。

あまり軽々しくは語れないですが、セルフケアなどに見られる若者たちの工夫に接して「自分もそうした方がなんかハッピーになれそう」と上の世代が変容していくと、社会にもう少し幸せが増えるはずだと思います。だから若者研究所の活動を通じて学生や若者だけでなく、上の世代からも生きやすくなったと言われたらいいなって思いますし、それらを含めた変化が少しでも作れたら嬉しいです。

――すごく壮大ですね。僕自身、自分の抱えてる思いからアウトプットすることはあれど、それが上の世代の心まで動かすっていう体験はあまりないので、そこまでできたらもう一段階グレードが上がったやりがいが得られそうだなと思い、とてもワクワクできる壮大さだと感じます。

語りは壮大だけどね(笑)

やっていくことは、若者がこの時代に向き合い苦しみを受け入れながら工夫して生きてることを言葉にするとか、自覚的になって届けていくとか、世代を超えた質の高い対話の機会をつくることくらいなのかなとも思います。

:パーソナルな営みとブランドデザイン

――貴重なお話をありがとうございます。それでは最後にブランドデザインの醍醐味について教えてください。

今まで話してきたような話とつなげると、自分自身について考え理解し、望むならば変えていくといったパーソナルな営みとブランドデザインは繋がっているものだとすごく感じます。

例えば、自分自身の属性とは異なる女性向けやシニア向け商品でも、その仕事を通じて自分が見えたり変わったりする面白さがあります。
自分自身というものと、他者、社会、世界、人間など大きな外側にあるものがブランドデザインを通じて混ざり合ったり、根本的につながっているものだと感じられることを意識すると面白いです。

――最後に、学生に向けてのメッセージをお願いします。

若い人は特に、自分自身の中にある個人的な葛藤や違和感からブランドを考えてみてもらえると良いと思います。

若い頃は自分の苦しみは特別なものだと感じがちだけど、僕らはとても社会的な生き物だから、自分だけが感じている葛藤や苦しみって多分ほとんどなくて、根っこの部分で同じような葛藤を感じている人が必ずいるんです。だから、自分を理解したり癒したり助けたりするものがつくれたら、それは自分以外の誰かのことも助けられるものになる。解決をもたらすブランドまでできなくても、自分の感じる葛藤や違和感や苦しみを言葉や問いにしてみたり、それを誰かと一緒に考えてみたりするだけでも、自分と他の誰かと、その先の社会を生きやすくしていく一歩になると思います。

――私含め、勇気づけられるお言葉です。ありがとうございます。

ボヴェ啓吾(Keigo Bove)

博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 
イノベーションプラニングディレクター
若者研究所 リーダー

法政大学社会学部社会学科卒。2007年(株)博報堂に入社。
マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事した後、2010年より博報堂ブランドデザインに加入。ビジネスエスノグラフィや深層意識を解明する調査手法、哲学的視点による人間社会の探究と未来洞察などを用いて、ブランドコンサルティングや商品・事業開発の支援を行っている。2012年より東京大学教養学部全学ゼミ「ブランドデザインスタジオ」の講師を行うなど、若者との共創プロジェクトを多く実施し、2019年より若者研究所代表を兼任。
著書『ビジネス寓話50選-物語で読み解く企業と仕事のこれから』


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