解析入門I - 実数列の極限2


この記事は解析入門I (杉浦光夫 著)の読書ノートです。


前記事では実数列を厳密に定義するためにまず自然数を定義し、自然数から導かれる数学的帰納法について議論した。この記事ではまず、数学的帰納法によって証明される例である二項定理を証明し、そのあとに有限集合とは何か、そして整数、有理数を定義していくことにする。

まず二項定理を証明しよう。次のような定理である。

任意の$${a, b \in \mathbb{R}}$$と$${n \in \mathbb{N}}$$に対して、$${(a+b)^n = \sum_{k = 0}^{n} {}_nC_k a^kb^{n-k}}$$が成立する。ここで$${{}_nC_k \equiv \frac{\Pi_{i=0}^{k-1} (n-i)}{k!},  k! = {}_nC_0 \equiv 1}$$とする。

二項定理

まず、$${n = 0}$$のとき、左辺は$${a, b}$$がいかなる時も$${1}$$であり、右辺も$${{}_0C_0 a^0b^{0} = 1}$$となる。次に$${m \in \mathbb{N}}$$に対して、$${(a+b)^m = \sum_{k = 0}^{m} {}_mC_k a^kb^{m-k}}$$が成立すると仮定する。ここで、$${{}_mC_{k} + {}_mC_{k-1} = {}_{m+1}C_{k}}$$であることが示せる。実際

$$
\begin{array}{l}
{}_mC_k + {}_mC_{k-1}\\
= \frac{\Pi_{i=0}^{k-1} (m-i)}{k!} + \frac{\Pi_{i=0}^{k-2} (m-i)}{(k-1)!} \\
= \frac{\Pi_{i=0}^{k-1} (m-i) +\Pi_{i=0}^{k-2} (m-i)k}{k!}\\
= \frac{\Pi_{i=0}^{k-2} (m-i)((m-k+1)+k)}{k!}\\
= \frac{\Pi_{i=0}^{k-2} (m-i)(m+1)}{k!} \\
= \frac{\Pi_{i=0}^{k-1} (m+1-i)}{k!} \\
= {}_{m+1}C_{k}
\end{array}
$$

となる。このことを用いると、

$$
\begin{array}{l}
(a+b)^{m+1}\\
= (a+b)(a+b)^m \\
= (a + b)\left( \sum_{k = 0}^{m} {}_mC_k a^kb^{m-k} \right) \\
= \sum_{k = 0}^{m} {}_mC_k a^{k+1}b^{m-k} + \sum_{k = 0}^{m} {}_mC_k a^kb^{m-k+1} \\
= \sum_{k = 1}^{m+1} {}_mC_{k-1} a^{k}b^{m-k+1} + \sum_{k = 0}^{m} {}_mC_k a^kb^{m-k+1} \\
= {}_mC_m a^{m+1}b^0 + \sum_{k = 1}^{m} ({}_mC_{k-1}+{}_mC_k) a^{k}b^{m-k+1} + {}_mC_0 a^0 b^{m+1} \\
= {}_{m+1}C_{m+1} a^{m+1}b^0 + \sum_{k = 1}^{m}{}_{m+1}C_{k} a^{k}b^{m-k+1} + {}_{m+1}C_0 a^0 b^{m+1} \\
= \sum_{k = 0}^{m+1}{}_{m+1}C_{k} a^{k}b^{m+1-k}
\end{array}
$$

が成立する。以上より証明された。

次は有限集合を定義しよう。$${m \in \mathbb{N}}$$に対して$${\mathbb{N}(m) \equiv \{n \in \mathbb{N} : n \lt m \}}$$と置く。集合$${A}$$から$${\mathbb{N}(m)}$$への全単射$${f: A \to \mathbb{N}(m)}$$が存在するとき、$${A}$$は$${m}$$個の元を持つといい、このとき集合$${A}$$は有限集合であるという。

有限集合に対して、次の二つの性質を示そう。

$${\mathbb{N}}$$の任意の空でない有限部分集合$${A}$$は、最小元$${\min A}$$をもつ

自然数の有限部分集合の最小限の存在

これは数学的帰納法を利用することで証明できる。今、命題$${P(m)}$$を「$${\mathbb{N}}$$の任意の$$m+1$$個の元を持つ有限部分集合$${A}$$は、最小元をもつ」とする。$${1}$$個の元しかない場合、最小元はその元自身になる。したがって$${P(0)}$$が成り立つ。今、$${k}$$個の元を持つ有限部分集合は最小元を持つとする。このとき$${k + 1}$$の元を持つ有限部分集合$${A}$$から、元$${a}$$を一つ取りだした集合$${B \equiv A - \{a\}}$$を定義する。$${B}$$の元の個数は$${k}$$個だから、仮定より$${b \equiv \min B}$$が存在する。この事実から$${\min\{a, b\} = \min A}$$となるため、$${A}$$には最小元が存在する。以上より、$${\mathbb{N}}$$の任意の空でない有限部分集合には最小元を持つ。

$${\mathbb{N}}$$の任意の空でない部分集合$${A}$$は、最小元$${\min A}$$をもつ

自然数の部分集合の最小限の存在

$${m \in A}$$をとる。$${A \cap \mathbb{N}(m) = \phi}$$であるとき、$${A}$$の任意の元$${a}$$に対して$${m \le a}$$が成立するため、$${m = \min A}$$である。$${A \cap \mathbb{N}(m) \neq \phi}$$であるとき、$${A \cap \mathbb{N}(m)}$$の元の個数は$${m}$$個以下であることから、$${a \equiv \min (A \cap \mathbb{N}(m))}$$が存在し、$${a = \min A}$$でもある。

ここまで来たら、自然数の定義を用いて整数と有理数を定義しよう。

自然数に負の符号の数を付け足したものを整数という。つまり$${\mathbb{Z} \equiv \{n: n \in \mathbb{N}\} \cup \{-n: n \in \mathbb{N}\}}$$。また、任意の整数に対する、$${0}$$以外の整数の商を有理数という。つまり$${\mathbb{Q} \equiv \{n/m: n,m \in \mathbb{Z}, m \neq 0\}}$$

整数と有理数

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