解析入門I - 代数


この記事は解析入門I (杉浦光夫 著)の読書ノートです。


解析学で扱う量は実数、またはその組み合わせで表される。このため実数を把握することが私たちの出発点になる。

実数を理解するためにまずは代数系を理解することから始めよう。

まずある集合$${K}$$を考える。この上に二項演算、すなわち2つの入力からある1つの出力を与える写像$${+}$$が与えられて、次を性質を持つとき、$${K}$$を加群という。

  • $${a+b = b+a}$$ (和の交換法則)

  • $${(a+b)+c = a + (b+c)}$$ (和の結合法則)

  • 任意の$${K}$$の元$${a}$$に対して、$${a + 0 = a}$$を満たす元$${0}$$が存在する

  • 任意の$${K}$$の元$${a}$$それぞれに対して$${a+(-a) = 0}$$となる元$${-a}$$が存在する

なお上記の性質を満たすが、演算に和の記号$${+}$$を使わない場合に、$${K}$$は可換群を成すという。

加群$${K}$$に対し、更に二項演算である積($${\cdot}$$)が定義されて、次の性質を満たすとき、$${K}$$をという。

  • $${(ab)c = a(bc)}$$ (積の結合法則)

  • $${(a+b)c = ac + bc,\ a(b + c)= ab+ac}$$ (分配法則)

環が更に次の性質を満たすとき、可換環という。

  • $${ab = ba}$$ (積の交換法則)

可換環ではない環の例としては正方行列の集合がある。正方行列同士の積は一般に交換法則が成り立たない。

可換環に対し、更に次の性質が成立するとき、$${K}$$をという。

  • 任意の$${K}$$の元$${a}$$に対して、$${a1 = a}$$を満たす元$${1}$$が存在する

  • $${0}$$ではない任意の$${K}$$の元$${a}$$それぞれに対して$${aa^{-1} = 1}$$となる元$${a^{-1}}$$が存在する

  • $${1 \neq 0}$$である

可換環ではあるが体ではない集合の例として整数全体$${\mathbb{Z}}$$が存在する。

ここからは体の性質について見ていこう。まず、$${0, 1}$$の性質を満たす元はたった一つしか存在しない。これを証明しよう。

$${0}$$の性質を満たす$${0' (\neq 0)}$$なる元が存在したと仮定する。このとき任意の元$${a}$$に対して$${a + 0 = a,\ a + 0' = a}$$が成立するから、$${a + 0 = a + 0'}$$が成り立つ。これは当然$${a = 0}$$のときにも成立していなくてはならないので、$${0 = 0+0 = 0+0' = 0'+0 = 0'}$$となる。これは仮定と矛盾する。積に対しても同様の議論ができるから、$${1}$$もただ一つしかない。

次に、体の任意の元$${a}$$それぞれに対し$${-a}$$なる元が存在するが、このような元もただ一つしかないことが示せる。

実際、$${-a}$$の性質を満たす元$${a' (\neq -a)}$$が存在したとしよう。このとき$${a+(-a) = 0,\ a+a' = 0}$$が成り立つ。$${0}$$はただ一つしかないから$${a+(-a) = a+a'}$$が成り立つ。両辺に$${-a}$$を左から足すと、まず左辺は

$$
(-a)+a+(-a) = a + (-a) + (-a) = 0 + (-a) = (-a) + 0 = -a
$$

となり、右辺は

$$
(-a)+a+a' = a + (-a) + a' = 0 + a' = a' + 0 = a'
$$

となる。したがって$${-a = a'}$$が成立し、仮定と矛盾する。

同様にして$${0}$$でない任意の元$${a}$$に対する$${a^{-1}}$$もただ一つしか存在しないことが示せる。

$${-a}$$を$${a}$$の負の元、$${a^{-1}}$$を$${a}$$の逆元という。これらがただ一つしか存在しないため、$${a-b (\equiv a + (-b))}$$や$${\frac{a}{b} (\equiv a + (b^{-1}))}$$が無矛盾な二項演算として定義できる。$${a-b}$$を$${a}$$と$${b}$$の、$${\frac{a}{b}}$$を$${a}$$の$${b}$$によるという。

また、証明は省略するが、体には以下の性質がある。

  • $${-(-a) = a}$$

  • $${0a = 0}$$

  • $${(-1)a=-a}$$

  • $${(-1)(-1) = 1}$$

  • $${a(-b)=-(ab)=(-a)b}$$

  • $${(-a)(-b) = ab}$$

  • $${ab = 0}$$ $${\Leftrightarrow}$$($${a = 0}$$または$${b = 0}$$)

  • $${(-a)^{-1}=-(a^{-1})}$$

  • $${(ab)^{-1}=b^{-1}a^{-1}}$$

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?