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炎上と成功の分かれ道

LGBTQ+の人権を守るプライド月間の6月。
アメリカでは様々なブランドや企業がプライド月間に伴ったキャンペーンを行っていますが、今年はなんだか穏やかではない様子。。。
炎上や不買運動にまで発展したブランドが多く、今回は炎上と成功したブランドをご紹介したいと思います!

炎上事例:BUD LIGHT

AdAge より

まずは、バドワイザーのライトビールのBUD LIGHTでのキャンペーン。
BUD LIGHTはトランス女性のディラン・マルバニーを起用。
ディランがトランスジェンダーであることを公表してから1年経過した記念として、自身の顔がプリントされたBUD LIGHT缶を本人にプレゼントし、SNSで紹介されました。
他にも「マーチマッドネス(全米で人気の大学男子バスケットボール大会)」のPRとしてディランを起用し、賞金が当たるキャンペーンを行いましたが、この一連に保守派からの非難が殺到。

BUD LIGHTはアルコール度数が低いライトビールで若者をターゲットにしており、より包括的なアプローチとしてディランを起用しましたが、アメリカの保守派やトランスジェンダーを嫌うトランスフォビアの逆鱗に触れ、不買運動に発展してしまいました.

その後キャンペーンから12日後の4月14日にBUD LIGHTはウェブサイトで
「私たちは、人々を分裂するような議論に参加するつもりはありません。
私たちは、ビールを飲みながら人々を結びつけるビジネスをしているのです。」とコメントを発表

炎上になった理由

若い世代や女性のファンの獲得狙ってディランを起用した背景がありますが.
バドワイザーやBUD LIGHTを元々愛飲する消費者とマッチングしていませんでした。
他にもSNSでディランが日常的にビールを飲んでいる投稿もなく、マーチマッドネスについても、スポーツの大会だと知らなかったとジョークを
飛ばしていることなど、ブランドとの接点や親和性が欠けていたと言えます。

更にウェブでコメントを発表したものの、ディランを擁護するコメントはなく、BUD LIGHTのインスタグラムはコメント機能を外し、SNSでは沈黙のまま。
ディランを守ることができていないのに何故彼女を起用したのかという疑問が消費者に残ってしまいました。。。

成功事例  Ulta Beauty

ビューティー製品を扱う大手チェーンのUlta BeautyもBUD LIGHTと同じく、昨年ポッドキャストにディランが出演した際炎上しました。

しかし、今年4月に発表された世界の広告賞Clio Awardsのオーディオ部門でブロンズを受賞!
その違いはなんだったのか。

Ulta Beautyのポッドキャスト「The Beauty of...」とは?

Ulta Beauty ポッドキャスト「The Beauty of...」よりスクリーンキャプチャ

The Beauty of...」はトランスジェンダーのタレント、プラスサイズモデル、アクティビストなど、国籍、世代、職業が異なる人たちをゲストに呼び、年齢や体型への差別、性の多様性、メンタルヘルスなど現代の社会問題やあらゆる視点での美について対談形式で話すトークプログラム。
(AppleやSpotifyの他に、対談動画をYouTubeで視聴可能)

時にはタブーな問題にも触れ、エピソードの放送ごとにSNSやネットで話題になるほど人気のポッドキャストで、ディランが出演した回はYouTubeの再生回数は27万回以上をヒット。
ただ、全てがポジティブの反応だったわけではなく、ディランが女性について語り、母になりたいと話した内容が炎上。
#BOYCOTTULTRAというハッシュタグが登場し、BUDLIGHT同様に不買運動にまで発展してしまいました。

Ulta Beauty ケーススタディ動画よりスクリーンキャプチャ

ポッドキャストは炎上しましたが、結果的にはUlta Beautyを支持する消費者がUlta Beautyで購入した商品をSNSで紹介するULTA HAUL現象も起こり、売り上げを伸ばすことに成功。

BUD LIGHTもUlta Beautyも同じタレントを起用し炎上しましたが、Ulta Beautyのポッドキャストの場合、トランスジェンダーだけでなく現代における様々な生き方や考え方をテーマとした番組だったことでリスナーやUlta Beautyの顧客が味方についてくれました。

ブランドは多様で包括的なコミュニティを目指すことが必要になってきますが、ブランドとの繋がりや親和性が見えなければ、既存の顧客は疑問を感じてしまいます。
今回のBUD LIGHTの件は、親和性よりもフォロワー数を重視したことで炎上してしまい、正に今のインフルエンサーマーケティングで気を付けるべき点だったと言えます。

炎上後のブランドのアクション

画像:Daily Mail

今回、対比として同じトランス女性のディラン・マルバニーを起用したBUD LIGHTとULTA BEAUTYを紹介しましたが、炎上したブランドは小売大手のTargetやWalmart、アパレルだとTHE NORTH FACEやNIKEなどもあります。
Targetは脅迫や実際に店舗を荒らされてしまい、従業員を守る為に実店舗で販売しているLGBTQ+関連商品の販売を中止。
しかしTargetはキャンペーンの中止ではなく調整と説明し、「LGBTQIA+コミュニティへのコミットメントを継続し、プライド月間だけでなく年間を通して彼らと共に立ち向かう」とコメントしました。
反対に競合大手のWalmartは販売の中止はせず、THE NORTH FACEやNIKはサポートを続けることをSNSやインタビューなどで表明しています。

BUD LIGHTやTargetは騒動が大きくなりすぎて、売り上げが実際に大きく下回ってしまったことで対応せざるおえなかった事情がありますが、LGBTQ+の人権を守るプライド月間のプライドは、かつて同性愛を恥と感じられていたことから、その反対語として誇りや自尊心を意味する「プライド」が名付けられています。
ブランドはその名の通りプライドを持って貫き通すことができなければ、ブランド側が伝えたかったメッセージに不誠実さが感じられてしまうでしょう。

執筆:高嶋