トミージョン手術と酷使

田中健二朗が復帰

トミージョン手術から田中投手が復帰することになりました。ベイスターズでは小桧山、陳投手に続いて3例目の復帰。(アマチュア時代の大貫投手も入れると4例目)。

平良投手がトミージョン手術

トミージョン手術とはドジャースのチームドクターだったフランク・ジョーブ氏がドジャースの主力投手トミー・ジョンの肘の靭帯損傷に対して1974年施した手術です。トミー・ジョン投手は1963年にメジャーデビューし(プロ入りは1961年)1989年まで26年間MLBのマウンドに立ち288勝しています。1974年の手術以降15年間マウンドに立っているのです。日本ではロッテの三井投手が1979年にフランク・ジョーブ氏から初めて手術を受けていますがリハビリ後のトレーニングで失敗して手術後は活躍できませんでした。その後1983年にロッテの村田投手が手術を受け、1984年終盤に復帰し1985年には「サンデー兆治」として週に1回の登板で17勝あげています。ベイスターズでは1997年に小桧山投手が初めてトミージョン手術を受けています。1999年に復帰し、リリーフ中心に20試合登板し自己最多の4勝をあげています。その後ベイスターズ在籍中では2012年陳冠宇投手(2012年7月手術2014年7月支配下登録)、2016年の安部投手(2016年5月手術シーズンオフ戦力外)、2019年の田中投手(2019年8月手術2021年6月支配下登録)、2020年の東投手(2020年2月手術)と続き、2021年平良投手(2021年6月手術)がトミージョン手術を受けました。2013年に大貫投手が大学生時代にトミージョン手術の経験があります。

トミージョン手術とは

損傷した靱帯を切除したうえで、患者の反対側もしくは同一側の前腕(長掌筋腱など)や下腿、臀部、膝蓋腱などから正常な腱の一部を摘出し移植することで患部の修復を図ります。移植した腱が靱帯として患部に定着するまでには時間がかかるため、術後には長期に渡るリハビリを行う必要があります。まず、おおよそ2か月をかけてひじの可動域を元に戻していくトレーニングを行い、日常生活において支障なく腕を動かせるようにした後、軽めのウェイト・トレーニングを開始する。徐々にウェイトの量を増やしていくのと並行し、腕全体を強化するための様々なトレーニングを始め、日常生活や通常の運動ができるまでに回復したと判断された時点で投球を再開することになります。通常、ここまでの回復に約7か月を要するため、実戦復帰には12か月から15か月が必要となり、一般的には術後18か月で故障前と同レベルの投球ができるようになると考えられています(そのため、1シーズンから2シーズンを棒に振ることになる)。

酷使と靭帯損傷

アメリカスポーツ医学研究所は「常に全力投球で速い球を投げようとすることが、肘の故障を引き起こすリスクを高める」という見解を発表しています。投球の高速化が確実に肘の故障を増やしています。TJ手術を執刀している慶友整形外科病院院長の伊藤恵康は「肘の靱帯が正常な投手が投球中に靱帯をいきなり切ることはまずありません。小学生時代からの繰り返される負荷により生じた小さなほころびが積み重なって切れてしまう」と語っております。特に高校時代から145km/h以上の速球を投げている投手、スライダーを投げる投手は高い確率で故障するようです。スライダーに関しては、実際に肘の痛みのリスクが86%上昇するという研究や、投球動作が速球やカーブに比べて故障に繋がりやすいという研究があります。ダルビッシュ有が「中4日は絶対に短い。球数はほとんど関係ない。120球、140球投げさせてもらっても、中6日あれば靱帯の炎症もクリーンに取れます」と発言したことから、MLBで主流となっている中4日の先発ローテーションが故障に影響があるという説もあります。しかし中4日の先発ローテーションはTJ手術が急増する以前の1980年代から機能してきたことや、「プロ入り後の作業負荷は発達途上の段階で生じた損傷を加速化させているに過ぎない」というASMIの研究から、この説を手術急増の要因とするのはアメリカでは少数意見となっています。

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