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『ボンバーマンジェッターズ』の物語、近しい人の死に向き合うということ

以下若干のまえがき。
子供向け理不尽コメディアニメでありながら1話から意味深な演出を多く孕み、結果として凄まじい程のカオスと緻密に練られたシリアスが見事に同居した作品として万雷の拍手でもって(要出典)先日放送を終えた『ヘボット!』。1年かけて50話近く物語を紡いでいく4クールキッズアニメならではのパワを見事に活かした作品であったと言える。
起床がしんどく1クールちょっと過ぎた辺りでもう録画勢だった俺のヘボット履修もいい感じに終わりが見えてきた。そう、まだ全部観られてない。一瞬リアタイ勢だったのも今や昔、もう普通に後追い勢なのだが、まだ全部観てないのにこないだ円盤ポチってしまった。以上報告。(多分twitterではまだ言ってなかった筈)
アニメの円盤買うのも久々だな……しかも全50話のBlu-ray BOXとか……どこに仕舞うか……あのBOXの隣空いてたな……とかやってたら知らん間に身体が『ボンバーマンジェッターズ』(全52話)のBlu-ray BOX(初回限定盤)の再生を始めていた。そういうことです。

以下本題。

『ボンバーマンジェッターズ』。テレ東で2002年から2003年にかけて全52話放送されたアニメ作品である。子供向けらしく多彩なギャグシーンが散りばめられているものの、並行してボンバーマンであるシロボンの成長及びその兄の行方不明事件を中心とした人間模様がシリアスに展開される。「子供に見せたい作品」というコンセプトで制作された。
長らくDVD BOXにプレミア価格がついておりファンの長年の願いの末ついに去年になってBlu-ray BOXの発売に至った経緯があり、加えて配信等も一切されていなかったためお世辞にも知名度が高いとは言えないのだが、一部でその物語性が高く評価されているのではないかと思う(要出典)。

上で一瞬触れたが、ボンバーマンジェッターズの本筋は、主人公であるシロボンの実の兄であるマイティというボンバーマンが中心となって展開される。正義の集団”ジェッターズ“のリーダーとして銀河の為に戦い、“伝説のボンバーマン”として多くの人に慕われていたマイティ。そんな彼がある日、任務中に忽然と姿を消してしまう。マイティは強く優しく勇敢で人間のできたリーダーであり、そして一人の兄でもあった訳で、そんな奴がある日いきなり居なくなったりなんかしたら当然周囲の人間の感情はメチャクチャになるんだよな。
”ジェッターズ“での同僚であり、また彼の一番の友でもあった男。あるいは、”ジェッターズ“と敵対しているヒゲヒゲ団の戦闘隊長として、日々彼と小競り合いを続けていたアンパンマンに対するバイキンマンのような小悪党のオッサン。あるいは、ある任務中彼と出会い、密かに恋心を向けていた勝気な宇宙盗賊の女。
そしてまたあるいは、完全無欠のボンバーマンであり、同時に歳の離れた優しい兄としてのマイティを、最も尊敬すべき人物として常に目標に日々を生きていた僅か10歳の子供、シロボン。
伝説のボンバーマンの行方不明という一つの事件が、周囲の人々の感情をメタクソに破壊し、その結果生じる曼荼羅めいて複雑な人間模様。そして、偉大過ぎた兄の消失により心にぽっかりと空いた穴にシロボンはどう向き合い、如何にして一人のボンバーマンとして成長するのか。あの日マイティに一体何があったのか。そうした要素をぶっ太い縦軸としてボンバーマンジェッターズの物語は動き出す。『ボンバーマンジェッターズ』は「近しい人間がある日突然いなくなるということ」に52話も使って向き合い、真摯に描き出していくアニメなのだ。わかるか?

以下は魅力的な登場人物紹介という名のマイティに感情をぐちゃぐちゃにされた被害者リストである。本当にかわいそう。

被害者リスト、及び感情のタペストリー

マイティ

17歳にしてジェッターズのリーダーを務めていた最強のボンバーマン。こいつがいなくなったせいで皆大迷惑。上で大体紹介した通りストーリー上の最重要人物であり“完全無欠”の心優しきヒーロー。バイザーに赤マントととにかく皆にとってのヒーローであった事が視覚的にもハッキリ分かるデザインである。
ある日、ヒゲヒゲ団との戦闘中に負傷、その怪我を隠し己に無理を強いて一人で出向いた任務中、突然消息を断った。この件については後述。
“完全無欠”とされ、皆から期待されていたマイティは、本当に完璧な超人だったのか。彼が密かにシロボンに対し抱いていた感情とは、といった事柄は物語後半の焦点の一つである。

シロボン

主人公のボンバー星人。10歳。歳相応に、完全に一人の子供であり、その精神は未熟オブ未熟。「兄ちゃん」ことマイティをとにかく慕っており、マイティの過去のインストラクションに支えられる事も珍しくない。彼が姿を消した後、その背中を追うようにジェッターズに加入する。
この物語はシロボンの成長譚であり、未熟なガキンチョだった一人の見習いボンバーマンが52話かけて何を学び、どう変わるかが焦点となる。というか本当に凄まじい成長の仕方をする。1話からずっとシロボンを見てきた視聴者から見た最終話の感慨が本当にね……金田朋子の演技でボロ泣きする(言い忘れたけどCV:金田朋子さんです)。1年かけてじっくりやる4クールアニメの醍醐味なんだよな。

ムジョー

ジェッターズの敵、ヒゲヒゲ団の戦闘隊長。脳筋の熱いオッサンであり、作中一番の漢。するタイミングがなかったのでここでヒゲヒゲ団の紹介もする。
彼らの活動目的は「宇宙に一つしかないもの」の収集。といっても当然レア物ばかりなので基本的に非合法な収集、要は強盗を働く悪党集団。とはいえヒゲヒゲ団自体は邪悪とは呼べない愛すべき小悪党の集団であり、おおよそドロンボー一味のようなものと思って頂いて問題ない。
さて、ある日マイティの故郷ボンバー星でいつものように宇宙に一つしかないものを巡ってマイティと衝突したムジョー。やめるんだバイキンマン!って感じの日常の風景だったのだが、しかし久々に故郷に帰ったマイティの仕事にこっそりついてきたシロボンがムジョーの人質となってしまい、ここから不幸なボタンのかけ違いが始まる。弟を人質に取ったムジョーと対峙するマイティ。ところがムジョーが威嚇のつもりで(本人曰く、ちょっと脅かすだけのつもりだった)後方に待機させていた熱線砲が暴走、流れ弾が“偶然”、”シロボンの目の前で“マイティの胸を貫いてしまう。
なんとなくお察しかもしれないがジェッターズ世界のリアリティラインはおよそギャグ世界で、要は仮に爆発が起こっても黒焦げになるだけで済む感じの世界なのだが、ここで不幸が重なりマイティが結構な怪我を負ってしまう訳である。ドロンボーの攻撃の当たり所が悪く普通にヤッターマンが病院送りになった感じと言えばこの瞬間の気まずさがご理解頂けるか。
結果マイティはこの怪我を押して任務に赴き消息を絶った訳で、自分が永遠のライバル(自称)だったマイティ失踪の遠因となった事をムジョーはずっと後悔しているっていうこの関係な……

バーディ

ジェッターズの“大人”代表なバード星人。基本クールなのだが割と短気で大人気ないところがある。非番の時はタクシードライバーやってる模様。マイティとは同僚であり、親友だった。突然消息を絶った一番の友の足取りを追う為に独自に動いており、情報屋を駆使したりと物語序盤は単独行動がやたら多い。未熟なガキであるシロボンに大人として、兄をよく知る者としてのアドバイスを送り見守るポジションなのだが、こいつはこいつでシロボンみたいに表に出ないだけでマイティへの感情が相当重く、色々と引きずっている男である。例え大人とはいえ、やっぱ突然近しい人がいなくなったら色々拗れるんだよな。

シャウト

14歳の少女であり、マイティと入れ替わりに来たジェッターズの現リーダーにして紅一点。幼い頃に母を事故で亡くしている。世話焼きで、幼いシロボンを自分の弟のように、叱ったり怒ったりキレたり優しくしたりする。物語上シロボンを見守るちょっと歳上の勝ち気なお姉さんポジションなのだが、入れ替わりで来ただけなのでマイティ本人の事はよく知らず、彼女にとっては単に偉大過ぎる前任者でしかないのがポイント。ジェッターズの中で彼女だけがマイティがどういう人間なのかを知らないのだ。しかし自分も母親という身近な人間を亡くした少女である為、シロボンの心には優しく寄り添えるっていうこの構造。

ガング/ボンゴ

ぶっちゃけそんなマイティに対して拗らせてない勢なのだがジェッターズの構成員でありメインキャラなので触れる。左がガング、質量保存則を無視して機能を詰め込んだ万能ロボ。関西弁のコメディリリーフ。右がボンゴ、ジェッターズ一の巨漢だがその実器用なメカ要員。語尾はボンゴ、趣味はガングの改造(無断)。シロボンにはアドバイスを与えつつ友情も育むポジションである。ところでこのコンビのホモソーシャル性は特に凄く、大概マイティ周辺の感情を中心にした物語の中こいつら二人だけここで感情が完結してるんだが……

MAX

正体不明の謎の男であり狡猾な悪党、そして重要人物。第6話にヒゲヒゲ団が雇った凄腕宇宙盗賊としてこいつが登場する事で物語が大きく加速を始める。あほのムジョーのような小悪党とは違った本当のワルであり、その立ち振る舞いは無論マイティとはかけ離れているのだが……
何故かマイティにそっくりなボムの投げ方(ただし利き腕が逆)。何故かマイティとシロボンしか知らない筈の、思い出のボムを使える事。その結果一時期シロボンは彼に兄の姿を見る事になる。彼の登場で主にシロボン、そしてバーディの心は掻き乱されることになり、MAXの正体は物語前半の大きな縦軸の一つである。マイティに何が起こったのかという謎の鍵を握る男。

ボン婆さん/Dr.アイン/プロフェッサーバグラー

三人セットで紹介。シロボンの祖母であり親代わり、同時にマイティの師匠でもあったボン婆さん。ジェッターズの司令塔、アイン。ヒゲヒゲ団の首魁、バグラー。若かりし頃ボン婆さんにそれぞれ惚れていたアインとバグラーの二人(共に実らず)はずっと恋においても科学者としてもライバル関係であり、バグラーがヒゲヒゲ団を結成した際それに対抗する形でアインによってジェッターズも結成された。つまり彼らはそれぞれ古くからの顔見知りであり、腐れ縁で、正義の組織と悪の組織の首領同士が普通に連絡すら取り合える。本来本当に緩い世界なんだよ……
ボン婆さんの孫であるマイティを奪ってしまったバグラー、ジェッターズという職場でマイティを危険に晒す事になったアイン、それぞれ複雑な感情がここにもあるんだよな。

多種多様な感情を並べていたら文量が凄いことになってきたのでこの辺で終わるが、他にもこの緩いリアリティラインの世界に紛れ込んでしまったバグであり真の邪悪である黒幕(復讐者)とか、マイティに惚れつつ、本人からジェッターズに勧誘までされていたものの自分に正直になれないうちに機会が永遠に失われてしまった猫耳女宇宙盗賊とか、そいつに拾われた物語後半戦のキーマンでストーリーの核心そのものなキャラクターとかの感情が凄い。
特に最後の人物に至ってはジェッターズの”“良さ”“の象徴でもあり、彼とシロボンの感情の行き着く先こそ最終話で、とにかく凄いんだけど、これ良さを語ることそれそのものがネタバレに直結するので触れないんだが。なんかサイバーパンクみたいになるんだよ、本当です。

布教、無理!

まあ長々とやった通り『ジェッターズ』は俺にとってのオールタイムベスト・アニメーションであり、本当に心の底から最高に面白いと信じている5億点の作品なんだが、今までそんな積極的にtwitterとかで話してはこなかった。それなりに長く付き合いのあるフォロワーは一昨年俺が夢にまで見た(文字通りに、です) Blu-ray BOX発売決定を知って一人ではしゃいでたのを知ってるかもしれん。
理由は簡単で、この作品の良さを語れる人間の絶対数が少なく(実際FF内に存在しないっぽい)、布教するにも絶望的だからである。そもそも一昨年までソフトは絶版、配信ゼロの知る人ぞ知る、というか知ってる奴しか知りようのない名作というポジションであり、ソフトが改めて出た今となってもいきなりこのアニメは超〜〜面白いから、さぁ5万近くするBOX買って観てくれとは中々言えんだろうが……
つまり布教は無理。仲間を増やせない。密かにabemaTVとかでなんか一挙とかやってくれる機会を待っていたりはするがまぁぶっちゃけ厳しいワケ。もし、仮にボンバーマンジェッターズに触れる機会があれば、絶対に後悔はさせないので観て欲しい、位の事は自信を持って言ってしまう。上で挙げられなかったけど俺はボンバー四天王最後の一人、サンダーボンバーっていう忠義の武人が大好きなのでそいつの生き様も見届けてくれ。
あと今後の人生でジェッターズに触れる機会が無いとも限らないんだから”MAX 正体”とかそういう検索はマジで止めろよ!!!!別にMAXのなんかマスクが割れて悪堕ちしたマイティが出てくるとかそういう安直なやつじゃないから俺を信頼してくれ!!!!!本当に!!!Wikipedia閲覧の時とかもキャラ紹介見るのは止めろ。

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一応密林の直リン貼っとくから俺のジェッターズ語りに何か刺さりつつ、俺を信頼して5万出してくれる人間がいたら今これ書いてる時点で残り3点らしいから急げよな……心配せんでも純正リンクでアフィリエイト噛ませたりとかしてないから安心してリンク踏んでくれ……
あとBlu-ray発売によりDVD BOX中古価格とかはかなり落ち着いてる事も一応言い添えておく。

実は冒頭ヘボットの話をちらと出したのも結局4クールキッズアニメを見直したオタクの奇跡的な流入を目論み、欲を出して色目を使ったのに他ならないんだがやっぱり視聴手段がほぼ死んでるのはしんどい。故に今後もtwitterで布教したりする事はないと思われるので今回こうしてnoteに全部書いた。ただ今後時間空いた時とかにジェッターズ復習一挙視聴を密かに計画しており、その時は一人でなんかしていると思う。もし今後貴方がこのアニメに触れたならこっそり教えてくれると俺が喜ぶぞ。一人でいるのは疲れた……

最後に、子供と大人の断絶と不可逆の成長について

この作品のコンセプトである「子供に見せたい作品」というのは本当に絶妙で、近しい人を亡くすという事、その事で周囲の大人が何故こんな感情を拗らせるのか、突然訪れる死という概念はやっぱり子供には難しいっちゃ難しい。しかし”子供“であるシロボンから見た「マイティの消失」を頭でなく感覚で理解できる。そしてある程度成長した大人が観ると、登場人物の心の機微、感情の奔流、完成された”大人“側であるマイティが未熟な”子供“シロボンに向ける想いがちゃんと理解できる。そして「子供の頃に見ておきたかった/子供の頃に観ておいてよかった」と思わされてしまう。成長は不可逆であり、子供が大人に憧れるように、時に大人が子供に憧れる事もある。ここで言ってしまうが、それこそがシロボンとマイティという歳の離れた兄弟の関係性の本質だと言える。
子供にしか分からない感情、大人にしか分からない感情、『ボンバーマンジェッターズ』は多角的な視点から、“身近な死”という概念を見事に描き出した作品なのである。

#アニメ #ボンバーマンジェッターズ

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