『TENET』#2 祖父殺しのパラドックスとは
Today's English
Paradox (パラドックス) 「矛盾、ジレンマ」
※哲学では、「間違っているように見えるが、実は正しい場合」や「一見正しいように見えるが、正しいと認識されない場合」などを指す。
pike 「矛」
shield 「盾」
contradict 「矛盾する」 (名詞は" contradiction ")
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さて、今回はパラドックスについて論じていきたい。
端的に言えば、パラドックスとは「矛盾」である。
「急がば回れ」ということわざをご存知であろうか。ことわざ辞典には、「急がば回れとは、急いで物事をなしとげようとするときは、危険を含む近道を行くよりも、安全確実な遠回りを行くほうがかえって得策だということ。」と記されている。
つまり、急ぐのであれば、近道を選択することが確実に近道であるにもかかわらず、敢えて遠回りを選択する方が近道になっているという矛盾である。
これは焦って周りが見えぬまま危険な道を行くよりも、一度落ち着き安全を確保しながら目的を成そうとする方が結果として上手く行くという教えであるが、文をそのまま捉えるのであれば明らかに矛盾を指していることが分かる。
同様に、「負けるが勝ち」という言葉も矛盾を含む。これは「相手との争いで敢えて争わず、相手に勝ちを譲り負けたことにしておいた方が有利になって、結果として勝利につながる」という意味だが、文としては矛盾を孕んでいる。
上述のように、パラドックスは「矛盾」を意味し、目を凝らして社会の言葉や状況を見てみると、様々な矛盾が潜んでいる。
この世には様々な矛盾があるなかで、今回はタイムトラベル作品で必ずと言っても良いほど取り上げられる、「祖父殺しのパラドックス」について言及したい。
最近、クリストファー・ノーランが公開した『TENET』でも言及されているパラドックスであり、耳にした人は多いはずだ。お馴染みの『バック・トゥー・ザ・フューチャー』や「ハリーポッター シリーズ」、「物語シリーズ」などでも触れられており、タイムトラベルが扱われる作品にはやはり登場している。
では、「祖父殺しのパラドックス」とはどういうことであるのか。
物理的な説明はかなりややこしく、読むのに時間がかかるため、今回は簡単に説明してみたいと思う。
さて、タイムトラベルでは現在から過去にワープをした際、主人公たちの目的は「過去を変える」といった内容が多い。
図1を参照しよう。例えば、「自分」が「現在であるA地点」から「過去であるB地点」にタイムトラベル、つまりワープをしたとする。
図1
Aに突入しBから出てきた「自分」は、過去を変えるために目的を完遂しようと試みる。その目的は交通事故で亡くなった恋人を守るためだったり、大罪を犯してしまった友人を更生させるためだったりと様々あるが、いずれも「自分」以外の過去を変えるための物語が多い。
自分の過去そのものを変えるといった物語は案外存在しないのである。
何故だろうか。誰しも自分の過去を変えたいと思ったことがあるように、自分の過去を自分の力で変えても良いはずだ。しかし、ほとんどの物語では、過去の自分と関わり合うことはNGとされている。
それはどうしてなのであろうか。
図2
例えば図2のように、「A→Bへワープした自分」が、過去に存在した「Aに入るはずの自分」に接触してしまうとする。過去へタイムトラベルを行い、過去の自分と接触するということである。
すると、どうであろうか。
図3
図3のように、過去にワープした自分が、過去の自分に衝突することで、元々「Aに入る予定の自分」の軌道がずれてしまうのである。
図4
すると、図4に記されている通り、「Aに入る自分が存在しなくなった」にも関わらず、「A→Bへワープした自分」が存在してしまうのである。これは明らかに矛盾であり、パラドックスであることが分かる。
つまり、「祖父殺しのパラドックス」とは上記のようなことを指している。主人公が過去に戻って、主人公が生まれる前に過去の祖父母や両親を殺してしまうと、生まれるはずの主人公が生まれない世界戦になってしまい、「主人公が存在しない」という状況になってしまうのだ。
なので、ほとんどのタイムトラベル作品では、主人公が過去の自分や親に接触することが厳禁とされているのである。
『TENET』においても、主人公が過去へと戻った際に過去の自分に認知されてしまうと、対消滅を起こして消滅してしまうとの言及がなされていた。「過去へワープ」する予定だった人物の運命を大きく変えてしまう可能性があるからだ。(『TENET』の結末解釈についてはこちら→『テネット』)
過去の自分や親族と接触することは厳禁とされていると述べたが、多くの作家たちはそのタイムパラドックスと対峙してきた。例えば主人公が過去に戻った後、親だと思って殺したはずの人間が実は赤の他人であったり、自分だと思って接触した人物が生き別れの双子の兄だったりと、様々な設定を施して、タイムトラベルに整合性を持たせようとしている。
残念ながら逆も存在する。赤の他人と思って接触したら実は過去の自分であり、世界の混沌に取り残されるというパターンもある。
最後に、図5のように全てを「運命」という言葉一つで片付ける者もいる。いくら過去の自分と接触しても、運命と呼ぶ名の絶対的な時の流れが主人公の動きを変え、上手いように物語の辻褄が整合されていくのである。
図5
以上が「パラドックス」、そして「祖父殺しのパラドックス」についての言及である。筆者も過去へと戻って失敗した過去を変えたいものだ。しかし、失敗したからこそ今の自分が存在することも確かである。失敗を味わうことも大切であろう。
最後に、あなたは「運命」を信じるだろうか?
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Paradox (パラドックス) 「矛盾、ジレンマ」
※哲学では、「間違っているように見えるが、実は正しい場合」や「一見正しいように見えるが、正しいと認識されない場合」などを指す。
pike 「矛」
shield 「盾」
contradict 「矛盾する」 (名詞は" contradiction ")
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