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「挿画家からみた貫多の世界」信濃八太郎

2022年6月に読んだ文章
「挿画家からみた貫多の世界」信濃八太郎
『本の雑誌』(2022年6月号収載)


横溝正史の挿画といえば杉本一文、西村賢太の挿画といえば信濃八太郎である。

横溝正史を実は一冊と読んだこともないくせに、なぜに堂々と知ったかぶるかといえば、小中学生時に横溝作品を「貪り読み」コンプリートしたという西村賢太が、杉本一文に文庫本の挿画を書いてもらったときに、大喜びしていたのを覚えているからだ。
『日乗』に書いていたのだろう。

(講談社文庫 2018年)
(講談社文庫 2018年)

さてその信濃八太郎が2022年6月の、『本の雑誌』西村賢太追悼号に寄せて、書いている。

 三月、ひとり七尾にお墓参りに行きました。とんびの鳴き声と木魚の音くらいしか聞こえない静かな場所で、すぐその場を立ち去り難く、我ながら何をやっているのかと苦笑しながら三時間ほど墓前でスケッチをして帰りました。西村さんが建てた生前墓は、師の藤澤清造の墓より幾分低く作られていたことに、その時初めて気付きました。

『本の雑誌』特集 結句、西村賢太

忘れすぎ! である。
遺作の『雨滴は続く』(2022)もそうだが、随筆集『一日』(2012)のカバー挿画も、信濃八太郎による。

(文芸春秋 2012年)

『一日』のカバーの美しい紙は、石原慎太郎の何かの本を真似てみた、と、これも『日乗』に書いてあった。本の背を珍しく角にしたとも書いてあったが、この時まで私は、こんな細部まで気にして見たことがなかったし、どういう意味があるのかも、本に疎い私は知らない。

『一日』のときは朱だったはずの墓碑銘だが、『雨滴は続く』のカバーは恐らく没後のスケッチで、黒く墨を流し込まれていただろう。
どちらもモノトーンで、判らない。

(文芸春秋 2022年)



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