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『カスタマーレビュー 2002~2012』              『レビュー大全 2012-2022』小谷野敦   

 小谷野敦を初めて知ったのは、西村賢太の『小銭をかぞえる』のAmazonカスタマーレビューで、あまりにしっかりしたことを書いていたので「何この人、すごい、書評みたい!」と思った。
 そうしたら、ご自身で私小説も書く、プロだった。


 私はこの人の小説も好きだし、また、フィクションではない作も『文豪の女遍歴』や『芥川賞の偏差値』などを読んだが面白かった。実はフィクションじゃないほうが、読んでいて楽しいので、好きだ。
歌舞伎でも相撲でも江戸時代でも世界史のことでも、本当にまあ、東大出た人って何んでも知ってるもんだなァ、と感心しながら知識のシャワーを浴びて(恩恵に浴して)、大体は知らないことばかりなので「ヘェー」と感心しながら読んで、時々ぶっこまれてくる斬って捨てるような手厳しい本音に、ワハハと笑う。
 「シャワー」と書いたが、文体が性に合うというのか、とても読みやすい。すぐ没入できる。

 私は『小銭をかぞえる』のレビューが大好きで、2012年頃何度も繰り返し読んでいた。今でも時々思い出して読みたくなる。
 そうしたらなんと、Amazonから小谷野敦のレビューがごっそり、消えていた。

 このレビュー読みたさに『レビュー大全』、『カスタマーレビュー』の順に買ったのだったが、なんとどちらにも載っていない!!! 
 何これ焚書?

…えっと索引に漏れているだけかしら?
『小銭』の出版年からして載っているとすれば『カスタマーレビュー』のほうで、全ページに目をはしらせるも出ておらず。

いや、絶対あった、絶対読んだ、『小銭をかぞえる』のレビュー。
去年も読んでいる。

 中卒の西村賢太が二十代に打ち込んでいた田中英光研究が、「テクスト論」だのをこねくり回してるそこらの大学院生を凌駕している、と確かに書いてあったのだ。
 それはそうだ、西村賢太は全て自腹で資料を買いに歩いていたのだし、腹の括りようが違って当然なのだ。
 私は西村ファンとして嬉しくて、このレビューを何度も読んだのだ。

 もう読めないのかと思えば、余計読みたくなるもので、まったくAmazon何んてことしてくれるんだ、という気持ちになった。
 が、「小谷野敦 西村賢太」で検索したら、あっさり「本の話」のサイトで見つかった。
 何んだよ。と思ったが、まあ、これからは読みたくなったらここへ来ればいいのだ、と安堵した。でも、念のため、コピーしておいた。


西村賢太はこの「愛」を警戒したと思う

こちらが『小銭をかぞえる』のレビュー。鋭いです。

 それ(26歳)までに西村は、恐らく田中(英光)に限らぬ、大正から昭和にかけての、葛西善蔵、嘉村礒多といった破滅型私小説作家の作品を読み尽し、その周辺も調べ尽くしていたのである。その書誌学的、伝記的研究の精緻さは、同年輩の大学院生のうち、優秀な部類に匹敵するものであって、テクスト論などという手抜きの研究をしている末輩の遠く及ぶところではないのである。このことは、中卒の西村が芥川賞をとったなどという表面に気を取られている世間の軽薄を鋭く浮かび上がらせる。

小谷野敦


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