読み切り「ルックバック」感想 ~背中~


※ネタバレを含みます。短いのでまずは漫画を読んでください。

テーマは「背中」だ。
そして何度もこの作品を読め、『ルックバック』の意味は「振り返れ」「後ろを見ろ」である。

伝えたいのはこの2点以外あまりない。
基本的に私はバカなので、高度な文化教養を必要とするような解説や気づきは教えることはできないのでその点了承の上でお読みを。マジで感想です。



正直何度読んでも、いやむしろ、何度も読むとより「背中」が印象的に描かれている。それはなんとなしにつたわる。

これが「藤本タツキ」の魅力だと思う。
説明するために少しわき道にそれると、僕の持論では漫画は極論文字はいらないと言わんばかりに最低限でいいと思っている。どういうことかというと、それは「文字を多くしすぎるな」という意味。もっと言えば、「言葉で説明しすぎるな」という意味。それなら、小説でやればいい。同じ構図の繰り返しや、絵の描き方、コマ割り、そういったところで、うまく伝えることができるのが漫画の最大の魅力であり利点である。
それを使わないのであれば、映像でもいいし小説でもいい。

そう考えると、この『ルックバック』は最大限に漫画の利点を生かし、そしてそれをフルで生かせるだけの技量があるからここまで面白い。

終始、ずっと主人公である藤野の「背中」が描かれる。絵を描くシーンは基本的に背中向きである。背中だけ向いている見開き2Pがあるくらいだから、余計に背中が印象付く。
そして、後半になると同じ構図で、また見開き2Pで背中が描かれる。
そこで、京本がちょこんとそこにいる。
そこで少しだけ、二人でいる、ということの描写が浮かび上がってくる。

あまりしつこく「二人仲良し!」という絵面ばかりだけではなく、こういった描写が出てくるのもリアルである。

しかし、二人が別れて、そのあとの藤野の背中は、ほぼ同じ構図で、あまり絵も変わらないのに、はっきりとそこに寂しさが映る。
あまり絵も変わらないのに…というのはあくまでもそこに描かれた「藤野」の絵を切りとり、物理的に比較した場合であって、これが漫画だとそうもいかない。これが漫画の神髄。

そうしてそのあと、後半シーンに移り変わっていく。

ここの構図も、本当に上手。
暗い暗い、藤野が落ち込んでいる部屋から、漫画の1コマが滑り落ちて、光の差す明るい部屋へ切り替わる。
そこから終始明るい色合いで話が進み、そうして最後に、またそこから、明るい部屋からコマが滑り落ちて、元の暗い部屋へするりと戻ってくる。

しかし、ここで肝心なのは、「光が差したと思ったら闇だった」わけではない。闇に、この京本の『背中を見て』の漫画が滑り落ちてきたのだ。
闇に差した光なのだ。小さな。
闇を抱えた人間にとって、そこまで大きな、すぐに世界が開けるような大きな光はやってこない。ちょっとした光が差し込んで、そこから少しずつ闇から抜け出していくだけだ。
そういう意味で、安易な救済を与えず、しかし確実な可能性を与えるのはさすがだと思った。


そうしてラストシーンに入っていき、今まで背中ばかりの構図だったのが、「机から振り返って見た」構図が入ってくる。
そこにいたのは京本。

ああもう、後はいいか。

自分で感想を書きたいといいつつ、漫画は漫画のままで読み取ってほしいという思いがあり、やっぱりこういう文章を描いているとエラく漫画の邪魔だと思ってしまってもう書けない。
あとは自分で読んでくれ。

しっかりと「振り返って、背中を見て」。

このマンガを何度も読み返して印象的な背中を、目に焼き付けておいてほしい。


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