日記 宇宙に放り出される

めちゃくちゃ好きな漫画に「君と宇宙を歩くために」という漫画がある。日頃の生活に性質上なかなかなついていけない人々の話で、そのうちの一人が「なじめないとき、自分だけ宇宙に浮いたような感じになって、歩けなくなる感じ」と言うのだけど、その表現がとても好きだ。

自分もよく、宇宙に放り出される。
宇宙に放り出されると言っても、もう大人だ。学生や新入社員であれば、「浮いているぞ!!!」という人間もいるやもしれない。しかし、ある一定年齢になると誰も言わなくなってくる。
逆に、自分から見ていても「ああ、この人宇宙に浮いているなぁ」と思うおじさんもいる。けどおじさんに若造がそんなこと言うわけにもいかない。それが業務に支障があれば、流石に言うけど。

自分が浮いているのかすら、この歩き方が正しいのかすらわからないまま、歩いている。
これが進んでいるのか後退しているのか、まるでわからない。何も掴めない。

それこそ、まさに宇宙に浮いている。

右も左も、上も下も、わからない。
みんながしっかりと地の上を歩いている横で。
ただ、長年この宇宙飛行士をやった、とんちんかんな失敗はさんざんやった、あっちゃこっちゃと宇宙を飛び回ってはねて回ってとやったから、もはやベテラン宇宙飛行士だ。
宇宙に放り出されたとて、「またか」と思い、長年の勘で上下を掴み、重力のある方向を見つけ、そこへゆるりと戻る。そのすべは身につけてきた。

それでも、この宇宙に放り出される恐怖は、いつだって変わらないのだ。どうやってもこの恐怖は軽減されない。怖いまま。
若いときは、歳を取ると、いろんなものが怖くなくなると思っていたが、案外怖がりながらおっかなびっくりしながらやっている。
これは多分僕だけじゃない。

以前、めちゃくちゃ陽キャな上司がいた。ナンパガンガンやってて奥さんもナンパで引っ掛けた女、ダンスやっててアメリカに留学したとかなんとか。そんな陽気な、自分とまるで真逆の上司がいた。
そんな人間は、臆病な自分と違って、怖いものはないのだろうと、そういうふうに考えていた。
その上司と一度、物凄いクレームを処理したことがあった。もう今部署にはいない前任者が残した爆弾が爆発し、こちら側が一方的に悪いような話。とはいえ、もちろん会社としてだからといって100%の要望に応えられるわけではない。
自分は何度も「ここまでしかできない」と粘ったが、その都度怒鳴り返され、どうしても納得を得られなかった。
なので、その陽キャ上司を頼ることにした。もうどうしても上同士で話すしかないと。
それで現場に行って同じような説明をした。
当然、怒鳴られた。
そして、上司は返した。

「そう言われましても、ここまでしかできません」

めちゃくちゃ声震えてた。全然俺でもわかるくらいちょっと震えてた。
けど、絶対譲らなかった。
ずーーっとできないときっぱり言い切り、なんとか相手に飲ませた。

あれを見て、ああ、案外どんな大人も、見せないだけで、怖がってるんだなぁと。
みーーーんなみんななにかに怖がってる。怖がって怖がって、ガタガタ震えちゃいるけど、おっかなびっくりやってるんだなあと。
宇宙にふわふわと放り出されて、みんな毅然として不安なくやってると思ってたけど、ちゃんと怯えながらやってるんだなと。

それをみてちょっと、怯えててもいいのかぁ、と思ったりした。

なのでそういうことを思い出しながら、今日も明日のことを不安になりながら宇宙をふよふよと浮いている。ガタガタと震えながらも、「こっちであってるもんねー」と言いながら、宇宙をふよふよ歩いて行ってみる。
怯えと一緒に歩いていく、宇宙を。

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