肉まん

その日は朝から何もかもが億劫で。
そんな朝になるなんて分かってない一か月ほど前に病院の予約を入れたから行くしかなくて。
しかも色々と同じ日に予定を入れていたので動くしか選択肢はないので。
子供達を送り出して渋々と自分の身支度をする。

私はただのそこらにいる主婦だけれども子供がいるとスケジュールは子供を中心に回していきがちだ。
加えてそこに仕事も行ってるので詰め込める日に詰め込んでしまえの日が
できてしまう。その日もそんな日だった。

病院は待つのが前提の場所だがその日はやたら待たされる羽目になり余計
気分が悪くなった。言葉では謝罪されていてもその奥に潜むものに人は時に苛立たされる。看護師にカッとなりつい感情をぶつけてしまったりと散々だった。その後の予定のおかげで何とか持ち直して、無事にやることを全部終わらせることができた。

上の子が定期テストで早く帰ってくる。どうせ帰ってきても勉強しないんだ。また勉強しろって怒ってしまう。昼ご飯用意しなきゃ。やることがまたどんどん生まれてくる。

好きなゲームとコラボしたお菓子と通販の支払いをしようとコンビニに入った。帰ったらやることが山積みだ。憂鬱な気持ちを抱えてレジに向かう。
そんなことは全然知らないレジのお姉さんは美人な人だった。綺麗だなあ。
そうしたら美人はこう言った。
「あのー今日肉まん20円引きなんですけどどうですか」
唐突なプロモーションである。しかも愛想よく笑って言ってるわけ
じゃなく、何なら真顔である。
「……まじで」
そう言うしかなかった。反射である。
「すごくないすか、しかも肉まん以外も全部20円引きなんですよ」
「それすげえな」
いやなにがすごいんだ。今ならそう思うんだがお姉さんはわざわざ肉まんの棚まで移動した。
「色々あるでしょう。良かったら好きなもの見つけてくださいよ」
お、おお、確かにいろいろある。日頃から買う方じゃないから知らなかったけど。
「え、じゃあ……肉まん2個もらおうかな」
どうせ子供も食べるだろうし。
「はーい」
ここまで真顔だったお姉さんがふっと笑った。
「すいません肉まん買う予定なんてなかったですよね」
「いやいいです、子供も帰ってくるから」
袋どうしますかと問われたから肉まんの分だけもらった。
「この肉まんたれがついてるんですよ、何かねえ醤油と酢が混ざった、ほら餃子のたれみたいな…まあ餃子のたれですね」
面白すぎるこの美人店員のファンになってしまった。
「肉まんって辛子つけて食べるって言ったらびっくりされて」
「色々あるみたいですね、文化の違いじゃないかな」
そんなことまで話して店を出た。憂鬱はお姉さんのトークと肉まんの湯気で吹っ飛んでた。

きっと彼女は私がこんなに救われたなんて気づいてもいないだろう。
人は些細なことで傷ついて救われる生き物であるなあとか思ったのだった。肉まんはおいしかった。

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