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おにぎり(前編)

昨日までの雨が嘘のような雲1つない空。透き通るような青と言うよりは、研ぎ澄まし刺さるような蒼い空。


昨日までの冷たい風とうって変わり、心地良い風が吹いている。心地良い上に何処となく懐かしい風で忘れかけている昔の思い出が甦りそうな風。風の温かさ、強さ、匂い、質感…上手く説明出来ないが、たまに『この風、何処かで吹かれた風だ』って風がある。



久しぶりにそんな風が吹く小春日和に地元に帰り母親に会ってきた。母に会いに行く朝は必ず電話が掛かってくる。


「ご飯作るから、何も食べずに来なさいよ。」


子供の頃のイメージのまま料理を作るから、食べれないぐらいの量を作る。だから、電話があると食べ過ぎてもいいように胃薬を持って家を出る。母も俺と一緒に食べるのが楽しみなのかなと思うと無理してでも出された物を全て食べてしまうからだ。



本当は近場でも旅行に連れて行けたらいいのだが、今はそんな余裕がない。俺は甲斐性ない上に今だ未婚で孫も抱かせていない。だから、せめて顔を見せに行くことぐらいしか出来ない。



母親に会ったからと言って何をする訳でもない。一緒にゴロゴロしながらテレビ観て、夕方になれば一緒に食事をするだけ。



唯一、変化してると言えば母親がマンションに引っ越して半年が過ぎ、今の旦那さんの物が目だち出して居間に座って居ても、居心地が悪く感じことぐらい。居心地の悪さに切なさも交じる。



まぁ、仲良くやってる証拠でもあるんでしょうけど。そんな母親の所にくるとベランダに置いてある椅子に座り景色を眺めるのが楽しみの1つ。



今日みたいな空の蒼さが際立つ晴天だと、山の稜線をより際立たせて山をいつもより大きく見せる。何処からか聞こえる子供達が遊ぶ声、いつもなら煩く感じるのに今日は気持ち良くすら感じる。



ベランダで座り隣で洗濯物を干しながら独り言のように呟き、語りかけてくる母親。子供の頃はウザいと思っていたが、この歳になると悪くない気もする。



そんなベランダで風に吹かれていると子供の頃に縁側で悪態つきながら母親と話していた頃を思い出す。

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