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「サマーチューリング」制作裏話

はじめに

2021年8月28日に、サマーチューリングが公開されました!

プレイしてくださる方がいるのか心配でしたが、感想やいいね!を拝見して嬉しさを噛みしめております。本当にありがとうございます!

この記事では、着想元の小説のことや、構想はしていたもののうまく盛り込めなかった設定など、制作中の紆余曲折を思いつくままに書いております。
本編以外の情報や、作者の意図などを目にしたくない方はお読みにならないでください。
また、トゥルーエンドの内容にも触れていますので、プレイ前の方はご注意ください。


タイトルについて

イギリスの数学者アラン・チューリングが提案した、機械が人間的に思考したり振舞ったりすることが可能かをはかる「チューリングテスト」が元になっています。

あとは夏の話なので、安直にサマーチューリングとしました。公開時期が間に合ってよかったです。


着想元の小説と「レテ」について

ハクスリーのディストピア小説『すばらしい新世界』(※)に大きな影響を受けています。
人間はすべて工場で生産され、受精卵の時点で組み込まれた能力により、アルファ、ベータ、ガンマの階級に分かれている世界。歪んだ世界に疑念を抱かないよう幼いころから催眠教育をほどこされ、何か辛いことがあれば、政府支給の「ソーマ」というドラッグでトリップしてしまうことを推奨される世界の話です。

ゲーム内では、このソーマを「レテ」として登場させました。ユゥジが常備しているうさんくさい薬ですが、この世界ではエナジードリンクくらいお手軽なものと考えています(正しい服用方法であれば、パーっと楽しい気分になるだけです。ユゥジやマユズミが使用するのは成分を強めた医療用のレテなので、記憶を消す効果があります)。
バーの背景には、このレテの看板らしきものを加えてみました。

左の壁の「A gramme is better than a damn.(うらむより一グラム)」が、原作から引用したソーマの売り文句です。

『サマーチューリング』の中では、このドラッグを記憶消去装置として機能させたかったので、ギリシア神話で「忘却の川」を指す「レテ」という名前に変えています。
また、ルカエンドと"マユズミ"エンドにも、おなじくギリシア神話に由来する「エリュシオン(死後の楽園)」と「ピグマリオン(自分の彫った彫刻に恋をしてしまうキプロスの王)」という言葉を使っています。語感がかっこいいですよね……。

※『すばらしい新世界』黒原敏行訳、光文社古典新訳文庫、2013年。ISBN 978-4334752729。


ストーリー/キャラクターについて

  • ルカについて
    構想初期は物静かでおっとりした性格だったのですが、思いのほか饒舌になってしまいました。型番が「Type:Bergamot」なのは、念のために決めていた誕生日の花言葉を使ったからです。

ルカ………8月9日/ベルガモット「いちずな愛」
ユゥジ……8月15日/ミント「誘惑」
マユズミ…8月14日/サルビア「燃ゆる想い」

  • ユゥジについて
    構想初期ではルカと同様、実験対象のアンドロイドの1体だったのですが、いつしか「主人公の恋人」という設定になりました。主人公に対しては強い独占欲と執着心がありますが、本質は性に奔放な両性愛者だと思っています。

    ※名前について
    とある商業乙女ゲームのキャラクター名をそのままいただいています。小さい「ゥ」が奇抜で近未来的で素敵で……。

    ※髪型について
    好きなヘアスタイルなのですが、描くのが難しくて苦労します。いつもラッキー・ブルー・スミスというモデルさんの写真を見て描いています。


  • マユズミについて
    マユズミは構想初期からほとんど変わりありませんが、眼鏡にしようと思っていたのを画力の問題で省略しました……。
    もともと「黛 千影(ちかげ)」というフルネームを設定していましたが、ストーリーを練るうちに「ユウジ」にしたほうが面白いと思い、あの結末になりました。

    真の姿と名前があって、何かの拍子に髪の色が変わる……という展開が大好きなので、無事に形になってとても満足です。これからも、隙あらばこの手のキャラを出していこうと思います。


"マユズミ"エンドについて

周回でルートが開放されるという乙女ゲームの鉄板がとても好きなので、こちらもなんとか取り入れることができてほっとしています。

ゲーム本編で起こることは、ほとんどが黛が行っている「シミュレーション」の中身です。ルカはプログラム通りに動いているソフトウェアで、実際には意思はありません。
現実のユゥジは、実体はないものの自由意思をもつ人工知能です。シミュレーションの中では、「長年付き合っている恋人」としてヘラクレス的な肉体を得て、主人公を誘惑する役割を担います。実際に主人公には好感を抱いているのですが、生みの親である黛に対しても、憐憫に近い愛情をもっています。
男性性を誇張するようなビジュアルなのは、黛があえて自分とは正反対のキャラクターを競争相手に据えたためです。女性はきっとこういう男が好きだろうという歪んだ認識の結晶で、その上でそういった相手を差し置いて自分を選んでほしいというエゴの表れです。それなのに、ユゥジと主人公の行為を覗き見て興奮するような一面もあり、もはや自分でも、自分の望みがわかっていないのだと思います。

「シミュレーション」の世界は近未来の日本ですが、シミュレーションの外、黛にとっての現実世界は遠未来を想定しています。あの薄暗い実験室は、地球ですらない遠い惑星か、広い銀河を孤独にさまよう宇宙船内のような気もしています。

見方によっては、3種類すべてがバッドエンドというゲームになってしまいましたが、何かひとつでも気に入っていただける要素があれば本望です。


今後の展開について

続編などの制作予定はありませんが、似たような顔のキャラクターは今後も登場すると思います。

次回作は、クリスマスにまつわる話になりそうです。サマーチューリングとは違って明るい話です。全部ハッピーエンドにします! きっと!
順調に進んでも2022年秋冬以降の公開になりそうですが、少しずつ制作を進めておりますので、温かく見守っていただければ光栄です。

とりとめのない長文をお読みいただき、本当にありがとうございました!


関連情報


参考サイト

この記事を書くにあたり、以下のページを参照しました。