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FLMASK事件を思い出す

映画「Winny」

このツイートを見て、ちょっと書いてみようと思っていたのですが、
気がついたら月が変わっていました。

私はWinnyや作者の金子勇氏に関しては思い入れはありません。
ただWinnyが P2P(ピュア・トゥ・ピュア)というプロトコルを利用しているというだけで、「P2Pは犯罪である」という間違った認識が広まり、P2Pという言葉を聞くだけで他人を叩く人が出てきたのには困った物でした。
こういった誤解は一旦広がり始めると、発信力を持たない人が何を言っても止まりません。

ちなみにP2Pとはネットワークの中からIPアドレスを指定して特定の端末を探し出し接続する仕組みです。IP電話・チャット・メッセンジャー・ゲームあらゆる物で使われるごく普通の技術です。

この辺の事は昔、ネットランナーという雑誌で、映画など著作物の違法ダウンロードを邁進する記事を書いておきながら、愛知トリエンナーレでは芸術監督という大層な肩書をつけていた津田大介氏が詳しい事でしょう。

一応フォローしておくと、昔はフリーソフトなどを公開していると、雑誌社から毎月「見本誌贈るから付録CDに収録させてくれ」という依頼が届いた物ですが、無断で収録する出版社も多かったのです。
雑誌の内容はアレでしたが、ネットランナーはその辺マメで丁寧でした。

FLMASK事件

そして本題。
私は画像処理のフリーソフトなども作ってた時期もあって、その意味ではFLMASK事件の方が衝撃が大きかったのです。
まだOpenCVのような画像処理ライブラリもなく(そもそも初期のOpenCVってかなりシンプルな機能だったような)、たとえば画像を30°傾けたいと思えば、全ピクセルに対して三角関数で座標を計算してやらないといけない。そんな時代の話です。

いまだに三角関数は苦手だ

FLMASKというのは画像に可逆マスクをかけて被写体を認識できない状態に変換し、復元プログラムにかけるとオリジナルの画像に戻せる、暗号化プログラム。

これはFLMASK互換のGMASK

話はズレますが画像処理ソフトのボカシなんてのも逆関数をかけたら意外と外れたりします。ボカシも関数なのです。

FLMASKは画像の暗号化ソフトなので、ソフト自体には違法性も何もないのです。しかし、このFLMASKで加工された猥褻画像が広まったため、警察に目をつけられました。そして作者が逮捕されニュースで報道されます。
「〇〇容疑者はこのソフトを販売し、3000万円以上荒稼ぎしていた模様です」
・・・ちょ、ちょっと待って?ソフトを売って稼ぐ事って犯罪ですか?

そして裁判となるのですが、もちろん暗号化ソフトを作ったからといって罪は問えません。実際の逮捕理由はサイトにポルノサイトへのリンクを貼っていたからという物、猥褻物陳列罪幇助。

これがまた問題で、当時はネットの利用者も少ない黎明期。「リンク」という概念を裁判官が理解できなかった。現在ではとても信じられない理由。(Wikiによると既にこの時期、猥褻サイトへのリンクで起訴猶予になった事件もあったそうです)

こういった話をすると「自分がポルノ画像を見ているから擁護しているのだろう」という低レベルな話にされてしまう。
私、当時は自宅用でも動画編集用ボードを積んで100万円以上するPCにLightwaveやStudio Maxなど50万位のソフトを何本も入れて使ってたので、そんな怪しいサイトを見てウィルスとか入ったら困ります。
アダルトサイトも2chも見たことがなかった。
職場に至っては1000万円以上する旧シリコングラフィックス社のワークステーション。IRISだったっけ。職場はイントラネットでしたが。
自分が低俗な思考だから他人も同じ思考回路してるなんて思い込みは勘弁して欲しい。認識がおかしいという事を主張したいだけなのです。

結局この件は作者が上告しなかったため執行猶予付きの有罪判決。
FLMASK事件が1997年。Winny事件が2003年。
どちらも警察の暴走状態だった訳ですが、この6年でインターネット利用者が増え、Winnyの時は支援者も多く恵まれていたと思います。

窓の杜とぴっくす「FLMASK」作者の逮捕に伴う掲載中止について (4/12/97)

そういえば、昔KLEZと言ってPCのブラウザキャッシュからメールアドレスを無差別に抽出し、そのメールアドレスに成りすまして拡散するウィルスが流行りました。その際、どこぞの学校の自称ネットワーク管理者というのが私からウィルスが送られてくると難癖つけてくるので、IPアドレスやKLEZウィルスの説明を一からしてやったのだけど、理解できなかったようで、何が何でも私のせいにしたがる。
いやいや、あなたの知識が足りないのは私のせいじゃないんだけど?
その頃まではメールアドレスは普通に皆晒していたし、ましてや私は窓の杜の常連だったのでメアドなどあちこちのPCにキャッシュされてる。
(その件があって以降、窓の杜にもメアドの掲示消してもらいましたが)
知識もなく他人を責めるのは自分も加害者になっているという事を理解して欲しい。昔と違って今は匿名が大半になってしまい、一層無責任になってる訳ですが。

教育改革国民会議「バーチャルリアリティは悪である」

平成12年(2000年)に話題になった議事録

バーチャル・リアリティは悪であるということをハッキリと言う
はぁ?
バーチャル・リアリティは悪であるということをハッキリと言う
はぁ?
バーチャル・リアリティは悪であるということをハッキリと言う
はぁ?
きっと大切な事だと思いますので三度書いておきます。

今のメタクエストなどの3D体感技術の事ではなく、おそらく
ゲーム=バーチャル・リアリティ」という勘違いをしている。
当時でもナンジャタウンなどのアミューズメントパークに行けば大きなゴーグルをつけてのアトラクションがあったり、医療方面へのアプローチなどは普通にあった筈だが、蛮人には理解できなかったようだ。

悪魔の炎だ!!

何と言うかもう、写真技術の普及時に「写真を撮ると魂を抜かれる」という迷信やオカルトを信じ込んでいる未開人を見ている気分になってしまう。

小池都知事「人工知能、つまり私」

何を言ってるんだ?この未開人。と、思ったのがもう7年前ですか。

自分が理解できないから、他人も理解できない筈だとか、本当勘弁して欲しい。知識に対して謙虚さを持って欲しい。

インターネットは「世界を合理的にする」と思ったら「クレイジーな人間」が仲間を見つける手助けをしただけ —— ビル・ゲイツ

ビル・ゲイツに対する評価はともかくとして、ネットの黎明期は私も「知識の共有」という未来を想像していました。
しかし実際にやってきたのは年柄年中、朝から晩まで他人を叩き続ける人達。黙って見てりゃ5年も10年も同じ事を続けている知人がいたりする。
小学生が中高生になる期間ですよ。もっとできる事あるだろうに。

・理解されない技術は時として攻撃の対象となる。
・理解しようとしない人には説明しても無駄。
・無闇矢鱈と他人を攻撃しなければ問題はない筈だが、相手はそうは思わない。

木星にたどり着くまで科学は進歩しても、
人類はむしろピテカントロプスに近づいて行ってるのかもしれない。


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