タコった話(明太パスタ味


今月、タコをうった。(不動産会社において1つの契約もあげられなかった事を言います。)
これといった売り上げ、もしくは仕入契約の見込がなく、頭を悩ませた1ヶ月だった。

ぼくみたいな不出来な営業マンは、売上の匂いを嗅ぎ分けられずに東へ西へ、北へ南へ毎月走って走って案件を纏めるけれども、

専任媒介や買取再販物件の反響が全く鳴らなく、今月に至っては走れる見込客がなかった。

Twitterには優秀な、というか天才が多いので「あ、今月ヤバいな。」

この感覚を感じ取れる人がいるかどうかわからないけれども、ぼくは仕事ができないタイプの営業なので危険予測から、この感覚が月初から既にあった。

その中でも、唯一、売上になるかどうか、抱えていた案件が離婚でマンションの売却の話だった。
売主は、早くこの家から出て行きたく、
ぼくの配布したチラシを見て買取を希望しての連絡だった。

旦那様、奥様それぞれにお話を聞くと、
小さなお子様に振り回され、ワンオペ育児に疲れ、奥様は少しうつ気味になっている様子が伺えた。

ご主人は仕事の多忙さから、帰りも遅く、
家族とすれ違う毎日の中で、
ついに奥様はご主人への家事育児参加への不満が爆発して家を飛び出し、近くのアパートを借りて住み始めて、別居が始まったのでご自宅を売却するという話だ。

約束したアポイントの日に査定でお伺いすると、室内はだいぶ荒れていた。

まだ小さい子供が与えられたおもちゃを散らかし、片付ける間も無く時間が過ぎて夜になり、
子供を寝かしつけた後に、ご主人が帰宅すると散らかったリビングを見て、なんだこの部屋の汚さは!と、奥様を咎める。

朝から晩まで家事育児に追われて、疲れ果てた奥様がそれなら少しは手伝ってと反論する。

反論されたご主人は、仕事で疲れて帰ってきた後に怒鳴られ、もうやってられない。と言い争いになり、夫婦仲は限界に達した。
といった具合だったそうだ。

いまはご主人と娘さんの2人で住んでいる3LDKのマンションを査定しながら、そんな話を自然と聞き出せたのだった。実需の不動産売買仲介やっていると、ここまでは本当によくある話だ。

査定をしながらの会話の中で、ご主人は娘さんとの生活が始まったものの、これまで料理は奥様が担当で料理が出来ないので、困っているという話があった。

実は自分は料理は好きで、休みの日は簡単なおつまみから、その週で食べ切れる日持ちできる料理まで、いつも何らか作っているので、それならばと、簡単な料理から始めてみることを提案した。

提案したのは、明太パスタだ。

パスタを好みの湯で加減で塩茹でして、
冷凍でスティック状になっている明太子を溶かして、バター、めんつゆとマヨネーズで和えたあとに、
大葉もしくは刻み海苔をかければ完成で初心者向けで、簡単で更に美味しい。
包丁を使わないので、手軽にできるし30分程度で完成だ。

おじさん2人がキッチンに並んで、料理している絵面はとても酷いものだけれども、

ご主人は幼稚園から帰る娘のためになるならばと、これまで取り組んだ事のない料理に一緒に取り組んだ。

後からお話を聞くとパパが作ったんだよ、と言うと娘さんは本当に感激したらしい。

確かに、自分も滅多に料理をしなかった父親の作った料理を食べたことがあるのが、今の年齢になっても強力に記憶に残っている。

娘さんを幼稚園に迎えに行って、マンションのエントランスまで送り届けるのは奥様の役割だった。

幼稚園からマンションへ向かう道中、
娘さんがパパが明太パスタを作ってくれて一緒に食べて、美味しかったと嬉しそうに説明したらしく、奥様は「あの人が、料理を…。」と、
ひどくびっくりした様子だった。

ご主人はご主人で毎日料理を2品、3品作りながら仕事をして、子供もみて、かつ、部屋の掃除にお風呂の準備、寝かしつけ...。

大変だったんだな、と痛感したらしく、その話を再査定で業者に卸すか、卸さないか瀬戸際の商談時にぼくに、今までのことを反省するように告げた。

別の日に奥様のアパートへ出向き、
いざ、媒介になるかどうか、買取業者に卸すのかどうかの話の中で、
なんだかこのご家族がこの家を手放したら本当に分解され、元に戻ることはないのだろうなと感じながら、最終的にはご家族の判断になるけれども、まだ元に戻る選択肢もなくはないような雰囲気が見受けられた。
一旦の冷却期間を置いて、再結成するバンドのように、このご家族もあり得る可能性を感じ始めた。
「ぼくが言うのもなんですが、ご主人、これまでの事を反省してましたよ。いまはパスタとかうどんとかそんなレベルかもですが、1ヶ月でここまできたら来月はもっと上達するでしょう。一度、食べてみては?」

2月23日祝日の夜、ご主人はがんばって奥様と娘さんに料理をふるまい、
家族全員が揃った料理が家族の仲を急激に回復させたのだった。

2月25日金曜日、マンションの契約となると書類作成上、月末ぎりぎりの契約に持ち込めるかどうかのタイミングでの商談で、
当然、離婚は見直されることになり売却の話は立ち消えになり、ぼくは無事、今月タコってしまったわけだ。来月は社内で人権を失い、タコ野郎と呼ばれるだろう。
未達が原因で解雇されたら、東サンドバッグ副部長の助言通り、足立親方に擦り寄って生きるのがいいのか…。

引き続き言うと、ぼくは天才ではないので毎日、売主様や買主様探しに案件を作るしかないけれども数字にならない話もたくさんある。これもそんな話だったのかもしれない。

2月28日、来月はタコらないように、今日は朝から明日の朝までポスティングに行ってくるか…。と反省していると、ご主人様から連絡がきた。

「今回は色々と、ありがとうございました。離婚はしなくなりましたが、結局売却して住み替える事になりました。つきまして、売却のお手伝いを是非お願いしたくて…。」

「もちろんです!是非、やらせてください!精一杯やります!」

「それでは、◯◯(大手仲介4社)と、御社5社の一般媒介契約でおねがいします。」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?