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大林宣彦「HOUSE」解説。背景情報、ラストシーンの意味とか

映画を見た人は皆こう思うだろう。ラストは父の再婚相手が屋敷に来てオシャレと話をしたと思ったら燃やされて終わりだからだ。HOUSEを観た人は分かると思うけど、ラストシーンとかいまいちどういう意図なのか分からないところもあった。

なので小説から背景情報などを確認した。思った以上に登場人物の心情とか色々書かれてた。後述の通り最後にオシャレがどうなるかも書かれていた。


この記事の内容はもうHOUSEを観た人が場面の背景情報を確認するためを想定する。気になった人はぜひ映画を見てほしい。


小説に書かれていた背景情報

学校の名前は聖徳女子学園でオシャレ達は中学2年生の設定

小説を読んで気づいたけど学校の名前まで設定されてた!細かいな。

オシャレとファンタは最初に何の写真を撮っていたのか?

オシャレ達演劇部は秋の学園祭の「白雪姫」の舞台稽古をしていた。
東郷先生は演出で、夏休みの合宿中に集中的な稽古を計画していた。

東郷先生はオシャレに白雪姫をやらせようとしたけど、オシャレは意地悪な王女様役をやりたかった。

冒頭のシーンは、オシャレが部室にファンタを訪ねてきて、王女様の扮装をしたいと頼んだところだった。そこで2人は衣装部屋で窓をカーテンで覆って、写真を撮っていた。


ちなみに小説では、オシャレが王女様役の扮装があまりに似合っていたため、ファンタはオシャレが永遠に王女様役を演じるのではないかと不安になるシーンがある(後述の通りこれは伏線となる)


演劇部と関係者の設定

東郷先生

演劇部の顧問でファンタ達の担任でもある

オシャレ

あだ名通りにオシャレな女の子。映画では本名が木枯美雪であると分かる。


小説では容姿についても書かれている、
「外国映画の女優にだって負けない、エキゾチックな美しい容姿に恵まれていた」


設定ではファンタと仲良しだけどあまり演劇部に入りたがってなかったが、皆に誘われて入った。演劇部の合宿に行くことにも乗り気でなく、父親と軽井沢の別荘に行く予定だった。


父親と高層マンションの最上階に住んでいる(しかし、映画では家の前にポストがあるので小説だけの設定?)





叔母ちゃまからの手紙の返信だ来たところ
分かりにくいけど「木枯美雪」宛になってる



ファンタ

とても惚れっぽい。
素敵な男性がいたらすぐに憧れる。白馬の王子様を求めている。

オシャレは東郷先生を好感の持てるいい先生だが風采の上がらないパッとしない先生と思っているが、ファンタは理想の男性だと思っている。
小説でも「そうとうな重症な幻想過多病にファンタがかかっているよい証拠」とも書かれている。


ファンタは特にオシャレと仲がいい。小説でもファンタはオシャレに特別な感情を持っていることが書かれている。
「オシャレの場合は、競争してもとてもかないそうもない美貌への羨望、いつの間にか女性同士の憧れにまで変化してしまったのだ」



ガリ

がり勉過ぎてで近眼になった。流行のメタルフレームの眼鏡をかけている。

絶対に本を手放さず、勉強だけでなく雑学の知識もある。

幾何学の難しい定理を証明したり、里見八犬伝の犬塚信乃が素敵だと言ったり、吸血鬼ドラキュラ伯爵の系図についても語れる

メロディ

グループで1番の音楽好き。

ロックよりもメロディの美しい歌の方が好き。
アンディ・ウィリアムズの大ファン。

クンフー

「燃えよドラゴン」を見て以来、ブルース・リーにあこがれて、
ヌンチャクを買って練習を始めた。喧嘩も強いらしい。

小説ではヌンチャクを使ったり、ブルース・リーのような空手の構えをしたシーンもある。

スイート

世の中の汚れを知らぬ、西洋人形みたいな可愛い子ちゃんと紹介されている。

グループ内のマスコット的存在。甘ったれで臆病者だが優しい心を持っている。

マック

映画でもそうだけど小説でも良く食べることが描写されている。

「ドーナツの次はチョコレート、その次はおまんじゅうとそれは際限もなしに続くのである」

オシャレの父親

有名な建築家。
メキシコで(映画ではイタリア)超高層ビルの仕事を行っていた帰国したところだった。


ファンタの東郷先生への思い

小説では映画以上に東郷先生のことを思っていた。

ファンタが東郷先生の事を思っているシーン

例えば、映画序盤の演劇部が学校の校庭で話をしているところでは、

「ワーッ、クンフーの方が男性的だわ」ガリが、眼鏡を光らせて喜んだ。
「そう。東郷圭介、かっくいいのは名前だけ」メロディがギターを弾きながら節をつけて歌った。
ドッとみんなが大声で笑った。

「ひどいわ。先生のこと、そんなに悪く言うなんて…….」
ファンタはもう涙声だった。


叔母ちゃまの屋敷に閉じ込められ、メンバーが次々いなくなるところ。
映画では白馬に乘った東郷先生がファンタを助けるところを想像していた。

「ちょっとガリ、わたし、怖い…」ファンタがガリの腕に取りすがった。
「またぁ、変な声を出さないでよ」ガリも怖かったけど、懸命になって我慢していた。
「マックは首をちょん切られたのよ。メロディも、ピアノに嚙まれたわ。それにオシャレだって、スウィートだって、どこかにいなくなってしまった。きっとみんな、殺されたんだわ。」ファンタは、まるで子供みたいに泣きじゃくった。「今度やられるのは、わたしたちよ!」
「ちょっと!大げさなことを言って。騒がないでよ。もうすこしの辛抱なんだから。そのうちに、あんたの憧れの先生が来るんでしょ。あれでも、男さ。きっと頼りになるわよ。」
「先生が?」急にファンタの顔が輝き、涙をためた瞳が、夢見るようにうっとりとなった。
「白馬の騎士か。先生もいい役回りね」ガリが冷やかすように、ファンタの型をたたいた。

だが、ファンタの夢見る瞳は、もう動かなくなった。ああ、東郷先生…ファンタは、すでに幻想の世界に飛翔してしまっていたのだ。わたしは妖婆のお城に閉じ込められた、お姫様。
鎧に身を固めた東郷先生が、白馬にうち乘り、命を賭けて助けに来てくれる!

どんな物語を読んでも、その勇ましい救助は成功して、二人はめでたく….そこまで考えて、隣にいるガリをチラッと見た。そんなとき、ガリがいると邪魔なのよ。感激の抱擁!それは、二人っきりでやるものって、相場がきまってるんじゃない?

「よおし、先生が車で頑張らなくっちゃ」ファンタが涙をぬぐって笑った。
「いま泣いたカラスがもう笑った」ガリがはやしたてた。

東郷先生の心情

東郷先生はファンタをどう思っていたか?

正直東郷先生は映画でも小説でも見せ場がない。
渋滞に巻き込まれたり、やっと屋敷の近所についても結局何もできなかった。
でも東郷先生がどういう思いで屋敷に向かっていたのか、ファンタのことをどう思っているのか心情が分かる描写もあった。


頼りないと思われていても東郷先生は生徒のことを思っていたようだ。

東郷先生はさっきから、ものすごい数の自動車に囲まれて、すこしも動かないバギーにいらいらし通しだった。この東京から北にのびている自動車道路も、相変らずの交通渋滞で、見渡すかぎり、車、車の波であった。それに、先生お得意のおんぼろバギーも、背が高い高級車の間に埋もれてしまうと、相手から見おろされているような気がして、なんだか不愉快で仕方がなかった。 もちろん、先に行っている生徒たちのことも、心配でならなかった。みんな元気がいい子だから、うまくやってはいるだろう。きっと、おれがいないから、淋しがっているぞ。 チラッとそう考えて、先生は苦笑した。いや、いや、これは自惚れかもしれない。今頃はみんな陽気に、笑ったり、しゃべったり。うっかり遅れていこうものなら、またもや非難の一斉攻撃を浴びせかけられるに決まっている。急がなくては! すくなくとも、九時ぐらいまでには、着きたいものだ。


そう考えながら、先生は情けない顔で、あたりを見まわした。なにも食べないでとび出て来たから、オナカがペコペコなのだ。どこかにラーメン屋でもないかしら? だが、見渡すかぎりの車の波のまっただ中では、聞こえるのは、いらだったドライバーたちが鳴らしている警笛はかりで、見えるものといえば、道路にひしめくヘッドライトだけであった。 先生はもううんざりしてしまって、座席によりかかり、観念の眼を閉じていた。


東郷先生はファンタが自分を思っていることも知っていたようだ。

東郷先生は、やっと駐車場に、ハギーを停めることができて、ラーメンを頼っていた。 オナカがペコペコだったから、食べ方もガツガツしている。 「うん、こいつはうまい!」 舌づつみをうちながら、時計を見た。もう十時だった。 こうしちゃいられない。いま頃、なかなか来ないおれのことを、無責任だと騒いでいるだろう。そして、東郷先生は、 ファンタの夢見るような顔を思い浮かべて、ニッコリした。 そうだ、いくらみんなが非難しても、あの子だけはおれの味方をしてくれるだろう。いつも教室でも、校庭でも、気がつくと、あの子がじっとおれを見つめている。ひょっとしたら、 ファンタはおれのことを ......そう思ったが、いや、いやと首を振った。きっと思いすごした。 この年頃は何を考え ているのか、よくわからないのだ。 まあ、そんなことはどうでもいい。さあて、あしたからは”白雪姫”の猛練習だぞ。いくら


ファンタの理想の夢

これはラスト付近のシーン。他のみんなも食べられ、ガリも空き缶ジョーズに食べられ、いよいよ自分だけになったシーン(あの猫の血が噴き出してプールみたいになるところ)

小説ではファンタが幻覚を見せられたシーンがある。
この後はファンタは(叔母ちゃまが乗り移った)オシャレに食べられた。

「ガリ!嫌よ、わたしをひとりにしないで!」 ファンタの叫びも空しかった。二人の距離はみるみるうちに開き、やがて血の渦の中心に翻弄されたガリは、吸いこまれるように、まっ赤な海のふかく沈んでいってしまった。

それから・・・・・・静けさが来た。 ただ海鳴りのような、ゴーッというひびきだけが聞こえて いた。 ファンタは畳のヘリにしがみついて泣くばかりだった。 とうとう誰もいなくなって しまった。もうひとりぼっちだ。

突然、まっ赤な大波が押し寄せて来たかと思うと、 ファンタの眼の前で、音をたてて砕け散った。すると急に、とてつもない淋しさが襲って 来た。この大きなお屋敷に入るときから感じていた、漠然とした不安。

あれはやはり、避けることができぬ死の運命を予感していたのだろうか。 ファンタは、死神がゆっくりと忍 び寄って来る、恐ろしい気配を感じていた。畳はまっ赤な波濤に、木の葉のようにゆれ動 いていた。 ファンタは畳をしっかりと抱きしめて、恐怖と戦っていた。

すると突然、ものすごい大きな波が押し寄せて来た。 逆巻く血がファンタの身体をのみこんだかと思うと、 また一斉に引いていった。 ファンタの顔は、まっ赤な波に沈んだかと思うと、もがきなが 浮き上がった。

「死にたくなーい!」 大声が血の海に、空しく反響した。 が波間に没していった。 「助けて!助けて!」 「先生!」 畳も押し寄せて来る波に、沈みつつあった。

もがけばもがくほど、口が、眼が、顔全体 眼の前に、まるで波濤がぶち当たる岸壁のように、雨戸がびくともせずに列んでいた。い くら叫んでも無駄だった。 その瞬間、大波の血のしぶきが、またもや押し寄せて来て、 ファンタの眼の前を覆って しまった。

この世界のすべてが、まっ赤になった。 そのまっ赤の中に、無数の白いアブク の行列だけが、夢のように立ちのぼっていた。ああ、きれいだなァ。そう思ったのも一瞬 だった。それはすぐに耐えられぬ恐怖感にとってかわられてしまった。

大声で叫ぼうとして開いた口に、容赦なく血の波が侵入して来ると、ファンタは死にもの狂いて叫んだ。 「先生!東郷先生!助けて!」 そのとき、奇跡が起った。外からドシン、ドシンと何かを雨戸にぶち当てる大きな音がして、あの懐かしい東郷先生の怒鳴り声が聞こえて来た。 「ファンタァ! 大丈夫か!」 その瞬間、スローモーションの爆発を見ているように、ゆっくりと雨戸が粉々になって とび散った。同時にファンタの身体は、どーっと流れ出る赤い血の奔流に押し流されて、 庭にとび出していった。 バギーからとび降りた東郷先生は、男らしく、凜々しかった。 ファンタは、夢中になって駆け寄ろうとしたが、 よろめいて地面にひざまずいてしまった。 先生ががっちりした腕 で、ファンタを抱き起した。青白く降りそそぐ月光の中で、二人はまるで恋人のように抱き合っていた。

ファンタの眼は幸福に輝き、いままでの恐怖を振り捨てて、しっかりと先 生にかじりついて、眼をつぶった。すると、東郷先生はファンタの血に汚れた頬に、優しくキッスをしてささやいた。

「もう大丈夫だよ」

ファンタは涙をため、幸福に輝く眼で見上げた。
「東郷先生!」


ああ、先生にこんなに優しくされて!わたしは、もう死んでもいい......

そう思った途端、抱きついていた先生の姿が、パッと消えた。 「アッ!」見まわした瞬間、まっ赤な大波がふたたび座敷から、ものすごい勢いで押し寄 せて来て、 ファンタを無情にも、屋敷の中にのみこんでしまった。

それと同時に、粉々に なった雨戸も、映画の逆回転のように、破片をたちどころに集めて、何事もなかったよう に、またもとの厳重な砦を築いてしまっていた。 ファンタはまたもや、まっ赤な世界に漂いつづけていた。




叔母ちゃまのフィアンセへの思い



鏡の前の女が、恐怖におびえた。 突然、すさまじい爆音が迫って来たのだ。 鏡の中に、零戦の大編隊が超低空で飛翔して来たかと思うと、次の瞬間、おびただしい 数の日の丸の旗が、歓呼の声と共にどよめいた。

あのとき、あのひとの小指が、わたしの小指にしっかりとからまった。 「きっと帰って来るよ、ね」 約束の指切りだった。 たすき 軍服に白襷。それには、〝祝、出征〟と墨くろぐろと書かれている。 あのひとが、わたしを見つめていた。 ああ、その優しい眼が、いつまでも忘れられない。その眼はとてもきれいで、二人が一 緒に遊んだ森の上に広がっていた青い空のように晴れ渡り、二人が一緒に泳いだ川の水のように清らかに澄んでいた。 わたしもじっと見返して、力をこめて答えた。「わたしだっていつまでも、お待ち していますわ」 その途端、わたしの頬に、大粒の涙がこぼれ落ちた。 するとあのひとは、わたしを優しく抱きよせ、指の先で涙をそっと拭いてくれた・・・・・・

女は、枯木のようにひからびた両手で顔を覆って、その場によよと泣き伏した。ごっそ とやせ細った肩が、嗚咽するたびに、かすかにゆれている。 突然、顔を上げると、大声 で叫んだ。 「うそよ! あのひとは戦死なんかしていない!」 もう人生に疲れきった、最後の力をふりしぼり、懸命に立ち上がると、部屋の中をびっ こをひきひきあてどもなくよろめきながら、歩き廻った。

戦死の公報。真新しい墓標。 わたしは茫然となって、裏山の墓地にいつまでも立っていた。両手で持ったまっ赤なバ ラの花束を見つめていると、どっと涙が溢れて来た。 「わたしは信じない。あのひとが戦死したなんて!」 するどい棘が指を裂き、血がたらたらと滴り落ちるのもかまわずに、バラの茎を力一杯 握りしめていた。 「あのひとは帰って来る…きっと、帰って来る!」

そう心で叫ぶと、女はまたかすかな希望に輝き、やせこけた頰に、ほんのわずかだが血 の気がさして来た。 どこからか、女を呼ぶ声がひびいた。 女はハッとなって、振り返った。 鏡の中に広がる夕焼け空。 そこから、声が近づいて来る。 「あのひとだ。あのひとが帰って来た!」 あらん限りの力を振りしぼって、鏡に走り寄ろうとした。眼がくらむ。脚がガクガクす る。けれど、必死になって鏡にかじりついた。 まっ赤に燃える空。 その下に続く山道を、大きなリュックを背負った復員兵士が、戦闘帽をちぎれるように 振りながら走って来る。 約束。やっぱり守ってくれたのだ。 わたしは夢中になって、走った。 あのひとも、走って来る。


わたしは、このほんとうに長かった歳月のすべての悲しみを乗り越え、振り払うかのよ うに、手をのばした。 もうすぐだ。 待っていてよかった。 ああ、わたしの幸福。もう眼の前だ。 あなた、もう決して、離さない。 やっと、わたしたちの手が触れた・・・・・・

しかし、その手は暖かくはなかった。固くて冷たい感触だった。 女はハッとなって、鏡を見た。ひからびてやせ細った指が、冷たい鏡のガラスを、懸命 に撫でさすっていた。 すべての幸福の幻影は、はかなく消え去ってしまっていた。もうまっ赤に燃えた夕焼け 空も、まるで嘘のように跡形もなく消え、またもとのにぶい光をたたえた無表情な鏡が、 そこに黙って突っ立っていた。ガラスの奥の果てしない暗闇が、女の胸をしめつける孤独 感を嘲笑うかのように、ぽっかりと大きな空洞を開いていた。 女の頬は涙もかれ果て、ただかすかに震えているだけであった。しかし、心の中ではは リ裂けるばかりの悲しみが、情容赦のない鞭となって、やせおとろえた身体のすみずみま でも打ちのめしていた。 女は、あのひとを待ちつづけた長い歳月をあらためて噛みしめ、茫然となっていた。

生きたい! 死んでたまるものか! どうやっても、もっと生きながらえて、あのひとが帰って来るのを待ちつづける。 でも、いま帰って来たら、どうしよう? こんなに醜くなってしまったわたしを、きっ と嫌がるのではないかしら? ああ、若い頃のあの美しさを、もう一度、取り戻したい。 いや、あのひとのために、もっともっと若く、美しくならなくてはいけない。 それは、はかない希望だった。 しかし、女は混濁する意識の中で、懸命になってそればかりを繰り返し、つぶやいてい た。それこそが女が生きるための、ただひとつのよりどころだったのだ。 若く美しくなりたい! 女はその執念にのみすがって、また幾日か、辛うじて生きなが らえた。

あるとき突然、朦朧とした脳裏に、古めかしい一枚の肖像画が浮かんで来た。かつて父 親の書棚から抜きとって読んだ本のページに、それは邪悪な森にひそむ魔物のように、そ っと隠されていた、黒ビロードの胴着を着た中世の貴婦人だった。大きなレースの飾りが え、それは鬼火のように妖しく燃えていた。 ついた広い襟が、神秘に輝く顔を、いっそう美しく引き立てている。

眼に残忍な光をたた エルゼベエト・バートリ。

歴史上有名な、ハンガリーの、殺人貴族だった。自分の若さと美貌を取り戻すために、 六百人もの少女をつぎつぎに殺害した。少女たちが苦しみ流したすべての血を、涌の中に 集めさせ、豪奢な衣裳を脱ぎ放つと、まばゆいばかりに白い裸体をその中に浸しては、こ れてもっと美しくなれると、歓喜の法悦に酔いしれていた。 身禁錮だった。

ああ、いま、その殺人鬼の気持ちがよくわかる。伯爵夫人は、何ものにもかえがたい永 遠の美しさが 欲しかったのだ。人の世で決して許されることのない殺人の大罪を犯しつ づけてまで...... わたしだって、やってやる。もう一度、青春のあの美しさが還って来るのなら、どんな 恐ろしい罪を犯してもよい。そのために受ける刑罰をも、覚悟の上だ。 伯爵夫人が受けた刑罰は、すべての窓を永遠に閉ざした暗黒の城の中に幽閉された、終 一切の光を奪われた絶対の孤独 びつづけて来た。 そのぐらいの刑罰なら、この二十年間、犯すべき罪よりも先に、わたしはすでに耐え忍 もう、決心した。わたしは少女をつぎつぎに殺していこう。永遠の若さと美しさを、 もう一度、取りもどすために―― わたしが生きながらえて、あのひとと再び会えるには、どうしても可愛らしい少女の、 血に染まった生けにえが必要なのだ。

女は白猫をしっかりと抱きしめ、最後の力を振りしぼってよろめきながら立ち上がった。 「しろや……………わたしに生けにえの少女たちを連れて来ておくれ・・・・・・」 白猫は、女のもう死期が近づいた顔を淋しげに見上げ、かすかな声で鳴き返した。 その鳴き声を、次第にうすれてゆく意識の中で聞いた女は、よろこびに皺だらけの顔を ゆがめ、微笑もうとした。しかし、その微笑みは、一瞬、かたく強張った。それが女の最 後だった。突然、眼を大きく見開いたまま、枯木が倒れるように、床の上に倒れ伏した。 おびただしい埃が舞い上がり、ゆっくりと消えていった。あたりはもとの静寂に戻った。 その頃、女の心臓は止まり、息もすっかり絶えていた。

この女のあわれな屍体は、現在に至るまで、誰にも発見されてはいない。

たぶん、もう肉はすでに腐り、崩れ果て、いまや、ひからびた白骨となって、冷たい床 の上に横たわっている。 そして、それ以来、幾度となく、四季が流れ去っていった。その部屋から見える庭も、 春になると花が咲き乱れ、夏になると蝉が鳴き、秋になると枯葉が風に舞い、冬になると 雪が降り積もった。 その間にも、女の屍体から流れ出した屍蠟のしたたりが、執念をこめて家の柱にも、扉 にも、窓にもゆっくりとしみこんでいった。 その西洋館、HOUSE は、それからまた長い歳月、朽ち果てもせず、むしろ女の執念 にかえって、不気味によみがえり、生けにえを折りあらば呑みこもうと鋭い歯を研ぎすま していたのであった。 そして、いま、それからちょうど、十年目の夏である......


ラストシーンの後、オシャレはどうなったのか?

自分的に、オシャレの父の再婚相手の江馬涼子は何しに来たの?と思う登場人物No.1である。最初この映画を見た時は実は黒幕的な人なのかなと思ってたけど最終的に他の女の子同様犠牲になっただけだった。

ちなみに江馬がスイカやの前でバナナになった東郷先生を観たシュールなシーンについては小説にも描写がある笑

涼子はバギーの運転席を見て、あれっと首をひねった。その運転席には大きなバナナが山と積まれ、その上に汚れているしわくちゃなGI帽がチョコンと被せられていた。なんのオマジナイかしら?

そして歩いて屋敷までたどり着いたシーン。映画でもそうだが小説でも白い綺麗な洋風な家と言う描写になった。

オシャレと再開した江馬。みんなはどうしているのかと聞くと「寝ているが、もう起きてこない」とオシャレは言う。

映画では江馬がオシャレに燃やされて終わった。このラストはどういう意味なのかとすごく疑問に思ってた。小説を確認すると、その続きもあった。

オシャレの肉体を奪った叔母ちゃまはこれから演劇部の少女や江馬の肉を食べていつまでも若いままでいる。その肉がなくなるのに10年はかかる。なので、10年後にまた生贄を食べることが暗示されて小説は終わる。

「あら、もう八時。そろそろ朝ご飯にしませんとね」 「え?」涼子は、オシャレの声の調子が変ったのに、びっくりした。 オシャレが、意味ありげに、言葉をついだ。 「近頃はお腹がすきますと、もう矢もたてもたまらなくなるのですよ」 だんだんその声が、伯母さまのように、少ししゃがれたかと思うと、オシャレの眼が、 キラキラと輝き出した。

「え?」 涼子は茫然となって、 オシャレを見つめた。 オシャレが、こぼれるような微笑を浮かべて、手を差しのばした。 涼子もつられて、微笑を返した。 二人はしっかりと手を握り合った。

そのとき、オシャレの眼が、黄金色に輝いた。その瞬間、涼子のスカーフが、すさまじ 炎を上げて燃え上がった。涼子がハッとなったときは、もう遅かった。炎は風を呼び、 涼子の全身を紅蓮の炎がうず巻き、踊り狂った。涼子はたちまち、白熱となって輝いた。 それと同時に炎は、狂暴なうなり声をあげて、まっ赤な舌をつき出して、ものすごい勢いで燃え広がった。 オシャレは冷たい表情で、それを見つめていた。その顔は、まっ赤な炎に照りはえて、 えもいえぬ美しさだった。

オシャレにとって江間涼子の訪問は、予期せぬ出来事だった。だが、美しく若がえりた いという伯母さまの欲望のためには、またとない獲物だった。どんなに若がえりたくとも、 いっぺんに六人の少女を食べてしまう必要はない。”あのひと"を待ちつづける、これか らの長い年月の間に、その肉を楽しみながら食べてしまえばいいのである。 オシャレは、ほどよく焼き上がった肉のかたまりを、風通しのいい窓端に並べていた。 それは高価な燻製を賞味するときの、適切な秘蔵法のようであった。こうして置けば、何 年かあとで、あらゆる肉がなくなってしまったときに、とても役に立つだろう。 オシャレは窓から、外の日射しを見つめた。ここから、いつかあのひと"が帰って来 る、あの山道がよく見える。それは今日も夕焼に彩られて、きっとわたしたちの劇的な再会の、絶好な舞台をつくってくれるだろう。わたしはこれから毎日、この窓から、あのひとが帰るのだけを待っている。

オシャレは、もうこの家の女主人になりきって、そう考えながら、じっと外を見つめていた。窓の外の緑が映える木の下では、きれいな花が咲 き乱れ、時折り吹いて来るそよ風にゆれていた。だが、木の葉がうつって暗くなった窓 ガラスでは、オシャレの美しい姿も、伯母さまの老いさらばえた淋しそうな顔と重なって、 とても不気味な映像になってしまうのだった。 オシャレは、部屋の中を見まわした。ピアノちゃんも、金魚鉢ちゃんも、新しい女主人 を迎えて、床を鳴らしては、食べるものをせがんでいた。 「よし、よし、いま上げますよ」

誰もそこにいないと、オシャレは、つい伯母さまの声を出してしまう。 薬棚の上に並べられた、大きなアルコールの壌の列をながめてみる。 その場のそれぞれ には、マック、スウィート、メロディ、クンフー、ガリ、ファンタと、それぞれの名札が つけられ、その中ではちぎられた肉のかたまりが、いっぱい積み重なって、アルコールに ゆっくりとゆれていた。マックとスウィートの肉だけは、さすがにあらかた、なくなって いた。

オシャレはその堰の前に来ると、まるで王女様が近衛兵を閲兵するときのように、順番 に見てまわった。かつては友達だった肉のかたまりたちが、まるで忠実な兵士のように、 今日はわたしを食べてくださいといわんばかりに、お行儀よく並んでいる。 オシャレは、満足そうに微笑んだ。とても長い間、夢に見ていたお伽ばなしのお城。 今このお屋敷は、人間を食べつくして、花盛りのとてもきれいなお城となってよみがえっ た。 わたしは白雪姫の、いじわるな王女様。 そして今夜も、鏡を見つめながら、ささやくだろう 「鏡よ鏡。世界でいちばん、美しいのはだれ?」 山の上にそびえ立つHOUSEは、百花繚乱、馥郁たる花の香りに囲まれて、とてもき れいだった。

このお屋敷がまた荒れ果てて、新たな生けにえが必要となるには、そう… あと十年はかかるであろう。それまでこのお屋敷は、 そしらぬ顔をして、妖気を秘めなが ら、息をひそめて、じっと待っている。 だから、結婚前の少女たちは、注意した方がいい。ことに十年後に少女となる子供たち は その頃になると、HOUSEはまた、大きな口に牙をむいて、生けにえを持ちつづける。 今もう、その運命を背負っている子供は、すでに決められている。あと、十年たったら HOUSEは、まっ赤な大きな舌を出して、叫びはじめるだろう。 さあ、早くいらっしゃーい、と。


野菜売ってるおっさんは結局何者?

屋敷に行く途中で出会ったスイカ売ってるおっさんは何かわけを知ってるようだった。あの子たちは家に食われたとか言ってたし、屋敷の関係者かなって思ったけど結局不明。小説でもこのおっさんについては何も書かれていなかった。屋敷の執事だったとかなのか?

映画も小説もスイカが好きかと先生に尋ねてバナナと答えたらなぜか骸骨になって消えた。




この後、オシャレはどうなるのか?

これは自分の推理だけど、まず娘も妻もいつまで経っても帰ってこないなら当然警察は呼ばれるだろう。学校も複数の生徒がいなくなれば本腰を入れて捜査をするはずだ。

そうなったら屋敷のオシャレはどうなるんだろう?

上手くそのことに対処できたとして、10年後また生贄を得るために何をするんだろう?屋敷をペンション風にして高校や大学の合宿を誘致してっていう展開になるのかな?




ラジオドラマ版





余談: 大林監督との思い出

実は俺はたった1度だけ監督と話をしたことがある。
とはいっても一言だけだけど。

尾道映画祭でHOUSE上映時に会場で並んでいたら中からお年寄りが出てきた。周りに係員とかいなかったしてっきり近所のお年寄りかなって思った。

隊長が悪そうでふらふらしていたから「大丈夫ですか」と声をかけた。
「大丈夫です」と返事が返ってきた。 それが大林監督だった。
映画会場でお話してて、あっ、さっきの人は監督だったのかって気づいた。
お話の時には元気に話されてた。

たった一言でも大好きな映画の監督と話が出来たことは本当に嬉しい。
もうお亡くなりになったので監督に会えるチャンスはもうない。
あの時に映画祭に行って本当に良かったと思う。

大林監督の作品は狙われた学園も大好き。
本当に素晴らしい映画を作ってくださった監督には感謝しかない。

ご冥福をお祈りいたします。


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