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戦時中の通信兵の教育

参考文献: 「紙と鉛筆の戦争」高橋常雄 著

ここでは当時の通信兵の生活ではなく教育について抜粋してまとめる。




航空機が戦場で優位になることが分かるにつれ、従来の水戸陸軍飛行学校に加えて陸軍航空通信学校が設立された、
陸軍航空通信学校は通信教育、水戸陸軍飛行学校では戦技教育が施された。



陸軍航空通信学校について

編成

学校本部
教育部
研究部
材料庫
飛行科
教育隊本部
教導隊本部

教育学生の種別

佐尉官学生(他兵科の隊長旧幹部)
乙種学生(陸士や航士終了)
下士官学生
少年飛行兵(甲種、乙種)

教育課程の種別

遠距離通信
地対空通信
機上通信
暗号
電波兵器
通信機材の修理


水戸陸軍飛行学校の通信教育

基本的にどの学校の課程も以下を行っていた

1) 通信修技
・合調音によるモールス信号の暗記
・送信術基本訓練
・受信術基本訓練
・送受信総合訓練

2) 通信学理
・電気の基礎知識
・陸軍航空用無線機
ここでは主に対空二号無線機の構造、各回路の学理的説明を学ぶ

3) 暗号
・略号
・暗号
・各種電報取り扱い

4) 機材取り扱い
・対空二号無線機などの電源、送受信機、空中戦、および地三号無線機、飛一号、飛二号、飛五号無線機の取り扱い
・実機訓練



通信教育の初歩過程

主に通信行動で行われた。

通信行動は学校の教室のような造り。教団に当たる位置に班長の机があり、向き合う形で初年兵の机が設置された。
各自の机の右端に教育用の電鍵が備えられている。それに伸びる電線が班長の机の受信機に配線されている。

班長が自分の受話器の差し込みを機械に入れれば、配線を通して、初年兵1人1人の電鍵操作が分かる仕組みになっていた。

この時代の通信はモールス符号を使っていた。モールス符号は短点と調音の組み合わせからなる。
無線通信を正確に行うためには通信種が短点と調音の長さの比率、その感覚、語間の間の取り方が一定のものとして理解していないといけない。


初年兵はまず合調音を班長の真似をしながら学習する。
合調音方式とは、モールス符号を構成する短点と調音の感覚の取り方、符号そのものを覚えるための言葉による学習法のことで、まずは言葉で覚える。


モールス符号の記憶学習法は、トツー方式と合調音方式の2つある。
トツー方式は、短点にあたるトと調音に相当するツーを組み合わせて、和文(カナ)の48文字や各種記号、本数字(漢数字のこと)、略数字(アラビア数字のこと)、略号などを覚え込ませる方法のこと。これは実際の電鍵の打ち方に似ているのでなじみがない人にもイメージしやすいと思われる。

合調音方式は、和文の48文字、本数字、略数字、略号などの呼び方や数え方にあった頭文字を持つ言葉を選び、それをモールス符号と同様の間隔で発音し、符号そのものや短点と長音の長さの比率を習得させる。

例を挙げると、

伊藤 -> イ・トー
路上歩行 -> ロ・ジョー・ホ・コー
ハーモニカ -> ハー・モ・ニ・カ
二十米 -> フ・タ・ジュー・メー・ター
三月有効 -> ミ・ツ・キ・ユー・コー
ヒート -> ヒー・ト
三月 -> ミ・ツ・キ


最初は口と耳を使う練習を行い、次に耳と手を使う練習に入る。

受信教育では班長が電鍵で打つモールス符号を聞いて和文、本数字、略数字を電報紙に描きこむ。
送信教育では、電鍵を使って最初は短点、次に長音の打ち方を頒布練習を行い、それに慣れると短点と長音を組み合わせて電鍵を操作する練習に移行する。

通信教育が進むと、受信と送信の試験が行われるようになった。
受信試験はほとんど条件反射の速さで電報紙に鉛筆で描きこんだ。
送信教育は短点と長音の長さの比率、一符号間の間隔が正確に打たれているかをテストされた。


通信学校ではこのようにモールス符号の送受信を徹底的に習った。ただ当然これだけでなく実際の戦場では暗号を使って連絡を取り合うことになる。教育隊では暗号はさわり程度で大部分は実戦部隊に配属後に学んだそうだ。
しかし、暗号手と通信手の業務はまるっきり違うもので、暗号班の暗号手は通信本文を略数字で暗号に組み立てて通信手に送信を依頼し、通信手はその内容を分からないまま、ただ機械的に略数字を打電しただけだった。

受信する場合も通信手は乱数表と暗号書で暗号を解読しない。


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