薔薇族21世紀ラボ【24】アンチLGBTに「忖度」する弱腰な政府と、ゲイとヘテロを顔認証で識別する(?)AI(No.426より転載)

LGBT嫌いなインドネシアでは法的にセーフでも空気的にアウト

 近年は日本でも商業ハッテン場が手入れを食らうようなケースが生じたりしているが、それはあくまで「違法ドラッグ捜査の一環として」である。同性愛行為そのものを禁じる法律はこの国には存在しないし、異性間なら一発アウトの「売買春」ですら同性間では不問とされているのだ(これについては法改正を要求する声もある)。ところがインドネシアでは、このような理不尽な逮捕劇が展開されたのだという。

 インドネシア警察は10月6日に首都ジャカルタ市内にあるサウナ施設に踏み込み、当時中にいた外国人を含むゲイの男性ら58人を逮捕した。容疑は反ポルノ法と麻薬取締法違反容疑というが、警察の説明は具体性と一貫性に欠けており、人権擁護団体やLGBT支援組織などからは批判が出ている。(中略)
 インドネシアではイスラム法が適用されているスマトラ島北部のアチェ州以外の全ての州において同性愛者であること、ゲイ、レズビアンによる同性同士の性行為は法律的にはなんら問題なく違法ではない。しかし、同性愛を禁忌とみなす傾向の強いイスラム教徒が多数のインドネシア社会では法律よりイスラム教の規範、習慣、モラルが往々にして優先されることもまた事実である。(ニューズウィーク日本版 2017年10月10日)

 今回の逮捕劇の舞台となったのはサウナとジムが併設された施設で、「あの中で売春行為が行なわれている」という市民からのタレコミに基づいて警察が内偵をはじめたのだそうだ。当日は警官隊が一斉突入し、館内にいた全員を一網打尽にしたという(なんか、時代劇でよく見る「博打場への奉行所の手入れ」みたいだなァ)。事件を報じた記事によれば、捕まった客たちは「犯罪への関与がなければ釈放される」そうだが、施設のオーナーと従業員については「客にわいせつなサービスを行なう場所を提供した」という容疑で「最高で禁固10年の刑が科される可能性がある」のだとか……。
 人権擁護団体やLGBT支援組織が批判しているように、反ポルノ法やら麻薬取締法やらが単なる口実にすぎず、「同性愛者の弾圧」が真の目的だったとしたら、これはゆゆしき問題である。実際、現地では「今回の措置は『反同性愛』の姿勢を崩さないイスラム教が、自分たちの教えに従わない一派に対しての『見せしめ』として行なったのでは?」と見られているという。また、「『法と正義の番人』でなければならないはずの警察組織が、イスラム勢力に忖度して『宗教警察』の役割まで果たしてしまうインドネシアの現状」に危機感を抱く声もあるそうだ。この記事を読むと、なるほど他国の話であるにもかかわらず不安が募ってくる。

 インドネシアは世界最大のイスラム教徒人口を擁する国だがイスラム教は国教ではなく、キリスト教徒、仏教徒、ヒンズー教徒らの権利も保障されている。しかし人口の約88%と圧倒的多数を占めるイスラム教徒の価値観が優先される傾向が強く、同性愛に厳しい立場を取るイスラム教団体などによる反LGBT運動が昨年1月以来インドネシアでも強まっている。警察による今回の大量逮捕の背景にもそうした最近のインドネシアのイスラム教の価値観を優先あるいは重視する傾向が色濃く反映しているものとみられている。(ニューズウィーク日本版 2017年10月10日)

 インドネシアのイスラム教徒は近年、テロ組織「ISIS(自称イスラム国)」が世界中にまき散らした「ムスリムのマイナスイメージ」を払拭すべく、「我々はテロ組織と違って『寛容性』を持っているし、多様性の重要さも認めている」というアピールをしているそうだ。けれども、ことLGBTに関しては「寛容性」も「多様性」も関係ナシで、原理主義的姿勢(=ホモ・レズは悪だから絶対に認めない!)を崩さないという。まぁ宗教が、テコ入ればかりする視聴率低迷番組みたく世間の空気を読んでスタンスをコロコロ変えてるようじゃイカンとは思うけど、「時代がどのように進歩しても太古のマンマのあり方を1ミクロンも変えません!」みたいなのも困るなァ。キリスト教だって近頃は軟化路線をとってるんだから、イスラム教にももう少しフレキシブル性を持ってほしいところである。今のままじゃ、ISISとの差別化は思ったように進まないと思うヨ。少なくともLGBT層は、警戒心をなかなか解かないだろう。
 そんな旧態依然としたイスラム教に忖度し、「LGBT弾圧の下請け機関」と化しているのがインドネシア警察で、本来はそれを是正していくべき役割の政府までもがムスリムに遠慮して黙認状態だそうだから、これは困った話だ。
 真偽のほどは定かではないが、世界ではこのところ「LGBTマネー」なるものに注目が集まっている。そんなものがホントにあるかは怪しいところだが、もしあった場合、インドネシアは大損することになるヨ。LGBTの方々は「自分たちにフレンドリーでないもの」にはかなりの敵意を燃やしますからネ。

画期的といえば画期的だけれども、そもそもの必要性が「?」な発明

 インドネシアのような「前時代的悪夢」がいまだはびこる国がある中、それを助長しかねないシロモノが新たに生み出されたという。米国・スタンフォード大学がとある〝近未来SF的珍発明〟をして話題となったそうなのである。

 スタンフォード大学の研究チームが、(中略)人工知能を使って人間の顔写真データを分析することで、「同性愛者かストレートか」を高精度で見破ることができるという研究結果を報告した。(中略)開発されたアルゴリズムを使うことで、ゲイorストレートのどちらであるか、男性の場合は81%、女性の場合は74%の確率で区別することができたという。(中略)識別対象の人物の画像を一人あたり5枚使用したところ、その精度はさらに向上。男性91%、女性83%に達したという。(中略)なお、今回の研究は「ストレートか否か」を識別することに関心が向けられているが、トランスジェンダー、もしくはバイセクシュアルの人々については考慮されていない。(Forbes JAPAN 2017年9月13日)

 この発明、「すごい」といえば確かに「すごい」が、「怖い」と言えばこれくらい「怖い」ものもないよなァ~。そもそもの話として「同性愛か異性愛かを第三者が識別する必要なんてあるのか?」という疑問を感じる。テロが横行する昨今、空港などの重要公共施設内で、表情や挙動などから「要注意人物」を識別する防犯システムが開発されているのは知っているが、同性愛者は別に「要注意人物」ではない。同性愛者を「要注意」と見なすのは「一部のLGBT弾圧者」だけだが、そういう輩がこのシステムを悪用する可能性というのはないのだろうか?
 このシステムで個人の性的指向が明らかにできるようになった場合、いちばん得をするのは誰だろう。やっぱり権力者かな?
 知り得た情報を恫喝や懐柔のネタに利用し、LGBT支配をもくろむ可能性だって「絶対にない」とは誰も言いきれない。さっきボクはこのシステムを「近未来SF的」と呼んだが、ホントにそんな時代が来たら、おなじ近未来SFでも「ディストピア物」になってしまう。
 この危惧は決してボクだけが抱いているわけではないようで、発明を紹介した記事中でもこう警鐘を鳴らしている。

 人工知能の使い方については、当然ながら、不安視する声も挙がり始めている。例えばガーディアン誌は、ソーシャルメディアなどを通じて数十億の顔画像データを入手できる政府が、人々の同意なしに国民の性的指向を検出することができる、とその脅威を示唆した。現在、LGBTの人々に不利な政策を敷く国はまだまだ少なくないが、その迫害のために同様のソフトウェアが使われることを危惧した形だ。(Forbes JAPAN 2017年9月13日)

 さっきも言ったように、顔認証システムは「窃盗やテロを未然に防ぐ」という目的で作られたものである。「同性愛か、異性愛か」という識別は犯罪抑止とは無関係なので、つまりこのシステムは「興味本位でなされた危険な研究」なわけだ。
 まぁ、科学者というのは誰でも大なり小なり「フランケンシュタイン博士」なので、たとえそれが自然の摂理に逆らう禁断の研究であったとしても「自分がどこまでやれるのか試してみたい」という根源的欲望を止められなかったりする。「一般市民orテロリスト」の識別があるレベルまで可能となった時点で、さらにその先まで進みたくなるのは自明なのかもしれない――。
 この発明、個人的にはマユツバな印象が払拭できない代物だ。だって異性愛者と同性愛者との間に「顔の差」なんてあるわけないじゃない? ひょっとしたら「男性同性愛者は薄化粧してて、女性同性愛者はスッピン」なんて偏見バリバリなプログラムでもされてるんじゃないかと勘繰りたくなるヨ。
 あと、「トランスジェンダーやバイセクシュアルについては考慮されていない」という部分もよくわからなくて、「もしや大学ぐるみのジョークなのでは?」といった疑問もまた浮かんでくるス。
 たぶん「同性愛カミングアウト済みの人間から提供された膨大な顔写真」をデータベース化してるんだろうけど、その基本データだって「提供者の自己申告」が元になっているのならばどこまで信頼に値するものか。「私はゲイです」と偽ってるノンケだっていないとも限らないしネ。
 ……まぁ、ボクみたいな心配性がどれだけ心配したところで、研究に何か違法性でも認められない限り、この流れを止めることはほぼ無理だ。なので、ボクはせめてもの願いとして「システムが同性愛者の迫害や支配に悪用されないこと」を祈ってやまないのである。あと、インドネシアに渡らないことも強く祈ります。
 この発明が結果的に誰かを窮地に追いやるようなことになったら、ノーベル賞はおろか「イグノーベル賞」だって獲ることはできませんゼ。■

Illustration ソルボンヌK子

この記事の掲載号はこちらです

いただいたご支援は、今後の誌面充実に反映させていきます。発行を継続させていくためにも、よろしくお願いいたします。