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誤餐

思い起こすこと4年前、大分の夜

初めて参加した劇作家大会2019、大分の夜
大人たちの宴に混ぜてもらった矢田未来と私
豪華なメンツ、めっちゃ面白かった

「痕跡(あとあと)」という私の戯曲が大分の劇作家大会で朗読されることになり、恩師オリPにくっついて、ご出演していたラサールさんや小宮さんの飲み会に混ぜてもらった。ラサールさんとは前々からご挨拶はしたことがあって、いつかKAKUTAに出てもらえたらなあ、なんて思っていたのだけど、小宮さんとお話ししたのは初めてで、その時演じた役を楽しんでくださり、いつか一緒にと声をかけて頂いた。

それが赤信号劇団第15回公演「誤餐」のはじまり。
光栄です!ってな感じで浮かれて引き受けてしまったのが最初の誤算。

コロナ禍を経てついに始動

「1995年の第14回公演「イメルダ」(作・三谷幸喜/演出・渡辺えり)以来の28年ぶりの劇団公演!!

チラシ裏より

95年って、私が19才、演劇を始めたばかりの頃ですよ。
私の演劇史まるっと28年、お休みしていた伝説の劇団の復活公演ですって?三谷幸喜さん以来の脚本?渡辺えりさん以来の演出?
笑いのプロ・コント赤信号と、このレジェンドたちの歴史に、私が?
おいおいおい、なんてものを引き受けちまったんだ。

逃げたかった。
でも、もったいなさ過ぎて逃げられなかった。
こんな人たちとできる機会を逃したくない、という己の欲望が第二の誤算。

本日の扉絵はボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」
劇中の永久子(室井滋さん)が学生時代にヌードモデルをしていたというエピソードより

はだかんぼの小宮さん

ストーリー構想は早々に迷走。
第一案は思いきり個人の趣味全開にした実在する殺人事件の話を提案して即却下。そらそうだ。
苦悩する執念の老練刑事役を演じるラサールさんを思い描いて一人で胸が熱くなっていたから、これはまたこれで、いつかやりたいけれど。

もともと私は笑いの要素はあれど根っこが陰惨な話が多いので、喜劇のセオリーがわからない。
けど昨年の夏『サンセットメン』という舞台の、これまた賑やか愉快な脚本執筆で悶絶していた初夏のある日。
書けなくてシャワーを浴びながら現実逃避していたときに、ふと思いつき、濡れた手でスマホにメモしたアイディア、
「その日出張から帰ると、妻の間男が昼寝をしていた」
が、今作の最初のシーンとなった。

間男という色気ある役どころに、はだかんぼですやすやと寝る小宮さんを置き、そこに遭遇したハンサムな主人のリーダーが、苛つきながらも右往左往する姿を想像の中ではめたら、なんとも可笑しかった。

これでやってみようとおもったのでした。

「誤算」第二場、落雷シーンより
皆の顔が良すぎる

推し

キャスティングに室井滋さんが決まったとき、鼻血が出た。
なんせ私は学生時代から室井さんファン。
いわゆる推し活的なことをほとんど経験ことがない私だけど、室井さんは特別。エッセイも出るたびに買ったし、そこで室井さんが行った場所へ私もでかけた。
「やっぱり猫が好き」「居酒屋ゆうれい」はもちろん、「トットチャンネル」の笠置シヅ子もドラマ「ギフト」のなおみも映画「OUT」の邦子も「心療内科医涼子」も、「ゲゲゲの鬼太郎」さえも砂かけばばあが室井さんだからという理由だけで追いかけた・・・(これは西田敏行さんの輪入道も面白すぎてだいすき)。

だから、舞台をめったにおやりにならないこともずいぶん昔に調べて当然知っていた。若い頃、演劇界での憧れと言えば渡辺えりさんで、えりさんとついにやれたときは本当に感激したけれど、室井さんは、きっと畑が違うから一生逢えないんだと思っていた。
だからラサールさんがzoomのキャスティング会議で「室井はどう?」と言ったとき、パソコンぶっ壊しそうなほど興奮したのでした。

稽古中、ファンであることを言うまいと心に決め、愛を隠すのに苦労した
時々ダダ漏れて演出助手のさおちゃんに「バレますよ」と注意を受けたり
推しはやっぱり最高でした

ギリシャ神話

・ひとりひとりが強烈に個性的で、でこぼこしている。
その個性は長所にもなるけれど、欠点にも見え、けれど掛け合わせるとあまりある魅力を発揮する
・その人たちが放つ空気はどこか自由で荒唐無稽
・正しいこと、間違ってること、どっちでもいいじゃないそんなの、と笑い飛ばしてしまいそうなパワー

上記が、赤信号のお三方に勝手に抱いたイメージ。そこで、赤信号とプラス四名の魅力的なキャスト陣を見て、「間違いだらけの大人たち」の話にしようと考えたとき、ふとギリシャ神話が重なった。

トップ・オブ・ゴッドのゼウスが不倫王だとか、奥さんのヘラが嫉妬に狂ってひどいことしまくるとか、その子どもがオヤジの頭かち割って生まれてくるとか、女を取り合って戦争が起きるとか・・・。
抑制的なキリスト教とは逆に、ギリシャ神話の奔放で間違いだらけでハチャメチャなところがわたしは好きなのです。

ルーベンス「パリスの審判」
「ねえ、あたしたちの中で誰が一番きれい?」
っつって女神たちがパリス君に最高の美女を選ばせ、
その結果がトロイヤ戦争の原因にもなっちゃうという
なんてこったなお話

まだまだ勉強が浅いので勘違いしてたらごめんなさいだけれど、ギリシャ神話の逸話の数々には、人間の業を面白がるような感覚さえあり、それは今の日本に不足している寛容さ、でもあるような気がする。

ある程度生きてきたら、誰にでも人に言えない秘密や間違いは、ある。
時代をアップデートしていく上では、それらのインモラルを「間違ってる!」とはっきり糾弾することも必要だけれど、簡単に割り切れないものをくみ取るような、ダメな部分を許せるような、そんな明るさが欲しいな、という気持ちを、7人のキャストの方々の力を借り、今作に載せさせてもらった。

ポッライオーロ「アポロンとダプネ」は
劇中、岩男海史君が紹介するエピソード。
「ちょっとストーカー!勘弁してよ!
あんたと付き合うくらいなら月桂樹になるわ!」
とエグい振り方をするダプネさん
「オルフェウスとエウリュディケ」
劇中で室井さん演じる永久子が学生時代にやっていた演劇と称して披露するシーンの神話
永久子は演劇によってギリシャ神話に精通していたから、リーダー演じる逆井戸教授の論文を手伝うことができた、という裏設定によせて。

ケミストリーというやつ

相性抜群の座組に感謝

というわけで、なんとか書き上げた「誤餐」。
けれど、この作品がここまで愛おしいものになり、また多くのお客様に喜んで頂けたのは(多分!)、それを体現したキャスト7人、ひとりひとりの魅力につきます。

先述の通り、最初に誘ってくれた小宮さん。
稽古の初めの立ち稽古から抜群に面白かった。不思議としかいいようのない軽やかさ。怯えても可笑しい。怒っても面白い。役の上では緊張しているはずなのに、なんでこんなにグニャグニャなのか(褒めています)。
誰もが愛してしまうひと。

険しくおっかないとおちゃんを演じてもかわいすぎるラサールさん。
ラサールさんのリズム感、センスの鋭さは本当にピカイチで、初読みでなぜこんなにうまいんだと驚いてしまう。
哀しく切ない役、例えば、ひとつの思考に固執して狂気に走るような男の役もまた、演じて欲しいです。
そして常に稽古場の空気には、ラサールさんの心根の優しさがありました。

そして、稽古前から稽古中から、「どうにか別の役にならんものか」という猛烈なアプローチを私にし続けたリーダー!
本当に困りました!!笑
が、リーダーの秘めたる真面目さが私は大好きで、本気で生きるからこそ滑稽で哀しく、その人にしか出せない色気を発する瞬間があると思うのです。
やだやだといいながら、しっかりほろりとさせ、惚れさせるズルいお方・・・。

この稽古が始まる前、古くからの付き合いであるお三方が、稽古でもめたりしたらやだなーと思っていたら、本当に仲が良い。
互いに茶化しあいながらも尊重し、常に笑って冗談を飛ばし合う稽古場でした。
それがなんとも嬉しい、誤餐。

初日前。1人で傾きを練習するラサールさんのかわいさ

もはや隠さず告白してしまった推し、室井さん。
私が学生時代からなぜこんなに室井さんが好きだったのだろうと考えると、本気なのかすべて冗談なのかわからない佇まい、というのがあります。
そしてもうひとつは、どこにも媚びない、飾らないのに、決して失われることのない、少女の心ではないかと。

以前舞台で見て以来、出逢う前から興味津々だった凜ちゃん。
以前見た彼女の舞台はたしか……劇冒頭で、不倫して苦しんでいる役どころ?だったと思うのですが、なぜか、更に彼女がかき乱される姿が見たいと熱望してしまい、そんな役をお願いしました。
老いも若きも凌駕してゆくエネルギー。圧倒的な存在感に惚れ惚れ。今作の登場の瞬間、バイクのヘルメットを取った瞬間に私は毎回、
「那・須・凜、降・臨!」と、叫びたかった。

そして岩男海史くん・・・最初の稽古を見たときから、「息子役の子が、めっちゃ良くてね」と周りに話してしまうくらい、いやあ、凄い人が現れたなと。ナチュラルな演技とか、台詞の捨て方置き方がうまいとか、そんな単純な言い方ではなくて、何より言いたいのは彼のキャッチ能力とでもいいますか。他者の呼吸、感情、小さな目つき、それらを捉えて素早く打ち返す感度。角度の正確さと、愛ある感性。まじでびっくりしました。
めっちゃ人気出ちゃうわ・・。

そして最後に、我が家KAKUTAの若狭君。
KAKUTA以外の座組で一緒にやるのは、思い返せばいつぶりだろう。
お馴染みの若、ではない、ひとりの役者として闘う若と、一緒にやりたいという願いが叶った今作。これだけ強すぎるキャストたちの中で、萎縮することなく、本来の若の魅力を発揮できるのか!という、若と私の挑戦でもありました。結果は・・ご覧の通りじゃないかと。
古くからの仲間としても、勝手に、誇らしく思っています。

大入り袋と一緒にもらった写真。
キャストたちは集合写真をもらっていたのに
なぜか私はこんな険しい演出中の写真!なんで?!笑 
にこやかな演出助手のさおちゃんと、
どうにもスナックのママみたいな演出家。
衣裳の石川さん
血みどろワイン加工中
大好き&ふざけた、お馴染みのスタッフさんたちに助けられて今回もたのしかったです
千穐楽はもはや座るところがなく、ブースからの鑑賞
本番直前の音響ぬっくんはもう20年の付き合い!
満杯の客席
嗚呼、幸せな光景

長文失礼しました。
素晴らしい座組に恵まれ、伝説の赤信号復活公演に関われて本当に有り難く思っています。

赤信号の皆様!
僭越ながら申し上げます。
あなた方はまっこと、奇跡のようなトリオです。
だからどうかこれでラストなんて言わず、今後も赤信号劇団をやってください。私も機会あれば、お力添えられたら嬉しいです。
びびって逃げ出したかったのに、こんな気持ちになるなんて。

たくさんの嬉しい誤算を、ありがとうございました。

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