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アレ喰う虫

今朝、起き抜けにプラスチックカップのまま冷蔵庫で冷やしていたコーラを飲もうとしたら凍っていた。
凍り具合を調べようとカップのお腹あたりをグッと押してみたら、
頭上を越える高さの放物線を描いてコーラがスプラッシュしました。

まるでコカ・コーラのCMのように

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(スプライトじゃねえか)

こういうとき、いつも思うわけです。
「ナゼ、コウナル コトヲ、ソウゾウ デキナカッタ…?」
床がべとつく哀しみにスンスンとベソをかきながら、今、ぬれぞうきん、乾きぞうきんの二度拭き・三度拭きを終えたところです。

子どもの頃からこういう失敗を幾度もしてきたはずなのだから、経験から学習していればこんなことは起きなかったはず。
しかし思うのです。
こういうときに、これから起きることをちゃんと想像出来る人はどのくらい、いるのだろう?
凍ったプラカップのお腹を押さずにいられる人はどのくらいおられますか?

人はこれまで数々の経験からやっちゃまずいことについては学んでるはずです。たとえば、ホチキスで指を挟んじゃいかんということは、一度でも子ども時代に指先から血を噴き出させた経験があれば学習しているでしょう。
しかし今回の場合、
「凍ってるカップを押したら吹き上がってえらいことになる」という想像よりも、
「凍ってるカップを押してぐしゃぐしゃに氷が砕けたら美味しい飲み物になる・かも」みたいな想像が無自覚に勝ったのはないか。
そしてなにより、凍ったものをつぶしてみたいという衝動。
衝動が学習に勝った。安楽な期待が学習に勝った。
これが今回の結果をまねいたのじゃないでしょうか。

だから私が床を何度も拭きながらスンスンしてしまうのは、べたつきのせいだけではなく、判断力と想像力の足りなさに対する、己への自信喪失なのでしょう。
要らぬところで自信をなくしてる場合じゃない。
なにせ今は執筆中なのだから。

というわけで私は今、執筆地獄に突入しております。これが夏の最中まで続くかと思うと、想像だけで頓死しそうです。
特に売れっ子というわけでもないのに立て続けに案件が重なっているため、一昨日、初稿を書き終えても喜びのパーリーナイトする余裕もないまま次へと突入せざるを得ず、その焦燥感から何をしていてもスンスンしそうになる「泣きの首の皮一枚」みたいな精神状況が続いています。

そんなときに、マネージャーが初稿を読んだ感想を送ってくれました。
「面白かった!!面白かった!!面白かった!!」
嗚呼……ありがとう、養命酒(マネージャーK)。
まだ肝心のプロデューサーから何も言われてないので天地逆転する可能性もありますが、これだけで今日を生きながらえるというもの。
ほんのささやかな自信が人の寿命を延ばす。これほんとう。
自信、だいじ。まじだいじ。
だいじ丸出航!(いみわかんない疲れてるのかな)

×××

ずっと書かねばと思っていたのですが、あらためて。
このたび置田浩紳と吉田紗也美の2名がKAKUTAを退団しました。
寂しい思いをさせてしまった方、多かろうと思います。ごめんなさい。
ですが、それぞれとじっくり話し合った結果ですし、SNSにも書きましたが彼らとは今後もなにがしかでつながってゆくだろうと思います。
二人とも未来への才能が開かれた人たちです、今後とも応援よろしくお願いします。

二人こと以外にも、劇団の中はいくつか変化が起きています。
少しの間、このところの体調不良を鑑みてお休みするメンバーもいます。また、新たなメンバーが入ってくるかもしれません。
劇団は常にメタモルフォーゼしていく軟体の生き物です。
その自由さが気楽でもあり、切なくもあり、愉しくも怖くもありますが、もともと変化を受け入れることがあまり得意でない私は、この時期ちょっと胃をやられました。

しかしどこかで読んだのですが、人は何かの転換点にいるとき、それが別離のような哀しいことではなく、たとえば入学とか出世とか引っ越しとか、そういったワクワクするような、嬉しいことだとしても、大きなストレスを感じるんだそうですね。
未知なるものに移行する瞬間は少なからず精神的な負荷がかかるんだとか。
「ワクワクドキドキ」ってやつのことです。

そういえば春に出演した「シブヤデアイマショウ」も、私にとって最高に幸せな経験でしたが、オファーが来てから稽古に至るまで、嬉しさのあまり震えが来るほど恐ろしく、ずっとストレスフル・胃をやる案件でした。
「ああ、こんな緊張何年ぶりだろ……いつから私は安寧とした日々に慣れていたんだろ……」と何度も思いましたし、年を重ねた分だけまったく新しい挑戦というものは減り、経験が増えた分だけ肝が据わり図太くもなり、こうした場が少なくなっていたのだと実感しました。
だから「待って、このストレスは悪いことじゃないのよ!」と何度も自分に教えてやり、「大丈夫、怖くない……怖くない」とナウシカのように心のテト(小心)をなだめすかさないと、喜びに向かう前にスンスンしてしまうので、大変でした。

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なだめた結果がこれです
(たのしそうでよかったですね)

ええ、ここでスンスンに戻りますけど、思うことは。
ストレスはしばしば、自信を喰いにくるのだなあ……ということです。

劇団員が退団したことや、その他いろいろな変化が起きたことで、退所していない他のメンバーにも、少なからずストレスかーらーのー自信喰い虫、がわいているようだということを、先日、知る機会がありました。
急いで養命酒を注ぎ、一緒にスンスンしたりもし、無事にやっかいな虫は駆除されましたが、そうして知るまでは思わぬところに虫が飛来していることに気づきませんでした。
自分は胃をやられていたくせに、です。

推して知るべしは、自信喰い虫は誰にでもわくということなのですね。
それがたとえ自分に起きた悪いことでなくとも、単純な変化に見えるものでも、コーラが頭上にスプラッシュしただけだとしても。
私のような小心者に限らず、どんな大物でも、王でも姫でも、いつもキラキラして素敵に見える人でも。

ストレスは悪いものとはかぎらないけれど、そこからわく自信喰い虫は害虫です。
本当に辛いときはストレスを避けて一時その場を逃げるのも手だし、もはや変動激しい場所には身を置かないと決めて生きるのもありかもしれないけれど、多かれ少なかれ生き物は常に変化していくわけで、変化には面白いものやかけがえのないことが詰まってたりもするから、あんまり怖がらずにいたい。
ならば虫がわいたとき、わきかけたときには、自分にも誰か大切な人にも、全力で養命酒を注いでいく……もう、皇潤でもグルコサミンでも何でもいいですけれど。
まったくストレスのない人生を生きようとするよりも、害虫に対抗する術をいくつも持っておきたいですね。

そして、そのさい「誰もがその虫の卵を持っている」という理解があると、おたがいさまで駆除しあえたり、またすこしストレスとうまく付き合えたりするのかなあと思ったりしました。(虫の卵って気持ち悪いな)

劇団のこと、また動きがあれば、お報せすると思います。
でもひとついえるのは、ワクワクドキドキしているよ、いい意味で!ということです。はじけるぞ、スプラッシュ!

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オリンピック、本当にやるんでしょうか。
やるんだろうねー結局やっちゃうんだろうねーという諦念のおすまし顔を、ともすればしてしまいそうになる今日この頃ですが、安全に出来ないのであればやめよう、という判断を、この一年半、演劇関連のあらゆることで何度も強いられてきた身としては、キリリと眉尻を上げておきたいと思う次第です。






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