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夜が更けるまで

どこから話を始めようか。

私はがらんどうだ。まるで空っぽで実態がない。たしかに存在する心地がなく、その存在には脈絡もコンテキストも証明することができない。
ずっと、ひとりぼっちで、それを認めたくなくて人間関係という文脈を語りたがる。

人には適度で十分な距離が必要だ。
そうでないと、失ったときのリスクが大きすぎる。
思ふこといはでぞただにやみぬべき我とひとしき人しなければ
である。

貴女と出会ったとき、貴女の笑顔が咲き開くのを見たとき私は1人でいたくないと思ってしまった。この人がそばにいてくれたらどれほど良いだろうか、と。
でも、それは自分の人生を意図的に曲げてしまう、危険な行為だ。
もう、後には戻れなくなる、矛盾に満ちたひどい生き方を選ぶことになる。

私たちが出会ったのは、運命だろうか。偶然だろうか。
どちらも、真実ではない。
私たちは、お互いの選択の中で、ここに行き着いたのである。
選んで出会って、選んで一緒にいるのだ。
これは紛れもない事実で、この誤解でできた世界の唯一の確かなことである。

私は貴女を幸せにすることができない。
でも、私はただじっと貴女が隣にいるだけで満たされて幸せを感じることができる。
貴女とずっと、一緒にいたい。一緒に幸せになりたい。ずっとずっと永遠に続けばいいのに。

これはきっと無責任で、ひどい行いなのだろうと思う。
私が、貴女の人生に無責任に土足で踏み込んでしまったが故に、本来ならばする必要のない苦労と、悲しみと、戸惑いと、訳のわからなさを与えてしまっている。
貴女はきっと、幸せを手に入れられる側の人間だったというのに。

世の中には、してはいけない、決して許されないことが存在する。
そして、私たちはいとも簡単にその行いに手を染めてしまう。
純真無垢で、悪気のないその行動は罪なのだろうか。
私にはわからない。
主は何を望まれているのか。
あなたは、どこで、何を、しているのか。

私のわがままなんだ。
何も求めず、だったずっと隣にいて欲しいだなんて。

でも、貴女を失えば、私はもう一度壊れることになる。
怖い。とても怖い。呼吸が荒くなる。吐き気が止まらない。体が震える。寒い。暗い。眩しい。静かでうるさい。

いつかは、いなくなってしまうのだろうか。
また、独りで、心の穴を見つめながら、時間を費やすだけの生き方をするのだろうか。
早く過ぎ去れ、人生よ。
ひとりぼっちの世界だなんて、終わりにすら意味がないのだから。

そうだ、意味なんてないんだ。
でも、貴女がいれば、貴女が笑えば、すべてが満たされる。
それだけでいい。
それだけでいいんだ。
それ以外のすべてのことは、瑣末な事象に過ぎない。

私は愚かだ。
過ちを繰り返す。
終わることのない贖罪を、十字架を背負って生きていく。
救いなど、求めるべきではない。

なのに、貴女との幸せを恋焦がれてしまう。


鮑叔館 珈綺


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