Villageがシャマラン映画で一番好きなので全開ネタバレで推します

Villageがシャマラン映画で一番好きなので全開ネタバレで推します。

この作品はシャマラン先生のお約束通り後半にどんでん返しが売りであり、どんでん返しのための伏線が冒頭の7歳の少年のお葬式シーンから練りこまれているんですけどそんなシャマラン先生のお気持ちどおりのホラーサスペンス映画としてはまだるっこしい上に怪物の手作り低予算感が抜群な作品であり、そこが評価が低い要因です。

大事な点は、この作品はホラーサスペンス要素はただのオマケだという点です。では何がメインディッシュなのか、それは後述します。

舞台設定は合衆国ペンシルバニア州の広葉樹林の広大な森に孤立して存在する人口60人程度の村です。
生活水準は1800~1900年代前半のアメリカ風で、耕作(野菜の栽培に1枚ガラス温室があり、暖炉が鋳物であるなど、近代的な設備がありました)と畜産(羊と鶏は確認できました、豚と牛もいるでしょう)による完全自給自足です。
電気や内燃機関も存在しません。ガス、水道といった外部からのインフラ提供も全くありません。村人は全員キリスト教徒(多分プロテスタント)でゲルマン系です。識字率は高く、児童は全員学校に通っています。

ヴィレッジ村の人口構成はこんな感じ。
人数は村の若者(思春期ー生殖適齢期の未婚男女と定義)が約10人、子供が10人、育児中の既婚カップルが約10-20人(子供の数から推測)、残り20人が年長者会メンバー(45-65歳くらい)の様子です。上記内に精神障碍者(中度精神遅滞 IQ30-50)1名、身体障碍者(後天的全盲)1名、が含まれます。これは近代的な医学知識があるものの現代医学の物質的介入がほとんど無い状態の人口比としては結構現実味があると思います。


長老会のメンバーが多い事と高齢者が居ないのが最初不自然だと感じたのですが、見事にオチに結びつけていました。

作中表現に、遠視(丸メガネおじさんの眼鏡は中ー軽度の遠視用)等の軽度身体障碍や発達障害(シャツの皺を妙に気にする若人)等はもっと有りそうな印象がありましたが、かなり支えあいの精神があるので問題にならない生活なのでしょう。

一部推測による補足を交えつつ時系列に整えなおしたあらすじが以上です。
完全ネタバレです。

20世紀後半のアメリカで、ある大学教諭が発案者となり、犯罪被害遺族トラウマ克服サークル構成員を誘って計画、出資してとあるコミュニティーを成立させました。
ペンシルバニアの森林の一部を長いコンクリ製の塀で囲って自然保護区とし、その内部に外部と完全に隔絶された村を作ったのです。
保護区を取り巻く塀は出資者達の資産によって管理され、雇用された警備員の巡回によって外部からの人や物の侵入は阻止されています。
彼らはそこで、貨幣経済なし近代文明の産物なし銃なしという、完全自給自足で相互扶助的な社会を形成しました。
彼らは全員「二度と現代社会と交流しない」という厳格な誓いを立て、その誓いを忘れないためにそれぞれが現代社会を捨てるきっかけとなった犯罪被害を思い出させる品を黒い箱に収めて保管するようにしました。彼らを以後年長者会と呼びます。作中明示されている被害内様は1. 姉を自宅近所で強姦殺害された、2.救急救命医である兄が搬送された麻薬中毒患者に射殺された、3.実父を金銭トラブルを理由に共同経営者に殺害され犯人は自殺、4. 買い物に出た夫が殺害され金品を奪われ裸の遺体が川で発見 です。

コミュニティーには最初から子供が含まれており、さらに夫婦がいるため新たに子供がうまれます。
子供達が村の外に興味を示さないように、年長者会は彼らに「町は邪悪な人々が住んでいる」を教えます。
さらに、村の外に出ない様に、「村の周りの森には人間を襲って殺す怪物が複数棲んでいる」と教え込みました。
年長者達は子供たちが怪物の存在を強く信じるように、たくさんのルールを作り、さらには怪物の着ぐるみ等で恐怖をチラ見せする事を継続してゆきました。

本編は村の成立から約20年後の出来事です。
知的障碍をもつ青年が、自宅の床下から、年長者会メンバーである両親が隠した怪物の着ぐるみを発見しました。かれは怪物になりすましてきぐるみ被って歩き回ったり、村の家畜や小動物を殺して毛皮をはいで放置します。子供たちは恐怖に震え上がり、年長者会の村人は怪物の存在を強化するために年長者会のだれかが独自におこなっている事だろうと解釈し、だれも知的障碍者の青年を疑いませんでした。

主人公は村の発起人の娘であり、全盲で未婚です。上述の知的障碍の青年と親しく交流があり、かれに大変懐かれています。
主人公が村の青年と相思相愛で婚約した事を知った知的障碍者は嫉妬心から婚約者を刺して重傷を負わせてしまいます。
婚約者の傷は感染症を起こし、抗生物質が無ければ助からない可能性が高い状況です。
主人公の父親は、村の存在を外部に漏らさずに娘の婚約者を救う方法として、娘にだけ言い伝えられた怪物の真実を教えた上で町の外へ行かせて抗生物質を入手する事を許可します。怪物は居ない、と。しかし、彼らはこの時点で知的障碍者が現在怪物に扮して活動していることを知りません。
単身森を進む主人公に居ない筈の怪物に扮した知的障碍者の青年が襲い掛かりますが、主人公は寸での所で怪物を殺します。
その後主人公は無事に森を抜け、外壁をパトロール中の警備員から抗生物質を入手して婚約者のもとに戻る事ができました。
年長者会は、怪物の着ぐるみが紛失していたことに気が付き、動物虐殺は怪物に扮した知的障碍者の青年の犯行であること、主人公が殺した怪物は青年であることを理解し、「青年は主人公を追いかけて森に分け入り怪物に殺された」とすることとしました。
かくて、村の秘密は守られ、怪物の存在は信じ続けられることになったのです。

本作品の舞台が持つ問題の根幹は、このコミュニティーの第二世代へどの様に譲り渡すかについての第一世代の葛藤です。
ですので、この作品を楽しむ上で一番大事なのは何歳の人間が何人居るのかを見定めることだと思います。

構成人口についての考察で最も疑問なのは、コミュニティー設立時に学童期ー思春期(5-15歳)にあった人達がいる場合、彼らが成人後にコミュニティーを抜けたくなっちゃう問題があるはずなのにこれを解決した形跡が無い事です。その問題を乗り越えたノウハウがあれば、ここまで問題が深刻化してないと思うのです。
この疑問ついては、私の能力不足が原因の可能性もあります。私見では0-65歳間で極端に少ない年齢層が見られない様に思うのですが(傍証として10歳ぐらいの男児が登場しているんだからその親は30代くらいだと思います)、白人の人達の年齢が良く分からないので、これはぜひ識別力のある方の意見が欲しいです。作中に絶対にこいつ絶対年齢30代だって登場人物がいたら、教えてほしいです。

繰り返しますが、本作品の舞台の根幹は、このコミュニティーの第二世代への移行をどの様に行うかについての第一世代の葛藤です。
実は、森を恐怖の対象として教育している時点で、第二世代の全員に真実を説明してコミュニティーを維持する選択肢は無いです。
ですので、物語が始まった時点では第一世代が取りうる選択肢は2個です。1つは、第二世代の誰にも真実を告げない事、もう一つは第二世代の限定した人に真実を説明する事です。

表向き作品終了時にのこされた最大の謎は、主人公は自分が殺したのが何者であるのかどう解釈するのかが、未来の選択肢となります。

もし、主人公が「年長者たちは間違っていた。本当に怪物は居たんだ!そのうちの一体を殺した!」と理解した場合。
事故的な理由により年長者会は一度は主人公を対象に後者を選択したものの、事故的な経緯から主人公は真実を知らないまま、森は恐怖の対象としてさらに強化されたのです。とりあえず前者の選択が可決されたのです。しかし、彼らには常に後者の選択肢が提示されたままであり、さらに、偶発的に第二世代全員に真実が知れ渡ってしまう可能性は常に付きまとうのです。

が、これは多分可能性として低いでしょう。主人公は非常に聡明で他人の心を推測する能力が高い描写があり、現実的には以下となるでしょう。

主人公が「実は自分が殺したのは知的障碍者の青年であり、父親たちは村を守るために嘘をつくことにしたのだ」と理解した場合。
彼女はどう行動するのでしょう?
父親を問い詰めるでしょうか?それとも、独り清濁併せ呑み、年長者会の嘘を引き継いでゆくのでしょうか。少なくともあたりかまわず周囲に触れてまわるとは思えません。
結婚して、怪物役をこなすに当たって外部志向が強くて頭が良い婚約者から秘密を守り通せるでしょうか?あるいは婚約者に打ち明けて協力を仰ぐのでしょうか?


この作品の真の見どころは、この不自然なコミュニティーを維持し次世代に受け継いでゆく方法を必死で模索する年長者会の皆さんの、愛と知恵と自制心を振り絞った涙ぐましい教育シーンだと思います。常に尊敬される立派な振る舞い、倫理に反する行動を犯さないために全力で自制。言動は慎重で、思慮に富み(その割に着ぐるみの隠し所とか、脇が甘いですが)、葛藤しながらも次世代マインドコントロールを欠かしません。
こんな努力している養育者集団、そうはいません。

彼らの葛藤の源泉は、次世代の若者たちの幸福です。
若者を村に隔離することは彼らから選択肢を奪う悪行であり優しい虐待なのか、現代社会の害悪からあらかじめ遠ざける保護行為なのか。
孫世代すなわち第三世代誕生が生まれ始める状況では、世代交代まったなしです。
そして、年長者会から、指導者の度量を持つ認定された主人公は、これからこの村をどう導くのか。アーミッシュの抱える問題を避けることはできるのか。
この村の今後が大変興味深いです。

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