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巨樹の最期

大好きだった巨樹が倒れたという知らせが届いたのは倒れてから1ヶ月経っていた

この木の存在を知ったのは10数年前
当時住んでいる自治体の市政10周年記念事業、市の木市の花制定委員会に参加していた時に教えてもらった
「太白桜」
初めて聞く名前
日本では一度絶滅した種で逆輸入みたいな形で種が再度持ち込まれ生息してきた桜だそうで、6cmくらいの大きな花を咲かすという話は大層興味深かった
昭和7年に再度日本に入った太白桜は樹齢最長でも100年強になるものしかいない
だから太白桜の巨樹があると聞いた時はせいぜい3mくらいの若い木を想像して向かった

時期はちょうどソメイヨシノが終わった頃、向かった先にいた太白桜の巨樹に一瞬で心奪われた、一目惚れだった

美しい樹形、2本の太白桜巨樹の傘の中にいるかのように広がった枝張り、そして真っ白で大輪の花は背に見える残雪の山々に映え一層白く見えた
いつまでも此処に居たい
訪れるたびに思っていた

在りし日の太白桜

別の年に車を停めさせて貰ったお礼と桜を観にきました、と近所の方に声をかけたら
「目立って困る、伐りたいと思ってる」と言われた
春の畑には何もないように見えても踏まれたら土は固くなる、だけど勝手に入ってくる、花が咲くから人が来ちゃう、その辺に勝手に車を停める…とにかく迷惑していると…
かつてこの話と似た有名樹木が伐られたことを思い出した
北海道美玲町の通称「哲学の木」だ
観光名所として全国区で有名になったが個人私有地にあり周囲は畑、
所有者がどれだけ対策しても畑に入る、ひどい時は車で畑を横切って木の根元まで行く…困り果てた所有者が苦渋の決断をしなければいけなかった
まだまだ元気だった木が伐られたのは人災だった

次の春、桜の咲く前の2月に意を決して太白桜の前の家を訪ねた
どうしても伐られたくない思いの丈と所属している全国巨樹巨木林の会の会報を持参して何とかしてでも太白桜を保存して欲しいと訴えた
突然の来訪にも関わらずコーヒーを淹れてくれ、ゆっくり頷いた家主が私にこう言った
「実は集落で保存会を立ち上げたんだよ、だから大丈夫だよ」
力と緊張が一気に抜けて泣きそうになった

一般的に巨樹の保存は文化財指定を受け補助金を受け取り管理する
そのかわり指定樹木は庭木だろうと見学したい人がいたら公開する義務が生じ、剪定するにも指定先の(国、市町村)許可が必要になる
国の文化財ともなれば所有者の一存ではどうにもならず大体管轄の教育委員会などが管理して樹木医など定期的な検査、管理を行っている

巨樹の管理、保存にはお金がかかる
これを個人でやってのけるのは至難の業である

でもこの太白桜は文化財への登録を断った
理由は先の通り、訪れる人々を制御出来ないからである
そして選んだ方法が集落内で保存会を立ち上げひっそりと守ることだった
発言権は居住者にしかないけれど、という条件だったけどすぐに入会した
毎年花の季節に便りが来てお花見会をした
能舞台を作って舞ったり、ライトアップもした(実はどれも参加していないけど開花したら必ず行った)
伐られてしまうかも、と不安を抱えながら行った時には考えられないくらい太白桜の待遇が良くなって、毎年4月の便りを楽しみにしていた

数年前の秋に大きな台風が2週続けて襲った
各地で林道は崩れ、県内の巨樹も被害に遭った
心配で向かった太白桜、そこには傘のように広がった大きな枝が折れて農機具小屋を押し潰していた
気がつくと会長が近くに来ていて駆け付けた私を労ってくれた


折れた大枝
2019年台風の被害

桜は一度枝が折れてしまうと弱っていくのも早いらしい
根元にベッコウダケの菌に侵され懸命の治療、修復処置を繰り返した太白桜は台風から5年後の2024年3月18日、県内を襲った強風で根元から倒れ生涯を終えた

今年の便りを開けた翌日に太白桜を訪れた
会長と話ながら涙が止まらなくなり「守ってあげられなくてごめんね」と言われる
たくさん首を振って「長らく守ってくださりありがとうございました」と泣きながら会長に言った
もしかしたら元気なうちに人の手によって伐られていたかもしれない命、最期まで知らせて貰って駆け付けられたことに感謝しかない
実際には集落の半数以上が保存に反対したそうで人里の巨樹保存の難しさを痛感する
ただ遠くから楽しみにしている私と違って金銭面から環境面そして住人との調整を一挙に担う会長には苦労が絶えなかっただろうが、永く地域を守り癒しを与えてくれた桜への愛情をとても感じる

倒れてから1ヶ月経っているというのに枝先にはぷっくり膨らんだ蕾が今にも咲そうになっていて、その生命力に驚き勇気をもらう
膨らんだ蕾のついた枝先を会長が分けてくれた

膨らんだ花芽2024/4/10

太白桜は倒れてからも今年の花を諦めなかった

持ち帰った枝の桜が咲いたらこの記事を公開しようと思う

咲いたよ

全国にはこういった公開していない、または管理地内につき許可制の土地にいる巨樹が時々存在する
以前神奈川県某地の巨樹へ見学する許可の電話をした時に言われたことがある
「許可していない人がSNSに載せていることも承知している、でも今はその罰則条例がないのでどうにも出来ない」
文化財にもなっていないので公開義務はなく不許可だといわゆる不法侵入になるのだけど、いかんせん当人が知らずに訪れているのか良しとしているかはわからない
ただ、その行為が巨樹本体へ影響するかもしれない事を考えて巨樹巡りを楽しんで欲しいと思う

とはいえ私も気がついたら畑だった、と焦ることもあったので気をつけねば…


後日専門家と話をした時にこの事を話したら、
「倒木しただけで木は生きているんじゃない?」と言われた

え!お祓いしてから片付けるって言ってたけど。。。

もし続きがあったら嬉しいな…一応子孫は残ってる

1週間後の4/15、倒木のまま満開になっていた



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