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ASOBIJOSの珍道中

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文筆家で尺八見習いの万里一空と、日本舞踊を習っている妻・MARCOによる、ドタバタ自給型ハネムーンの紀行文です。素っ頓狂で向こう見ずなアホ二人がカナダワーホリへ。果たして、無事に…
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#小説

ASOBIJOSの珍道中⑲:サーカス、手に汗握る!

 さぁ、サーカスを見にいきましょう。お祭り続きの夏を送るモントリオールでは、ジャズフェスティバルが終わると、サーカスフェスティバルが続きます。街道には、巨大な車輪の二輪車を漕ぎながら、ビルの2階ほどの高さから人々を見下ろし、にこやかに手を振っているピエロの姿があったり、広場に設置された巨大な跳躍ロープを使って、ぐるぐると宙返りをしながら青空に舞っている、天使のような格好をしたパフォーマーもいますし、サッカーボールに板を乗せて、その上に逆立ちをして、片手を離してしまい、さらに足

ASOBIJOSの珍道中⑦(MARCO執筆):モントリオールで拾った月額7,000円の絆たち

 モントリオールにきてから2ヶ月経つというのに、私はニートだった。近所のカフェは全部落ちたし、送ったメールは返信が来ないし、そもそも求人は全部フランス語必須と書いてある。ずっと避けていた、e-Mapleという在カナダ日本人向けの掲示板サイトを開くと、キラキラした文面で、日本食レストランの求人が並んでいた。私はそこで、やっとの思いでウェイトレスの仕事を見つける。  変なレストランだった。念仏と神棚と浴衣と茶道とJ-popとサムライを雑炊にしたような場所。食事が始まるときは、ま

ASOBIJOSの珍道中⑥:ディッシュウォッシャー

 ”一空、同じ皿はまとめるんだよ。洗い終わった皿もイチイチ運ばなくていいから。ダメダメ、そんなんじゃ遅い。あのね、もっと先を見て仕事するんだよ。どうやってやれば効率よくできるか、考えながら動くの、わかる?どんな仕事だってそうだからね。”  と、マグロの料理長は早口で急かします。私が働くことになったフレンチレストラン『La petite plantation』には、大きなバーカウンターといくつものテーブルがずらりと並んだダイニングホールがあり、その端にキッチンが一つ、そこからさ

ASOBIJOSの珍道中⑤:スカンクに追われ

 3月初旬、凍りついた街の闇夜を歩いていると、背後からガサゴソと、氷を引っ掻くような音がしました。嫌な予感。ダッと、全力でダッシュをしてみましたが、すぐに追いつかれました。獣。黒い毛にフサフサの白い毛、猫のような鼻。そうです。スカンクです。  両手に食べ物がパンパンに入った買い物袋を持ってゼーハーゼーハーと息を切らす私から、いつでも飛びかかれるほど近い、1メートルくらいのところから、じっと私を睨みつけています。ひとまず、りんごを一つ取り出して、そっと相手の方に転がしてみました

ASOBIJOSの珍道中③:いよいよモントリオールに

”もう二度と飛行機なんて乗らねぇ”と、MARCOさんは相変わらず。  いよいよモントリオールに到着しました。2月の17日のことです。一つ驚いたことがありました。それは、既にコロナが終わっていたことです。アメリカの入国にはワクチン接種の証明書の提出を求められましたが、カナダの入国には何一つコロナに関連した手続きなどありませんでした。街中を歩いたって、マスクをつけている人なんてめったに見かけません。  到着した翌日に、この国の寒さを凌ぐためのコートやブーツなどを探しに中心街をぶら

ASOBIJOSの珍道中②:1束のセージ@LA

 ”君は英語もよく話せるし、海外には慣れているね?ベニスビーチは前と比べたら随分綺麗で安全になったよ。だけど、観光客まる出しじゃダメだよ。iPhoneを見ながら歩いたり、カバンを置いてトイレに行ったりしない。わかるね?あと、タダであげるって言われても、何も受け取らないんだよ、いいね?”  と、初老の黒人タクシードライバーが忠告をくれました。2月の半ばだというのに、LAでは、常夏のように陽光が燦々(さんさん)と輝いています。ベージュのハンチング帽に白髪が覗くこのドライバーにはど