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ASOBIJOSの珍道中

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文筆家で尺八見習いの万里一空と、日本舞踊を習っている妻・MARCOによる、ドタバタ自給型ハネムーンの紀行文です。素っ頓狂で向こう見ずなアホ二人がカナダワーホリへ。果たして、無事に…
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#珍道中

ASOBIJOSの珍道中⑰:モントリオールジャズフェスティバル

 モントリオールに来てから5ヶ月ほど、7月になりました。  海外生活もこれだけ長くなってくると、色々な変化が起こります。まず第一に、私の足が強烈に臭くなりました。これは別に海外がどうのこうのという問題ではなく、単純にレストランでの仕事が12時間に及ぶ立ち仕事どころか、走り仕事でしたので、毎度帰宅して靴を脱げば、むわっと、便所の虫もたじろがん、とばかりの悪臭を放つのでした。  もちろん、きちんと石鹸で洗えば一時は収まるものの、しばらく経つと、やはり、ぷわんと臭い立ってしまい、M

ASOBIJOSの珍道中⑯:ファインダイニングの客と給仕たち

  ”ロマンティックの裏には、必ず、隠された激情がある。”  と、この店一番の古株給仕人のシラガハヤブサが、両眉の上に深いシワを作って、貫くような眼差しをこちらに向けました。  フレンチレストラン『La petite plantation』で給仕補佐になってから、すでに3ヶ月ほどが過ぎ、給仕人たちとも気心が知れてきていました。  中でもこの古株給仕人のシラガハヤブサは、いつもTim Hortons(ティム・ホートン)というカナダのチェーン珈琲店のカップを持って、出勤時刻の3

ASOBIJOSの珍道中⑮:百花繚乱、オールドタウン

 ジャック=カルティエ広場は、幅の広いゆるやかな斜面で、たおやかなサンローラン川の流れを見下ろし、今日も世界中の観光客を乗せ、虹色の巨大洗濯機のごとく、ごったがえした夢の渦です。左右には赤、紺、緑の大きな天幕を広げたオープンテラスのレストランが並び、蝶ネクタイをした給仕たちが担ぐお盆の上には、黒や金に輝くビールが泡立ち、ワイングラスが重なり合う音が鳴り響きます。  ガラガラガラと、その斜面を転がり落ちるように、私たちの片輪の台車が右に左に、よっと、よっと、と危なげに揺れながら

ASOBIJOSの珍道中①:LAを経由して

 うとうとと、眠れたのか、眠れなかったのだかハッキリとしない時間を過ごして、目を開けると、機内には、辺りの窓から差す、すみれ色の光が充満していました。私は、しばらくぼうっと外を眺めてから、日記帳を取り出し、こう綴りました。  こう書き終えるや否や、飛行機は着陸体勢に入りました。すると、隣のMARCOさんは一層固く目を閉じて、身をこわばらせます。そうです、普段は何事にも勝気で、車の運転も自転車の運転も、怖い物なしでびゅんびゅんとぶっ飛ばす彼女ですが、飛行機は大の苦手なのです。