頬を駆け巡る気まぐれなあいつ
公園の晴れた日の冬空は、透明な何かが通っていくのを感じる。
休憩時間中に、ベンチで自前の枕と寝袋で昼寝をする。
仕事で付けるネクタイをアイマスクにし、眼球に入り込む光を遮る。
頬を当たる何かのおかげか、日差しで火照った顔を冷やしてくれた。
学生の頃、通学路を自転車で登校し、パンパンに火照った全身をクーラーのように冷ましてくれた何かが、同じように頬を伝う。
部活顧問の先生と言い合いになって、小さな手で平手打ちをした少年。
短期大学でバイト先の主人を猛烈に怒らせてしまい、平手打ちを食らった青年。
初めての就職先で、深夜近くまで仕事をし、眠気覚ましの平手打ちをした成年。
頬を伝う何かは、いつだって冷たさか優しさか慰めか悲しさを運んでくれた。
その何かはきっと記憶の宅配便で、いつだってどこにいたって、同じでないようで、同じように吹いてくれる。
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