【水星の魔女】クワイエット・ゼロとは

クワイエットゼロについて考えるにあたって、7話感想として書きかけていた内容が近しいものだったため、そのまま載せて後方に付記をつけるという構成になっています。


 n周遅れで水星の魔女を見始めて7話まで到達した者です。
 サリウス・ゼネリおじさんが「ガンダムと認めたな」ダブスタクソ親父を再確認していたり、4人からなる共同CEOが清々しい顔で「風向きが変わりそうね」とか言ったり、なかなかに話が動いた回でした。
 個人的には前話に引き続き最も真相への肉薄が起こった回だと感じられ、ダブクソ親父ひいてはヴァナリース事変におけるデリングの真意を推し量ることができるのではないかと考えます。

〇対ミオリネ - デリングという人物像
 ミオリネの提案に対する融資が今回の印象的なシーンでしたが、デリングの心理としては特に矛盾のないものとして疑問なく受け止められました。なぜなら既にミオリネのトロフィー化として意思表示は表れていたからです。
 ミオリネは自身のトロフィー化を親からの逃れえない束縛だと感じていましたが、学園での決闘は親の権威も財力もなんでもありなことを考えるとむしろ真逆にミオリネにめちゃデカい自主性を手渡すのと同義です。つまりミオリネが自由に花婿を選んでいいし、デリングはそれを追認するよという態度なわけです。ミオリネ自身が学園内でアプローチを取って、政治的でもいい、まぁ恋愛的であっても基本は許容される、姻戚関係を選択できるし、その対外的なセレモニーとしての決闘では、選ばれた花婿はデリングのお墨付きプラスベネリットグループの全力サポートを受けられるし絶対勝てます。へなちょこパイロットだろうがジェタークパパがやってたAI支援という手なんかも全然あります。しかも「決闘の勝者なら」なので、ベネリットグループと全然関係なかったり対立するような立場だろうとミオリネが彼女の決断能力において選んだならデリングはそれを追認するまで織り込み済みです。めちゃ甘です。ジェタークパパとどっこいの甘々です。
 今回のミオリネは、スレッタという勝者の伴侶であるという状態で、スレッタのエアリアル及びガンダムの支持者になるという意思を表明しました。合わせ技一本の形でデリングの中の基準をクリアして、融資を行ったという形になるでしょう。
 デリングがめちゃ甘なのは「お前には信頼がないからだ」がいつもの高圧的な口調に見えて、「ここ(父親)には信頼がありますよ~」というクソわかりやすい助け舟を出してるところです。系列企業にはもちろんこんなやさしさ全然ないわけで。プロローグで「私は決断(行動?)によって示す」と言明しているデリングですが、ミオリネから見ればダブクソ親父でも、身内への情はめちゃめちゃあるし、血も涙もないというよりは理由あってのダブスタと見る方が良さそうです。
プロスペラの発破もあまりにもタイミングがいいものですし、両者は密に連絡を取っているとみれます。

〇ゼネリの策 - デリングの意図
 デリングはただ残酷なだけの執行者ではなく、行動からその意図を推し量ることができる。それを確かめようとしたのが今回ペイル社を抱き込んだサリウス・ゼネリの目的です。
 終盤に「ガンダムと認めたな」の台詞がある通り、ガンダムに対する線引きを問うことが目的でしょう。ガンダムが認可されない理由は「パイロットを危険に晒すから」としてヴァナディース事変として執行されました。エアリアルはミオリネの乱入もあって認可されましたが、パイロットへの健康被害がないという名目ですり抜けています。この認可に既にデリングの意思表示を見て取れます。プロスペラが明かした通りエアリアルはガンダムなのだから。
 これを違和と取ったゼネリが明確な形でデリングの是認を確認しようとしたのが、今回のペイル社による騙し討ち魔女裁判もどきです。ペイル社のファラクトは言い逃れできないパーメット許容値オーバーを公式戦として記録されているでしょう。汚染のない本物エランくんは確保していようと、発表の場でガンダム部署の処断と取り潰しを自ら申し出ています。
 ガンダムそれ自体を認めないわけではない可能性はエアリアルの先例から予測できる。ガンダムの何を認めないか、何が虐殺をするほど認めがたいのか。
 そのために、ガンドフォーマット特有に生じるパイロット同士の意識の混線を大衆の面前で提示しています。ゼネリからしたらここがかなりガンダムを看過できない理由に近いのではないかという予想の元です。これによりエアリアルの認可が取り下げられるならこれこそがベネリットグループがガンダムを忌避する理由と見当づくので、そこを内密に研究したなら彼らに対してイニシアチブを取れる可能性がある。しかし二転三転はありながらも、デリングはガンダムの存在自体を認めないという態度自体を覆した形になります。けれど、こちらの結果を引き出せたこともゼネリたちには収穫たりえます。
 後輩魔女であるベルメリアを確保したペイル社であっても、21年前にルブリスが到達したアプローチが実現できていないことは強化人士4号の存在からも明らかです。パイロットの健康被害なんてお題目が飾りに過ぎないことは誰もが承知です。その音頭のもと葬り去られたヴァナディース事変については、目的から意図から今日に至るまで不明なままだと目せます。デリングの出方によって、ベネリットが真に隠匿したかったものに対して接近できるのです。

〇ヴァナディース事変の意図
 パイロット同士の意識の混線が生じうるガンドフォーマットは、ガンダムの存在それ自体を認めない理由ではない、というのは視聴者にとっても大きな収穫です。
 ベネリットが危惧した、ガンダムの真の危険性について考えを深めていくことができます。
 ガンドフォーマットとは、パーメットを利用した身体機能拡張技術です。第一人者であるカルド・ナボ博士は人類のさらなる宇宙進出における基幹技術になるだろうとも言及しています。
 義肢などが最もわかりやすい例ですが、自分の身体とは異なるものへ自分の肉体と同じように意思の伝達を可能にする技術であり、その媒介をパーメットが果たします。考えを進めれば全身義体化なども想定でき、パーメットの媒介があれば肉体に依拠しない意思の行使を実現しうることは想像にかたくありません。宇宙への進出は脆弱なタンパク質の肉体には過酷であり、その軛から解放されることは当然ヴァナディース機関の視野には存することでしょう。典型的なトランスヒューマニズムが見て取れます。
 パイロット同士の意識の混線も、ガンドフォーマットの理論を知るものなら誰もが容易に想定できるものです。双方がパーメットを媒介とし、意思が肉体に規定されないのなら、両者を隔てる境界は実質的にないも同然であり溶け合う瞬間が生じるのも当然です。しかしここから少々の発展形を考えるだけでも、人類の既存概念に大打撃と変革を迫ることが予想できます。
 例えばすべての人が常時高い水準でパーメットスコアのパフォーマンスを発揮できたら。制限されない身体によって無限に自我が拡散したら。他者と意識が混ざり合うことが常態化したのなら?人類は個を失い、全てが溶け込んだ人類総体としての姿をポストヒューマンとして得るでしょう。どこまでも希薄に広がりながらさらなる宇宙進出を果たすでしょう。『観測さえできれば干渉できる。干渉できるなら、制御もできる』とはまどマギのキュゥべえの言ですが、萌したなら応用まではすぐ、21年前のガンド技術でさえ数歩進めば到来しうる未来です。新人類への要石技術をアーシアンが握ること、アーシアンとスペーシアン間の格差をラジカルに無効化することはアーシアンに利しスペーシアンは承服しかねることを考えると、カテドラルを動かすことはひとまず飲み込めます。ゼネリがガンダム封印の理由として睨んだのはここでした。しかし、デリングにとってこれは容認できる内容だと分かったのです。
 だとすれば真に容認できないこととは何なのか。
 一つはガンドフォーマットの規制ではなくガンダムの規制であることです。パイロットの健康被害というお題目を通すなら、流入パーメット量に上限値を設けることでも達成されるはずです。他者との意識の混線すら問題視の順位が落ちるのなら、ガンダムそれ自体が虐殺を起こすだけの理由を有している。
 二つ目は、手段として虐殺である必要があったことです。初めは、ヴァナディース機関の皆殺しはパーメット過剰量流入による患者を含むパイロットの肉体に隠蔽すべき情報があって、その流出を防ぐために非戦闘要員まで含めて殺したのかと思っていました。しかし病院で治療されている患者まで手に掛けたとあっては大義名分が倫理的に損なわれてしまいます。期限の三日後になれば穏便に機関を解体でき、ベネリットグループがその技術を掌握することも可能でした。けれど技術ごと失われるやり口を取った。ならばやはり口封じを目的とみるべきです。
 カテドラルは監査機関です。この事変に際して設立されますが、想像を逞しくして前身は諜報機関なのではないかと考えます。もたらされたレポートによりヴァナディース機関のガンダム研究への致命的な危険性が指摘されます。カテドラルのバックにいる重鎮の意向のもと、デリングの独断専行という形で虐殺が断行されました。会見と並行して強行されたのは、妨害されないため、どの勢力にも先んじて実行するため。あるいは発覚したのが手を打てる猶予が既にない時点だったことも挙げられるでしょう。情報がどこまで拡散したかも把握するだけの日数がなかった。誰も阻止できない虐殺の断行により、事態を強くタブー化することができます。カテドラルおよびデリングへの追及は背後の重鎮が握り潰し、重鎮の権力がデリングに移譲されることでタブー化は継続できます。そうして、ヴァナディース事変時に生まれていなかった、ガンダムを知らない世代が台頭するまで、タブー化によるガンダムの呪い封じは機能するのです。

〇エアリアルとは何者か
 結局ガンダムの何がそんなにヤバいんだい。
 手がかりになるのはやはり「レイヤー34からのコールバック」と、高パーメットスコア行使時の副作用です。四歳時点にしてレイヤー34を突破したエリクトは他パイロットのような副作用に襲われていません。エランくん(4号)は副作用の苦痛を「脳みそに手を突っ込まれるような」と評していました。突っ込まれて苦しいのはどんな手か? 臓器移植の拒絶反応から連想するなら、「他人の手」だから苦痛なのでは? 自分の手なら、自分の脳みそを巡る媒質と同質ならば?
 レイヤー34が何なのか皆目分からないが、階層構造という用語は三話冒頭でニカ・ナナウラが出している。エアリアルの群体制御について、同時的処理ではなく継起的空間の併用だとスレッタは答えています。平たく言うと同時的とは数学的で、継起的とは主観的知覚的とでも言い換えればいいだろうか。手続きとして人間に近い手法を採用しているという答えになります。
 コールバックとは電話の折り返しを意味します。人間側が機体側に行う呼び掛けと同じものを機体側から人間側に行うように要請するものとみていいだろう。
 エリクトに応答したのはまさしくルブリスそのものだった。しかもパーメットでのやり取りに際して両者の間に拒絶はない。エリクトと不可分に同質な意思発現体としてルブリスは覚醒した。
 最悪なのは、エリクトは高いパーメット適性を有していて肉体に依拠しない在り方に適していながら、エリクトがエリクトとしての肉体から離れた場合、おそらくルブリスとの区別方法がないだろうことだ。ルブリスの方も、エリクトの精神のコピー体というにはガンダムを身体として成立したものだが、パーメット信号としてのエリクトとルブリスを切り分ける手段はない。どこからどこまでをルブリスと規定できるかというと怪しいだろう。本当はエリクトの意思の伝達先の肉体としてのガンダムだろうに、ルブリス自体が同質に応答する。
 人間と人間の意識が混ざってしまうならまだマシだ。個々の人間にそれぞれ自身の肉体と自己連続性を持つ記憶があれば、自我を取り戻せるだろう。肉体は器であり境界だ。記憶があればとはいっても、その記憶が個人に特有なのは個人の持つ肉体が知覚し経験した事柄だからである。赤子が服を着るように、異なる新たな身体・ガンドを纏うことで肉体の脆弱さを克服する。ガンドフォーマットなのだから、違う身体であるガンダムとの間とも意識の混線が生じる可能性はある。意思を伝達するための機体なのだから、意識を持たないのが前提だ。だがもし、機体それ自体に意思があったなら。それらが混ざり合ったなら。その意思がその個人と区別できない同質さだととしたら?
 カテドラルを動かすほどの動機として、ガンダムであり知識の拡散自体が危険なものとして私が想定できたのがこれくらいです。ベテルギウの商品説明にアンチドートに付随する一文として「無人機によるドローン戦争に終止符を打った」の文言があります。デリングの奇妙な演説もこの背景を踏まえれば腑に落ちます。演説時のデリングはパイロットの健康被害を理由に論を展開しますが、意思の伝達と責任の所在に力点をおいて聞いてみるとデリングの意図する部分が読めてきます。
『私はこれまで数多の戦場を経験し、一つの結論を得ました。兵器とは人を殺すためだけに存在するべきだと。一点の言い訳もなく、純粋に殺すための道具を手にすることで、人は罪を背負うのです。しかし、ヴァナリースとオックスアースのモビルスーツは違う。相手の命だけでなく、乗り手の命すら奪う。これは道具ではなく、もはや呪いです。
命を奪った罰は機械ではなく人によって課されなければならない。人と人が命を奪い合うことこそ、戦争という愚かしい行為における最低限の作法であるべきです。
自ら引き金を引き、奪った命の尊さと贖いきれない罪を背負う。戦争とは、人殺しとは、そうでなければならない。』
 無人機によるドローン戦争には、おそらくAIが搭載されています。AI搭載の無人機は使用者である人間の武力行使をアウトソース(外部委託)されています。高度化されたAIはしばしばブラックボックスで、AI自身の決定プロセスが判じ得ないことも多々あったでしょう。その終結とは「たとえAIの判断だろうと、起きたことの責任はすべて指示した人間側が負う」というものだと考えられます。意思の伝達された、身体の延長としての道具です。意思決定と責任の所在は常に人間にあります。
 そういう視点でデリングの演説を見ると、「一点の言い訳もなく、純粋に殺すための道具」により「人は罪を背負う」とはまさに意思決定と責任の所在を指しています。そしてガンダムは「道具ではなく、もはや呪い」だと称されています。道具とは一点の言い訳もなく純粋に意思を伝達するものであり、その意思決定に介在するものがないからこそ責任の所在は人間にあります。ガンダムはそうではないのです。
 道具でなく呪いであるガンダムとはつまり、意思決定に介在しうるし、意思の伝達にも疑問符が生じます。「命を奪った罰は」が掛かるのはガンドによる健康被害ではなく、乗り手の殺人における意思決定にガンダムの意思が割り込んでくる事態のことを指します。身体機能の拡張だからこそ人間そのものと切り分けられず、機械の意思が人間の意思決定に混ざりこんでくるのです。すべての人がエリクトとルブリスになる、そう遠くなかった未来に。

 ガンド技術の概要を聞けば、肉体を完全に捨てられる日が近いことはすぐ想像がつきます。オックスアースが進む方向もおそらくこちらでしょう。A.S.122現在、少なくとも太陽系内には版図を広げられているだろうものの、その外側への進出は二の足を踏んでいると思われます。パーメットも太陽系内に鉱物が偏在するとは言うものの、推進剤などに用いられる使い捨て用途もあるほか、産出量や資源問題がチラつきます。光速を超えなければこの広すぎる宇宙を旅するには難しく、パーメット伝達にマインドアップローディングしてしまうのは実にナイスな一手です。
 けれどカルド・ナボ博士の言葉を今一度聞くに、博士が目指したのはもう少し違ったもののように感じました。赤子が服を着るように、ガンドを纏う我ら。この服が赤子から生まれ持った毛皮を奪うようにはきこえません。毛皮持たぬ赤子を守り暖める服、今の人類の肉体と生命のまま、ガンドという鎧と傘を身に着けて、宙への船出支度を整える。とは言え幼子にルブリスを触らせたり、ヴァナディースの意思を継いだと言われたベルナリアが非人道的な実験に加担していたりと一概に真意を窺い知ることは難しいが。
 けれどプロスペラはそうではなかった。みんな殺されてしまったから。そうするより他になかった。
 端的に、エアリアルとはエリクトとルブリスが溶け合った状態のコアシステムが引き継がれた(別機体ならば)ガンダムだと思われます。エリクトは生来の肉体を失っていますが、ガンダムという新たな身体自体は存在するため身体拡張の定義上問題なく生きていると言えるでしょう。エアリアルは11のガンビットを有していますが、単純に11人が犠牲になっているとは思われません。身体機能の拡張なのだから純粋に身体が11つ増えることだって拡張として数えられます。11つと本機で一人のエアリアル、エリクトとルブリスで一人のエアリアルというのは十分に成立します。
 エアリアルを娘だとあまり隠すそぶりのないプロスペラですが、親子であることが肝要ならエアリアルではなくミランダと名乗らせたっていいわけです。あるいは魔法のファクターが大事なら呪いにあてつけて魔女シコラクスとキャリバンを名乗る案もあります。妖精エアリアルにこそ魔法の力はある、というのも真意の一つだと思いますが、重要なのはプロスペローがエアリアルを解放することにあるのではないかと思えてきます。事変とカテドラルで封じてきたガンダムの呪いを孤島から世界へ明るみに出そうとしているのではないか。
 プロスペローはアロンゾ―もセバスチャンもアントニオも赦しています。ならばこの三者は復讐の対象ではないのです。


オックス社とオックスアース社について、こちらを参照されたい


 12話の実弾使用の話は実に示唆的である
 スペーシアンは「宇宙を汚す条約違反」とアーシアンを指弾するが、アーシアンは「地球を汚して逃げたスペーシアンがどの口で」と独り言ちる。
スペーシアンとアーシアンの違いは宇宙進出の早いか遅いかのみ、実弾使用の条約は先に宇宙に出たスペーシアンの行動によって設けられたものである。
 つまりヴァナディース機関の試みたものは既にスペーシアンも手を付けていたものと思しい。
 おそらくそれがオックス社であり、ヴァナディース機関およびオックスアースは本社のスケープゴートの一面もあったように思える。

 ベルナリアの「データストーム耐性のある人工中枢神経による拡張神経理論」をカルド博士は認めなかった。
 おそらくここが肝要で、人体を尊重するヴァナディース的な立場がカルド博士であり、人類を際限なく拡張するオックス社的立場がベルメリアだ。
 そういった誘惑がここに横たわっていて、それに諾々と首肯するか否かが分水嶺だ。

 クワイエットゼロ自体は簡単だ。高位の出力によりパーメット通信のすべてを握る。これにより戦いや争いを排除できる。
 一方でベルメリアの指摘通り、掌握のみが目的ならここまでのスコアは不要だ。プロスぺラがスコア8を求めるのはエリクトを自由にできるから。
 エリクトこそが私たちの目指すガンドの未来、しかし現在のエリクトはエアリアルという体がなければパーメット粒子にすぎず物理空間では崩壊する。
 クワイエットゼロはデータストームの領域を広げる。スコア8になればパーメット情報をより強固に支えることができるかもしれないことが一点。
 データストーム空間を新人類の生きる場所とすればすなわち世界を書き換えエリクトを余人と変わらず生きさせることができるかもしれない。

 スペーシアンとアーシアンの格差がなぜ生まれるか、宇宙進出には多額の富と財を要するからだ。
 なぜ宇宙進出に多額の富と財を要するか、それは「人体が脆いから」
 スペーシアンとアーシアンの軋轢は、元をただせば人類と宇宙との間の障壁とも言える。両者間の問題をそのまま宇宙進出への問題点と読み替えることもできる。
 そして問題は「宇宙進出と引き換えに自分が一個の人間であることを手放すことを是とするか」
 デリングは強硬手段をとってでも「人間性の回帰」を主張した。カルド博士は「身体も脆弱性を補う」と話した。克服する、ではなく。
 そのデリングが、極秘裏に自らが封じ込めていたはずのクワイエットゼロを動かしていた。この意味は重要だ。
 脆弱な人体を捨てられるというトランスヒューマニズムの誘惑は大きい。それは人類がより広い宇宙へ飛び出す願望と等しいからだ。
 だからクワイエットゼロは止められない。どう封じ込めてもいずれ同じ欲望を持つものが必ず表れ、その動力には歯止めがかからない。
 だからこそ、コントロールの効く環境下で掌握する。実現という最も大きな鬼札を握りこんで、他を抑止し、最も抑制的な運用を試みる。これがきっと大人の出す結論だろうと思う。
 自分で選んで自分で歩むことの大切さはまさに作中で語られている通りだ。我々は母の腹から産み落とされ、己の欲望をもつ一個体である。
 人間が宇宙を目指すのは人間であればこそ抱いた願望だ。人間が宇宙に飛び出す良き友人としてガンダムが立つことを心より願う。

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