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最近の俺

目を開ける。カーテンを開ける。太陽が照っている。
「太陽が照っても家から出なきゃ意味ないのにねー」とひとりで呟く。その言葉は虚しくも宙を舞い、秒速、たぶん100万キロくらいで俺の布団に落下する。その勢いと重みで俺は身動きが取れなくなり、さっきまで起きようとしてたのに、「こんなん無理じゃん」と思いまた目を閉じる。

目を開ける。カーテンを開ける。太陽が沈んでいる。
「ども、ども、太陽またね」とひとりで呟く。今度はその言葉が俺の口周りから風船みたいに膨らんでいき、そこに留まる。なんだか息苦しくなる。呼吸が出来なくなってバって起きる。

死にそうだった、いや、死んだか?まあ死んでるようなもんか俺。

冷蔵庫を開ける。ひんやり寒い、やべー、暖房付いてねえし。昨日タイマーやんなかったけ?くそお。

2Lペットボトルの水をラッパ飲み。ラッパなあ、俺トランペットやりたかったんよ。なのにじゃんけんとかいうクソ理不尽なスポーツに負けてユーフォニアムんなっちゃった。まあそれも10年以上前の話。今はユーフォ好きだし、長いこと吹いてないけど運指覚えてるし、俺記憶力やべー。あれ、昨日何食ったっけ?えーと、まあいいや。俺記憶力やべー。

ギターを持ってみる、アジカンの如く流線形で掻き鳴らす。壁ドンされた。ごめんね隣人さん、ドンドンうるせえよクソが。ついでに弦が切れた。もう弾けねえよ俺ギタリストじゃねえし。あー、俺がアベフトシだったらなあ。

もやもやした気持ちのまんまなんとなくシャワーを浴びる。シャワーのヘッドの穴を見る、ぶつぶつして気持ち悪い。しかもそこから有料の水が出てる。金、金、金、金のシャワー。金の電気、金の肉、メキメキ剥がれて錆びる俺。

俺は死にたいと思ったことはない。けど、自分を殺したいと思ったことは何度もある。
どうせこの違いも分からねえんだろうな、着々と仕事のキャリアを積み上げて、結婚して、子供産んでる奴らなんかは。応援してるよ、頑張ってね、だから俺のこと見下さないで。

タバコに火をつける。金のタバコ。非喫煙者より俺は税金払ってんぞ。敬えよカス。

プハーって吐いた煙がバロック調の丸みみたいでなんか綺麗。それが天に昇って、どっかいって、その姿を追わせるためにまたプハーって吐いて、どっかいって。意味あんのかなあ、タバコって。
寒い時期になると今吐いたプハーが、煙なのか白い息なのか分からなくなる。分からないからいつまでも吐いて酸欠になる。苦しい、うえー。

夜になってなんかなんもやる気なくてとりあえず映画観る。笑えるやつ、『ハングオーバー』でも観るか。あれ面白いしね。
観る、全然笑えない、面白いんだけど全然笑えない。あー俺ここまできちゃったかー。もう終わりかな?

途中でやめてゲームする。ポケモン対戦。負けた。俺の大好きなフライゴンが戦闘不能になった瞬間、なんか全部どうでもよくなった。コントローラーを投げ捨てる。投げたコントローラーがガゴって音を立てる。嫌な音。ボタンが一個外れてる。弦と一緒にお前も死んだのね。ばいばーい。

布団に入る。スマホ触る。
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なんか俺明日死んでそーだなって思いながら目を閉じる。


目を開ける。カーテンを開ける。太陽が照っている。生きている。

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