【覚書】公共建築工事標準に準拠した制御盤製作の主な仕様について
はじめに
公共建築で用いられる制御盤の製作を行う場合、国土交通省の『公共建築工事標準仕様書』(以下、標準仕様書)に準拠することを求められるが、標準仕様書が規定している内容は多岐にわたり、標準仕様書が引用している様々な関連規格における不一致も少なくないため、網羅的な準拠は困難である。標準仕様書は、顧客(公共建築の使用者)との個別の合意を超えて法的な拘束力を持つ文書ではないため、実際の案件では標準仕様書のどこに、どう準拠した(しなかった)のかは不明瞭になってしまうケースが多い。顧客との仕様合意に不備があった場合、手戻りが発生するとロスの大きい主要な仕様に絞って、その仕様を採用する根拠となる標準仕様書の規定や関連する規格を示した覚書を以下に記す。
引用する仕様および規格の表記
引用する仕様および規格は《》内に表す。
例:
《公2・1.12.4(4)(イ)》→
『公共建築工事標準仕様書(電気工事編)令和4年版』2編1章12節4項4目(イ)
《JSIA 113・9.4.3》→
JSIA 113『キャビネット形動力制御盤 2020年版』9章4節3項
標準仕様書が引用する盤関係の主な規格
JSIA 113『キャビネット形動力制御盤』
日本配電制御システム工業会による規格。標準仕様書に記載のない詳細については本規格に準拠することが取り決められている。《公2・1.12.1(1)》
IEC 60204-1『機械類の安全性―機械の電気装置―第1部:一般要求事項』
上記のJSIA 113が参照している、IEC(国際電気標準会議)による国際規格。JIS B 9960-1『機械類の安全性−機械の電気装置− 第1部:一般要求事項』はIEC 60204-1のIDT(内容一致)規格であるため、そちらを参照してもよい。
製作要素ごとの仕様
盤の塗装色
塗装は製造者の標準色とする。《公2・1.7.3(1)(ス)》
JSIA 113は下記の塗装色(マンセル値)を規定している。
電線類の種類
標準仕様書は、盤製作を含む電気設備工事全般において採用する電線類(絶縁電線・ケーブル・コード等)の種類について、現在一般的に使用されている電線類ではなく、環境負荷の少ないEM(エコマテリアル)電線類を使用することを規定している《公2・1.1.1》EM電線類についての詳細は日本電線工業会のサイトを参照のこと。
電線に施す色別
主回路(電源回路および動力回路)は各相毎に色別(端子キャップ等)を施すか、被覆が下記の色の電線を使用する《公2・1.12.4(2)》
制御回路の色別の施し方については、標準仕様書には黄色を用いることが規定されている《公2・1.12.5(1)》が、一般的に交流の制御回路と直流の制御回路を同じ色別とすることは稀であるため、JSIA 113では補足されている。
直流制御回路の色別を被覆色で行う場合、正極も負極も青色とするケースが多いが、IEC 60204-1を根拠とする。
このほか、主回路に特殊な電線を用いる場合黒色とすることができることや《公2・1.12.4(3) 表1.12.5 備考(2)》、シールド線を灰色または黒色とすること《JSIA 113・9.4.1(C)》などが規定されている。
電線の太さ(導体の最小断面積)
制御盤の配線における適切な電線太さの選定は負荷容量によるが、配線の適切な機械的強度を維持するため、その最小値が規定されている。
主回路 :2㎟以上《公2・1.12.4(1)(エ)》
制御回路:1.25㎟以上《公2・1.12.5(1)》
ただし、制御回路のすべてを1.25㎟以上で配線することは盤の配線スペースの都合上困難な場合が多い(配線ダクトの飽和など)ため補足がある。
しかし、どの程度まで細い電線とできるかについては表記がないので、IEC 60204-1を根拠とする。
実際の取り決めによる製作では、動力回路は電磁開閉器やインバータ等の要求事項に沿って2㎟以上、制御回路は0.5㎟以上で配線し、制御回路のコモン線は0.75㎟以上、PLCのI/Oなど多芯ケーブルの回路では0.3㎟以上の電線を用いることが通例である。
圧着端子
圧着端子に関しては、JIS規格品を使用することが規定されているのみである。《公2・1.1.2》そして、圧着端子のJIS規格であるJIS C 2805にはY端子の規定がないため、制御回路まですべて丸端子とする仕様が取り決められる場合も多い。制御回路にY端子を用いたい場合はJSIA 113を根拠とする。
その他の仕様
盤の扉
キャビネットのドアは幅800mmを超える場合両開きとする《公2・1.12.3(オ)》
締付け確認マーク
端子ねじの締付け確認マークについては主回路のみ規定がある。《公2・1.12.4(4)(イ)》
付記
この記事を読んだ方で記述の誤りを見つけた方や追記のご要望がある方は、コメント欄にてお知らせいただければ幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?