索子式フィルオミノの作り方

この記事はペンシルパズルI Advent Calendar 2022 22日目の記事となっております。

! CAUTION !
この記事はペンシルパズル「フィルオミノ」に関するものですが
・既にフィルオミノをお楽しみの方
・フィルオミノ作ってみたいけど、どうすれば…な方
を少しディープな世界へと誘う記事となっております。「フィルオミノ?美味しいよね!?」というような方は、まず「フィルオミノ!楽しいよね!」くらいのライトな世界から触れていただくことをおすすめします(株式会社ニコリの『ペンシルパズル三昧 フィルオミノ1』、おすすめです)。
逆に「俺の方が深淵にいるぜ!」という方は「深淵を覗くと深淵であった」を体現して深淵サイドからこちらを覗いていただくのも一興かと存じます。

ほな行こか!

0.駄文


こんにちは、索子と申します。朝や夜にご覧の方は昼に来てください別の挨拶を脳内で補完して頂ければ幸いです。

「何者?」という至極真っ当な疑問に答えるべく軽く自己紹介しますと、索子は麻雀の牌の中で竹のような形をした…え?そうじゃないだろ!って?そうでしたそうでした。鳥のような形もありましたね。
冗談はさて置き、私索子はTwitterや「パズルスクエア」という投稿サイト、そして株式会社ニコリにペンシルパズルを作っては投げ、作っては投げしている者です。私とペンシルパズルの出会いと別れ、そして再会という感動のストーリーを綴ってもよいのですが、それを書くには余白が狭すぎるので自己紹介はこのくらいで。

「早く本題に入れ!」とジャイアントサイズの怒号が飛んでくる前に本題に入りましょう。


・まず盤面を用意します

生地

・適当に数字を置きます

トッピング

・あっと言う間に

ピッツァ

かわいいフィルオミノちゃん!


…これで終わってもよいのですが、それをするには余白が広すぎるのでそろそろ真面目にいきましょう。


1.ツール編


あいにく私は思いついたことを脳内でまとめて完成させ、パズルを虚空に具現化させる能力は持ち合わせていません。なのでイメージを逐一出力できるツールが必要です。
ここで選択肢として出てくるのが紙と鉛筆の類電子ツールかですが、私は後者の内の一つ、ぱずぷれというサイトを利用しています。紙を使って作ったことは一度もないです(印刷を含むならこの限りではない)。
ペンシルパズルの「ペンシル」って知ってはります?と京言葉が飛んでくるかもしれませんが、残念ながら私はペンシルズを作る時しかペンシルは使いません。
しかし紙と鉛筆で作っていらっしゃる方はすごいと思います(京言葉ではありません)。自分にはできる気がしないです。ただもしかしたら慣れ親しんだ方法の方が作りやすい、なんてこともあるのかもしれません。いつか虚空にパズルを生み出す時代が来ても私は「ぱずぷれ」でパズルを作っているかもしれませんね。

あ、これから作る方にはパズリンクというサイトもおススメどす。
ぱずぷれにない機能として、自動で境界が引かれたり何もないブロックに数字を入れなくても正解判定が出たりします。

2.脳内・マインド編


さて物理的な準備のお話が終了したところで次は頭や心の中のお話です。少し細かく分けて見ていきましょう。

1.知識

フィルオミノの問題を作るには、ある程度フィルオミノを解いてルールや手筋を知っている必要があります(手筋の名前は覚えなくてもいいですが、「こういう展開がある」というようなことは知っておきましょう)。
ルールに関しては既にフィルオミノに触れている方には特に説明の必要はない(…よね?)と思うので割愛します。
手筋に関しては私が頭に入れている中でメインとなってくるものを5つ解説します。特に説明の必要はないよね!という方はセルフ割愛をお願いします。

・伸び
ある数字が他の数字に阻まれることにより特定の方向にブロックを伸ばしていく手筋です。

伸び代ですねぇ
体力の限界

多くの問題の入口となり、中盤のギミックへの繋ぎや終盤の埋め等、全編通して活躍するフィルオミノ基本の「キ」です。
途中までしか伸びないパターンや既にある数字への合流、他の伸びの影響などそこかしこで登場します。

褒めて伸びるタイプや叱って伸びるタイプ


・弾き(はじき)
同じ数字が近くにあるが、大きさの都合で同じブロックにはなれない…そんな悲しき運命を背負った数字同士が境界を確定させる、それが弾き(notひき)です。

同担拒否
同族嫌悪

入口にもなり得ますが多くの場合、伸びた数字をコントロールする序盤中盤の潤滑油(水と油ばりに弾き合ってますけど)として働きます。
斜め配置以外にも、ひとつ間を空けた配置や同じ数字の塊同士、伸びとの複合に桂馬配置(ちょっと難しい?)などこちらも様々な顔を持ちます。

それ合流やない!弾きや!


・発生
このフィルオミノというパズル、時として何もない閉ざされた空間が出来上がったりします。人生においても虚無感に苛まれると心の隙間を埋めたくなりますよね?埋めましょう!あ、無を愛する人もフィルオミノでは埋めてくださいね。
盤面のどの数字も侵入して来れない空間を埋めるべく新しい数字のブロックが登場する、これが「発生」です。

隙間産業
感謝間隙 

主に中盤以降に登場し、途中の隙間埋めだけでなく問題のクライマックスを担うこともある手筋です。小さい数字の場合「気付いたらできてた」「発生が自然発生した」などと供述されることもありますが、意図して発生(特に4以上の数字)を作るとなると試行錯誤という名の熟練の技が必要です。ただ隙間を作っただけでは下図のように解なしや複数解になりかねませんからね。

禁足地
二枚舌

ところでフィルオミノを解いていて閉ざされた空間が出てきたとき、適当に「えいや!」と数字を入れていませんか?このパズルはナンバーリンクではございません。
ちゃんと空間のどこかのマス(1に隣接する端っこのマスがおすすめ)を起点に「1は入らない、2も入らない・・・n-1も入らない、よっしゃ!この空間は全部nや!」というような理詰めを行いましょう。
この意識は発生を作る際にも必要になってきますので、解くときから心がけておきましょう。

発生はフィルオミノにおける花形と言える手筋です(好みの問題はありますが)。
一つの盤面で4以上の大きさの発生を複数作れたり、10を超えるような大きい数字、枝分かれしたブロックや2×2の塊を含んだブロックなどの発生が作れれば、発生に関してはプロ級と言ってよいのではないでしょうか(個人の感想です)。


・吸い込み
何もない空間だ!発生が使える…と思いきやどの数字も入れられずハタンしてしまった!俺はなんてヘタクソなんだ!もう寝よう…
こんなときはとっとと寝な盤面にある数字で空間を埋める必要があったかもしれません。
閉ざしてはいけない空間に既存の数字を侵入させていく、これが「吸い込み」です。

吸引力の変わらないただ一つの手筋
お吸い物

発生が不可の場合に登場する対の手筋と言ってもいいかもしれません。発生がそれ単体で完結しているのに対し、吸い込みは次の展開を生むことができるので、最終盤よりは序盤中盤に登場することが多いです。
次の展開として代表的なのが「弾きとの組み合わせ」です。

節子!

合流できそうな距離にある数字も吸い込みにより届かなくさせることができます。この使い方をする場合、数字は大きい方(5以上)が魅せやすいと思います。
発生ほどの派手さはないですが、単純な空間埋めだけに止まらないのが吸い込みの強みです。

・噴き出し
この手筋一番にて、本日の打ち止めです。(番…?)
こっちに伸びると発生も吸い込みもにっちもさっちもすももももももいかない空間が出来てしまうので、境界を確定させ別の方向に伸ばしていこう!というのが「噴き出し」です。

ジュースを口に含んでお笑いを見ると
ジュースの味がして美味しい

この手筋の真骨頂は何と言っても前述の「発生」「吸い込み」との親和性です。

匠の手によって
なんということでしょう

「自分は空間に侵入できないので、発生さん吸い込みさんお願いします!」というなんとも控えめな縁の下の力持ち。しかし彼がいるからこそメイン手筋たちが輝くのです。


以上で手筋解説とともに知識編を終了しとうございます。ではこの知識を基に次のステップへ!

2.コンセプト

知識編は一般(初心者)向けの内容となりましたが、記事のタイトルは「索子式フィルオミノの作り方」ですので、ここからはオリジナリティを出していこうと思います。
自分は問題を作る際、ほとんどの場合でコンセプトを考えてから、あるいは考えながら作ります。「配置先行→コンセプト決定」も「コンセプト先行→配置決定」「配置そのものがコンセプト」のいずれもやりますが、行き当たりばったりに作ることは非常に稀です。

コンセプトの例
・簡単な問題にしよう
・数字を縛ってみるか
・発生をメインでいこう
・吸い込みで魅せるべ
・一つの数字に焦点を当ててみる
・今日はヤジリンを作ろう     etc

これらの中から1つ以上チョイスして問題を作るわけですが、早い段階でコンセプトを具体的に煮詰めすぎることはしません(例:10以上の発生を2つ以上作ろう、など)。
あくまでぼんやりと「発生!」くらいにとどめておき、数字や?マークを発生の余地を残して配置した後に「見えた!nの発生が作れるぞ!」となるのが基本です。ガチガチに固めず遊びを持たせた方が後々の調整が楽になり、完成に持っていきやすくなります。

初心者の方は何問か行き当たりばったりに作ってみましょう。そのうち数字のコントロールに慣れてくれば、できること・やりたいことが見えてくるようになりコンセプトを考えられるようになると思います。

3.気の持ちよう

問題を作っていて「うまくいかねーな…まるで人生みたいだ」と思うことがたびたびあるので、その際の対処法を準備しておきます。

・初志貫徹
くじけぬ心でひたすら調整に奔走します。大きな問題を作る際や途中まで完璧だった場合、時間や体調に余裕がある場合などはこのパターンになることが多いです。完成時の感動は最高ですが、色々と犠牲を払います。

・妥協
数字の縛りを多少緩和したり、発生の数を減らしたり等して何とか完成を目指します。妥協してもコンセプトが完全に覆るわけではないケースで、時間の余裕がそんなにない場合などはこちら。

・破棄
「やってられません。フィルオミノ引退します。今週復帰予定です。」などと宣いつつ睡眠や飲酒や他パズルに逃げます。
問題の重要度が高くないのに調整が全く上手くいかない場合や、色々と余裕がないときは素直に諦めるが吉。

問題や自分の状態をもとに判断しましょう。フィルオミノが上手くいっても、人生の方が上手くいかなくなっては困ります。

調整・妥協の話が出ましたがこれは次の話にも繋がります。

4.ポリシー

「ユニットバスは嫌だ!」のように、これだけは譲れないというこだわり、ありますよね。私も問題を作る上でいくつか持っております。ここでは問題が1.5倍面白くなる…とは限らない個人的なこだわりを紹介します。

・一度決めた配置は崩さない
小さい問題だと開幕でいきなり数字の配置を決めてしまうのですが(そもそもこの作り方が邪道索子オリジナル感ありそう)、途中で行き詰まったとしても配置は変えず数字の大きさを変えてなんとかします。
このパズル、極論すべてのマスに数字を配置してしまえば唯一解の盤面を作ることができてしまいます。つまり数字のマスを増やすということは「手っ取り早く唯一解に近づけられるお手軽な方法」なのです。しかしそんな簡単な方法に頼った結果、盤面の美しさや解き味を損なってしまっては台無しです。
また他のパズルと違って数字の大きさを変えることによる調整の幅が大きく融通が利きやすいため、配置にこだわっても面白い(と思う)問題が作りやすいというのも理由です。0~3しかないスリザーリンクや壁との距離で矢印や数字が制限されるヤジリン等ではこうはいきません。

・場違いなくらい大きな数字を調整や埋めに使わない
不意にできてしまった大きな空間を埋めるために大きな数字を使う、これほど簡単な埋め方はありません。しかし例えば他の数字が5以下で固められている中で急に9(急だけに)が一つだけ登場する、これほど不自然な埋め方はありません。不自然なだけでなく何のギミックもないため面白味にも欠けます。
自分はこのようなときは極力5以下だけで解決しようとし、どうしても無理な場合は最大の数+1、ここでは6の使用を許可します(この場合他の場所にも6を配置できるとより不自然さが消えてなお良し)。
他が小さい数字ばかりの中で大きい数字を登場させる問題を作ることはありますが、それはあくまで大きい数字をコンセプトとした場合で、その数字には問題の核として複数箇所で存在感を放ってもらいます。埋めるためだけの使い方は役不足(使い方合ってるか?)なのです。

・単発数字マスをあまり使わない
先ほどまでのこだわりほど強くはありませんが、極力数字は固めて配置したいお年頃です。下手に単発数字マスを入れると美しさを損なう場合があるからです(配置次第ではこの限りでは云々)。先ほどの大きい数字の話ではないですが、単発数字マスを使う際もそのマスが重要な役割を担うことが多いです。

以上が私が持つこだわり達でした。
こだわりもコンセプトのときと同様に強く持ちすぎると身動きがとれなくなりかねないので、皆さんも用法容量を守って正しくお使いください(むしろ最初の内は持たない方が良いかもしれません)。


3.まとめ


これまでのまとめをズバリ一言で言います!

「ぱずぷれというツールを使い、ルールや手筋の知識を基に数字を配置し、盤面の美しさを損なわないように、一定範囲内の数字変更でのみ調整を行い、ときに壁にぶつかりながらも、コンセプトを実現する」

「長ぇ」「言うほど一言か?」「まとめに最初の怪文書が入ってないぞ」
そう!これがまさにタイトルの「索子式フィルオミノの作り方」だったのでした!
あくまで個人的な作り方ですので、どこまで初心者の方の参考になるかはわかりませんが(参考にしない方が良い部分もあるかも)、フィルオミノを解くだけだった方もぜひ問題を作ってみてください。少なくともツールと手筋に関しては参考になると思います。
また私は熟練者の方がどういう作り方をされているかはよく存じませんが、熟練者の方も「こんな奴いたな」くらいの感じで頭の片隅に配置していただければ幸いです。

こんな雑記をここまで読んでいただきありがとうございました。どこかで索子作のかわいいフィルオミノちゃんを見かけた方はぜひ解いてやってください。ではこれにて









…これで終わってもよいのですが、余白がまだあるし文章だけじゃ伝わりにくいって?しょうがないなぁ



4.実践編

見出しにすると「まとめ」で終わってないことがバレてしまうじゃないですか…
というわけで隠しページ的なおまけ、実践編です!

・コンセプト
はいまずコンセプトを決めましょう。今回はフィルオミノの例題として適切な問題を作ることにします。
というわけで「サイズは少し小さめ6×6」「5つの手筋全てを使う」で決定!

・配置
発生・吸い込みを使用するのですが、数字を多く配置、あるいは盤面を分断するような配置にすると余地がなくなります。ですので壁際に少し固めて数字を配置します。入口も作りやすいです。

美しい配置だ

ところで株式会社ニコリのフィルオミノは全て「対称配置」かつサイズも特定のサイズのみとなっております。しかしニコリ社に投稿するものでないなら対称配置である必要はありませんし、サイズも気にしなくて構いません。ですので初心者の方は配置縛りなしの小さめサイズから作るのもアリだと思います。

閑話休題
私のポリシーに従いこの美しい配置を最後まで貫きます(そもそも盤面が小さいから何か足すと動きが制限され過ぎるという話も)。

・数字を入れていこう
伸びや小さい発生にはあまり気を使わなくても良さそうなので「吸い込み×弾き」を念頭に置きましょう。

?に数字を入れず伸ばしてみることも

右上の1と2を確定させ、そこに吸い込ませようとします。吸い込ませることができれば、一見合流できそうな6同士を弾かせることができます。
どうすれば6を吸い込ませられるかですが、6の下の?を図のように伸ばせればいけそうですね。

ダイナミックのダイは大味の大

こうすれば簡単にさっきの形に持っていけますが、あまり伸ばしすぎると後々他の手筋が入れにくくなるかも…?

スマートボールくらいスマート

「伸びがダメなら噴き出しを使えばいいじゃない」とマリー・アントワネットが言っていたので、先に他の手筋を消化する方針でいきましょう。

既に折り返し地点

予定通り弾かせることができました!次は左上に2を入れて更に6同士を弾かせますか。ついでに「合流」もさせちゃいましょう。まぁ合流は5つの手筋には含まれていませんが…

じぃぐぅざぁぐぅー

1の発生も登場しましたので、これにて全手筋コンプリートです!あとは唯一解にさえなれば何でもいいのですが、ここで「噴き出しは発生・吸い込みとの親和性が云々」という話を思い出します。
せっかく噴き出し使ったんだから発生か吸い込みを合わせないと勿体ない!
ということでまずは先に左下角に4を入れてしまいます。残った?を4以外の数字(1は隣に1があるので不可)にすれば、先程却下した右下の4と同じ挙動をとってくれます。

まるで人生みたいだ

そしていよいよクライマックスですが最後に?の選択を迫られます。やはりフィルオミノは人生の縮図…。
選択肢は2、5、7ですがポリシーにより7は却下。そもそも7入れたら親和性のくだり無視ですやん。
ということで2、5ですがこれは最早気分や好みの問題です。5を選べば残りの空間で発生・吸い込み双方が登場し、盤面に1〜6の数字が揃うという完璧と言っていい試合(?)運びになるのですが…

選ばれたのは2でした

2にした理由は
「発生・吸い込み両刀」<「大きい発生一本」
「1〜6全登場」<「盤面にない数字が発生で登場」
という気分だったからです。
自分は発生と吸い込みはどちらも好きですし、キリンさんとゾウさん程の優劣もないので完全に気分でした。

ふぁん

・完成
ついに問題が完成しました!やったー!
あとはソルバーにかけて唯一解を確認したり、自分で再度解いて解き味がブレてないか確認したりしましょう。自分で解く際は問題作成時の取っ掛かりとは違う場所から解き始めるのが良いと思います。

というわけでこの実践編をもちまして「索子式フィルオミノの作り方」、今度こそ本当にお開きとさせていただきます。ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました!

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