もうひとりの私。CARRY MEETING -Against.-

まえがき

拝啓、石原夏織さま。

そうです。私です。あのとき助けていただいた竹です・・・。

今日はあなたとお話ができるなんて、ほんとうにもう夢みたいで・・・。

はい、いつもお名前呼ばれ会は「(本名)」として参加しているので、竹としてあなたの前に姿を表すのはもしかすると初めてかもしれません。

もうあなたと廻り逢って10年は経とうかとしています。

きょうもあなたの健やかな笑顔、ころころと笑う姿を拝見できて大変嬉しく思います。

これは私からあなたへの届くことのないラブレターだと思ってください。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

そうです。いつもあなたに会いに、私は飛んでいきます。文字通り飛行機に乗って時速900kmで飛んでいくこともあれば、新幹線で時速300kmで超特急なこともあれば、あなたまで只管(ひたすら)に続くこの道を時速100kmで愛車で走ったこともありました。

私にとって「いつでもあなたに会える」か否かという点においては一切重要ではありません。私が私の人生を歩み、自らの信条に従って生きるためには私は遠く離れた地に生える一介の竹である必要がありました。

そうした中、

この件は本当になんというか予想外過ぎて今でも申し訳ない気持ちでいっぱいですが、お便り「私の人生」を読んでくれた夏織ちゃんが泣いて(しまった?)(くれた?)事件。私の拙い文章があなたの中のどこかで響いたのなら、それは本当に嬉しく思います。

竹はライブに行くと短いファンレターを送ったりフラワースタンドを出したりしますが、ラジオに出すお便りや事務所に送るファンレターは何故かいつも筆が進みません。こんな衆人環視のブログに駄文を綴るくらいなら、印刷して送ってみろよともうひとりの私がささやきますが、こうした駄文はひとたび送りつけて「読んで」と重すぎる愛を押し付けてしまうと途端に自分が厄介な障壁に成り下がってしまうのではないかといつも恐れてしまうからです。

そうしたわけであれ以来ラジオへのお便りも一旦間があいてしまいました。

そしてWater Dropが発売され、勢いに余って3編ものレビューを書いてしまったのは、もしかするとあなたはご存知かもしれません。

そして5thシングルAgainst.もYou & Iも無事発売されました。

noteもtweetも、べつにいいねがほしいわけでもRTがほしいわけでもなく、これはただの竹の独り言でしかありません。この想いをあなたやスタッフさんに向けて差し出すことは、一生できないかもしれません。差し出さないということは、

スタッフさんや夏織ちゃん本人が、うっかり目にしてしまわないかな。そしてうっかり最後まで読んでくれないかな。

という期待を孕んでいます。”その可能性がない”可能性があるから、私はいま、自由にあなたへの思いを書くことができています。

前置きが長くなりましたね。

今日2020年11月29日はCARRY MEETING -Against.-という、1対1のオンライントークイベントでした。20秒間、それが私に与えられた時間でした。

さて、20秒、20秒とつぶやきながら予行演習をしていましたが、そうそううまくいくものではありません。とにかく、きっと、これまでの生電話企画とかを拝見しておりましたので、こっちの意図を汲んで夏織ちゃんがリードしてくれるんじゃないかと、丸投げじゃなくて、そういう安心感の中、なるようになれと家を出ました。

画像1

冒頭にもお話した通り、きょうはこの地であなたに会おうと心に決めておりました。

いつもあなたはイベント会場、そしてコンサートホールの中で、私たちを待っていてくれています。私たちは精一杯の勇気を振り絞り、思いの丈を伝えるわけでありますが、こうしてオンラインでお話ができる機会と聞いて真っ先に頭に思い浮かんだのは、これが「私が生きている世界をあなたに知ってもらえる最初にして最後の機会」であるということでした。

あなたはいつも画面の中、ステージの上で精一杯頑張る姿を見せて、私たちを勇気づけてくれます。だから私は「石原夏織に見てもらえる竹」としてあなたの前に立っています。あなたと私の人生が交差するのはイベント・ライブ他においてありません。だから「石原夏織が知らない私」をあなたが見ることは、基本的にないのです。

だから私はリリイベでは見せることのできない私の本当の姿を(かといってなにか特別なことをするわけではありませんが)見せること、私の日常の中に生きる私を見せたいと思い、ここ、関門海峡にやってきたのでした。

木枯らしが吹き、思っていたよりも一段と寒い中、電波状況との戦い、そしてロケーションの確認にじつは2時間ほど費やしました。でもそれは些末な出来事です。少しでも気を抜くと久しぶりの対面に息ができなくなりそうでしたが、寒さのおかげで正気を保っていられました。

そして空を覆っていた雲が流れ去り、西に傾き始めた再び太陽が姿を現したとき、地上に降りたもう一つの太陽と私は20秒間だけ、言葉をかわすことを赦されました。

それは限りなくデジタルで、無機質で、1000kmの距離を隔てていて、無情にも0へと時間は零れ落ちていきました。

携帯電話を空に掲げて、背景と、それから僕が映るように背伸びしていると、ぼーぼーと耳元で風が間に割って入ろうとしていました。

「ばんぶーおじさんこんにちはー」(両手ふりふり)

理解はしていても、脳が追いつきません。

「うわぁ!夏織ちゃんだ!こんにちは!」テレテレ

えへへ、えへへと見つめ合ってしまいます。

「いつもお便りとかありがとう」

「えっ。覚えててくれたの?」

「そりゃそうだよー、泣かされたもんね~笑」

このとき、私の頭の中は真っ白?いやそんなものではありません。それはまるで嵐のようでした。あなたは嘘だと思うかもしれません。メールを書いていた日、そしてあなたがメールを読んでいる姿、その記憶が返事を返すわずか一瞬の間に、走馬灯のように追い抜いていったことを。

「・・・すごい嬉しい」

僕はうまくそう言えていましたか?
あまりの出来事に忘れていました。今日なぜ僕がこの橋を背にあなたと話そうとしているのか、話したかったのです。

「えっどれどれ?」

画面をあなたが覗き込んだ瞬間、時計が0を差したのを私は冷静に、何故か鮮明に覚えています。
僕の声は最後まで届かず、画面も切れていたかもしれません。

こうして、回線が切断された携帯電話を抱えて私はふらふらと車に戻りました。

もうひとりの私。

そのころあなたはもうすでに2人ほど、次の方とお話したあとでしょう。
私は車のエンジンを掛け、ヒーターを付け、眼鏡をダッシュボードに置き大きく息を吸い、止め、吐きました。

ああ、せっかく覚えていてくれたのになぜその話を広げなかったんだろう、ともうひとりの私…自己嫌悪が嬉々として、私を弄ぼうとやってくるのを見ていました。いつも彼らが言うそれは事実だからです。僕は僕の意志を伝えるより先に、いつもありがとうと、只一言それだけを言うためにここにいるというのに。

いつも大切なことを思い出すのは、全てが終わったあとでした。

あなたは最後の最後まで、時計が終わると分かっていても、全身で身勝手な一介の竹の話を聞こうとしてくれました。あろうことか、私の名前まで覚えていてくれました。そしてエピソードも…。

あなたはこれまでに多くの、ファンの前に立ち、避けることも、目を背けることもなく、一身にその各々の熱い思いを受け止めてきたんですね。私以上にアツい人も何百人何千人といるでしょう。それだけの「好き」のエネルギーを一身に浴び続けてなお、「幸せのパワー」…「Happy Beam」を放ち続けているあなたのそれは常人の為せる技ではありません。

本当にあなたをずっと尊敬しています。

僕らはあなたが放つその光をほんの少し浴びただけでこれほどに幸せになれるのです。あなたに近づけなくとも、言葉を交わすことができなくとも、私たちはみんなで幸せになっていけると、あなたは証明してくれました。

「20秒間のトーク会」

あなたはそう聞いて、どう思いますか?
いつものお渡し会でもいいです。あなたはいつも真摯に私たちに向き合ってくれるでしょう。笑顔で迎え、親しげに名前を呼び、真っ直ぐな眼差しで相槌をうってくれ、姿が見えなくなるまで手を降ってくれるでしょう。

私はどう思ったと思いますか?
20秒間はいつものお渡し会と同じくらいのはずだ。いつもどおりありがとうって言って終わりだな、それでいい、それだけが伝えられればいい。

もしあなたがあのお便りのお話をしてくれなければそう思ったままでした。

他のフォロワーのトークの中身を聞いていると、ファッションや髪型、ペットの話…あなたは覚えてお話をしているそうですが、僕にはそれだけの”要素”はないとすっかりいじけていました。いつもあなたと会う時は、はじめましての気持ちでおりました。そうすれば仮にあなたが何処ぞの竹を覚えていなくても傷つかないからです。何千人の中の1人。私はそれで満足していましたし、そして永遠に気づかないままだったでしょう。

この20秒間はあなたが生きてきた27年に続く20秒間だったのですね。いいことも、悪いことも、些細なことも、泣いたことも、笑ったことも。これまで出会った何万という人の全てを受け止め、あなたは今日も笑っていたのですね。少なくともあなたは、今日のこの20秒間で、私とあなたの間の思い出(それがラジオのいちコーナーであったとしても)に同時に想いを馳せ、率直にありがとう、うれしいと言葉を交わしました。あなたはずっとずっと、あの日大宮で約束したように、他の何百何千というファンとこうやって思い出を積み重ねて今日まで歩き続けてきたんですね。

そう思うと、途端に涙がやってきて、私を洗っていきました。
ああ、だからあなたが眩しいのかと。
あなたに恋い焦がれるのかと。
あなたを尊敬してやまないのかと。
結局今日も私はあなたに救われたようです。

えへへ、いつもありがとう。夏織ちゃん。

あとがき

もうひとりの私は私を落ち込ませようと、また嬉々としてやってきました。

「要は認知が嬉しいだけでしょ?」

だから私は言ってやったんですよ。

「うるせえ。僕らの夏織ちゃんだぞ。嬉しいに決まってんだろ」


来週のもう1枠が余計に緊張してきました。(了)

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