石原夏織 LIVE 2022「Starcast」-Altair-

2022年3月12日 Vega公演、立川ステージガーデンの感想はこちら


2022年3月27日 Altair 神奈川県民ホールの感想はここから

Vegaのときは整理できていた言葉がうまく紡げない、そんな状態になっている。本当にすごくて、本当に楽しいライブのあとは、自分の言葉が全部安っぽく見えて、終わったんだ、終わってしまったんだ…と繰り返すばかりになっている。ずっと夢を見ていたんじゃないかって。僕らの知っている夏織ちゃんと僕らの知らない夏織ちゃん。夏織ちゃんたちの描く天の川伝説。

Starlight

”Starlight raining over me
Like drifting through a memory
Wake up in your crystal sky
We're floating just to feel alive”

Vega公演から2週間。「大きく変わる」と宣言した夏織ちゃん。Vega、織姫に対して、Altair、彦星。二人の物語はどこで交差するのか。PA席前の正面、ステージを堪能する特等席。そんな贈り物のような座席に身を沈めた僕は開演前BGMに耳を澄ませていた。

背景の布の流れる方向、ステージの台の高さ、舞台装置はVegaと対称になっていて、今日は「彦星の方から見た」世界なんだなと察する。今作は舞台装置やセットリストがVegaとAltairで対になっていて「対称」という言葉をよく使った。でも対称っていうのは正しくなくて、川を挟んだあちら側とこちら側というふうに捉えて欲しい。


ColdplayのYellow
Raphael Lake & Thomas CollinsのA Night Like This
5 Seconds Of SummerのYoungblood
Bruno MarsのTalking To The Moon
Sabrina CarpenterのWe'll Be The Stars

開演5分前のアナウンスは、開演の最終Go判断が降りた合図。ふっとそれまで流れていた音楽はフェードアウトして、AltairはJai WolfのStarlightが流れ始める。ここもテイラー・スウィフトだったVegaと変わったところだ。プラネタリウムを観ているような浮遊感のある幻想的なサウンド。「Starcast -Altair-」ピンと張った声に姿勢を正す。

雨音、ピアノアレンジのStarcast。

「雨が星になって降り注いだら 願いごとをしよう」

夏織ちゃんのモノローグが優しく会場を包む。星空の中、一際に輝く星に焦点が合うと、その星は空から降りてくる。

「ドクン・・・!ドクン・・・!」

心電図のようなVJ。そして歌い出し―――

Diorama-Drama

”It is true ? Just a fantasy…”

スクリーンに大きく表示される歌詞。イントロを歌い切るとスクリーンの裏から逆光に照らされた夏織ちゃんのシルエットが現れる。足元にはスモークが焚かれ、格子状のスクリーンは上昇、逆光、高らかに吹き鳴らすブラスサウンドの向こうから歩いてくる夏織ちゃん。それは最強な彦星の登場だった…!(なにかのMV?TVCM?めっちゃかっこいい…!!)

Against.

"違う色した流星が 真夜中で交差する
たどり着きたい未来は 同じなのに"

最強の夏織ちゃんはダンサーを引き連れて、会場は赤と青に染まる。

ここでVegaに引き続きダンサー紹介パート。そしてペンライトで一体感を高めるコーナー。Vegaより更にスピードアップ。「ほい!ほい!ほい!ほい!」ペンライトの動きが揃っている客席は壮観だった。そしてここのBGM、コード進行?がTEMPESTのサビっぽくてで一人にやにや。TEMPESTの導入かな?と思いきや・・・

Singularity Point

真っ赤な円。地上で望む落陽か、宇宙空間で接近する惑星か。特殊イントロとともにそしてAltair公演で追加された特殊効果…3台のレーザーに火が入る。スクリーンに次々と現れる円は輪郭を変え、形を変える。そしてムービングライトやレーザーも円を描く。上がりきった会場のボルテージは過去に例をみない加速度で一つになっていく。

常にかっこいい顔でキレッキレのダンスを踊る夏織ちゃん。バチィッっと音がするようにキメる、合間合間に押さえきれないように笑みが溢れる姿がとても、不敵。そう、無敵。キミは今、無敵の輝きを誇っている。

MC

肩で息をしながら笑う夏織ちゃんはかっこよくタイトルコール!・・・とはいかずに大事なところを抜かしてしまう。「中華街行った人~?」と勢いよく聞くも客席はまばら笑。「えー!なんでー!ああいうのってだいたいみんな真似するでしょ!?」って拗ねる君に温かい笑顔が満ちていく。

わざと触れた。

ここはVegaとAltairの共通パート。無事に織姫と彦星は出会えたんだと思っていたんだけどちょっと解釈違いらしい?笑。ダンサーNAOさん×moe☆moeさんは夏織ちゃんの後ろでにこやかに笑い、僕らは身体を揺らし、ステップを踏み、笑顔で手を振っている。そんな幸せな時間。

Plastic Smile

Sakiさんと離れたところからキャッチボールをするようにダンスのやり取りが行われている。Sakiさんと夏織ちゃんのダンス、それは自分自身の内面と外面、正直な自分と意地悪な自分、Plastic Smile=作り笑いをする自分と不安な自分が相容れることができていないように見えた。

"愛しさにざわめく心のゆらめき…"

2番すぎ、間奏を経てふたりの自分は近づいていく。
ラスサビで二人は手を取り合い、今度は組み合って踊っていく。その様子に察する。自分自身と折り合いがついたんだ、と感じた。

幕間映像。モノローグ

雨の降る街、街明かり、人と人の笑顔が輝く街を天の川に見立てて、傘を忘れた僕は迎えにきてくれたずぶ濡れのキミを見て…。

「バカだね」って笑った。

舞台中央にパーカッション、左手からグランドピアノ、右手からアコースティックギター、バンド編成が姿を表す。グランドピアノ!?スクリーンのモノローグに集中したいのに、目が離せない。そんなこんなしているうちに舞台右手、一番高い台の上に真っ白なドレスを纏った夏織ちゃんが現れた…。まるで雨筋のようなキラキラとした光の筋を背に。

キミしきる

微動だにせず、あるときには泣き笑いのように、あるときには苦しそうにも見える表情で夏織ちゃんは歌う。真っ白なドレスを着て。グランドピアノの柔らかなアタック、感情的な抑揚を持ったギターを纏って夜空に伸びていく夏織ちゃんの歌声は、僕の心に流星の尾のように余韻を残していった。握りしめた手に爪痕が残り、泣いていたことに気づいたのは拍手の音を聴いたときだった。

雨模様リグレット

階段をゆっくりと降りてくる。この曲の悔しさにじませ明るく振る舞うような部分はもっとドラマティックに、伸びやかな歌声はもっと感情的に、抑えた部分は限りなく静かに。夏織ちゃんは更に鮮やかな表現力を纏って、アコースティックで特別な雨模様リグレットを

【昼】星間飛行

昼公演で披露された星間飛行。軽快なパーカッション、バックバンド、夏織ちゃんのハミング、「キラッ」と相好を崩すキュートな表情。この上なく上質で、贅沢なひととき。

【夜】君の知らない物語

4公演目、4曲目。最後のカヴァー曲は?誰もが固唾をのむ。知らない人はいないだろうイントロのピアノ

「今夜星を見に行こう」

それまで天空にいたスクリーンは夏織ちゃんたちの真後ろに降り立つ!宇宙、銀河、星が降るような夜空、星と星の間を飛んでいくようなVJの前で夏織ちゃんは歌う。そしてパーカッションを叩くシルエット…!ピアノ・ソロ。4公演目にして初めて披露される演出があるなんて。僕らの知らない物語があるなんて。かっこよすぎる!ズルいにも程がある!その歌うような、踊るような、語りかけてくるようなシルエット、スポットライト、VJ映像は組み合わさって、ステージに引力を生み出していく。呼吸を止めて天を仰ぐ。何度目ともしれない涙がこぼれないように。

”ああそうか 好きになるって こういう事なんだね”

【昼】Taste of Marmalade

星間飛行を歌い上げた夏織ちゃんは「いかがでしたか?」とはにかむ。次の曲はアレンジが大変だったと思うんだけど、と期待を煽った。花をあしらったマイクスタンドをとてとてと取り出すと、そこにはこれまでの妖艶さ、セクシーさをぐっと押さえて、ジャジーでシックなショウが幕を開けた。シック、そう、今日のは大人の夏織なのだ。

【夜】夜とワンダーランド

続く夜とワンダーランドは疾走感のあるエレキギターのサウンドが醍醐味の曲。めちゃくちゃに痺れるアコースティックギター。こんなスピードが、揺れが出せるんだ・・・。

キミに空とクローバー

うたた寝から目覚めたみたいに、軽快なサウンドが吹き抜ける。ここまでのアコースティックパートで見せたシックな表情がふわっと緩む。コンガの軽快なリズム。良質なミュージック。自然と身体が揺れる。間奏でバンドメンバー紹介、ジャーン…タッタッタッタ…っていうクールダウンが気持ちが良い。それぞれにありがとう。ブラボー!心のなかで叫んでいた。

Page Flip

物語を語るパートを終えて、ライブ終盤へ向けて夏織ちゃんの声で、夏織ちゃんを描くような曲が続く。

”束ねられないほどの思い出 最初の頃はもう懐かしい”

過去のライブ映像がぱらぱらとページを捲るようにスクリーンに流れていく。振り付けは自由度高めに会場を見回し手を振りながら歌う夏織ちゃんは、サビになるとこれまでの楽曲の振り付けが組み合わさったスペシャルな振り付け。

虹のソルフェージュ

背景のカーテンが七色にそまり、会場のペンライトも思い思いの色に。

”傘もささずはしゃいだ誰かが羨ましかった”

歌いながら感極まった夏織ちゃんは、涙を拭いながら、涙がこぼれないように空を仰ぎ両腕で目を抑える。「今日は泣かないつもりだったのに」って言葉が漏れてくるその姿が切なくて、力強くて、かっこよくて、素敵だった。あんなにかっこいい涙を僕は見たことがない。MCで「(何度も歌った歌でも)聞く順番とかタイミングでぐっと来ちゃうことがあるんだね」と恥ずかしそうに笑った。歌詞を歌うのではなく、想いを伝えてくれる。客席を見るのではなく、瞳の奥の感情を見てくれる。思い出を大事にしまい込むのではなくて、いつもポケットに忍ばせてくれている。そんな夏織ちゃんが好きなみんなだから、今日もここに集まっている。

Starcast

左右で高さの違う階段にあしらわれた草の装飾、そしてその奥に隠されていた電球の装飾はまさにStarcastのMVそのものだ。星が背景に瞬いていて、ダンサーズは夏織ちゃんと色違いの衣装を身に着けて踊る。ステージチームは大自然の中で撮影されたあのMVを再現する。この曲を種に生み出されたLIVE Starcast。特別な演出、特別な衣装。そしていつもと違ってハンドマイクでメッセージを紡いでいく夏織ちゃん。そんな夏織ちゃんの代わりにダンスを言語に僕らに訴えかけてくるダンサーズが夏織ちゃんの奥に見える。MVのカメラワークと同じ、あるいはそれを超えるエモーショナルな表現を、会場にいる数千人が、数千の角度、数千の目によって次々と体感していく。

Ray Rule

二度と離さないこの手を握り返してくれたら…

序盤のモノローグで「いつか必ず迎えに行くよ」と語ったあとにこの歌詞にはいつもと少し違った力強さを感じた。

"明日がまた空覆っても 私は声追ってく…"

もし神様がまた二人を分かつときがあっても、

”私一人で戦う 何を失っても”

序盤3曲の彦星ゾーンのエピローグとしてRay Ruleはふさわしい世界を持っていた。頭上を越えていくオーバードライブ気味なレーザーは空間を”揺れずに、ブレずに、貫いて”いる。僕はこのパートをいつも「光と音の洪水」と言っているが、今日は包まれ感が強くて、力強く手を握られているような、守られているような、優しさ強さを感じるものだった。


このライブはいま伝説になろうとしている・・・


Cherish

ダンサーズも登場して客席は跳ぶ人、踊る人、ぷく顔の夏織ちゃんに見とれて固まる人、そんな客席をみて夏織ちゃんと夏織ダンサーズの楽しそうに歌い踊る姿。それはもう色とりどりのスーパーボールを入れた箱をひっくり返したような大騒ぎだ。

た、楽しい!!

【昼】半透明の世界で

"夢みたいな夢の続きを…"

僕が大好きな歌詞の一節。夢みたいなライブはあと1公演を残すのみ。雨が降り、虹が出て、晴れた。それだけなのに、なんでこんなに清々しいんだろう。

【夜】You & I

Vegaラストの曲と同じYou & I。でもこのときばかりは何かが違った。イントロの所謂飛びポ(…ジャンプするところ)で全員が一斉に跳び上がると、クラップ、ペンライト、フリコピ。誰ひとりとして声を発しているわけではない。それなのに、声が聞こえる。それは無声の声援で、視線の握手で、空間のハグで、クラップのハイタッチだ。あの場にいた全員が心と心で言葉を交わし、行動で応じ、通い合わせた瞬間を感じ、同じ音、同じ声を聴いた。


肩で息をする君と僕。目が合うと上ずった声で

「最後なのでもう1曲!Sunny You!!」

「・・・!!!!」

Sunny You

みんな笑っている、手を振っている。泣いてる人もいる。ギュッと手を握って見つめてる人がいる。さっきまでずっと地蔵していた人が、跳んでいる。思い思いに楽しんでいる。数値化できない現象が起こっている。

”はじめからそう 出会いは決まってた Sunny Record
ねえいつか 同じ道 君と歩きたいんだ”

ねえ、夏織ちゃんが言う同じ道歩くってこういうことなんだよね?
それならさ、歩けてるよね、きっと。僕らは、今!


あとがき

会場BGMからシームレスに開演する点もそうだし、曲と曲の間、シーンとシーンの間は次々に夢を見るように切り替わっていった。LEDスクリーンや布など吊物をどんどん動かし、グランドピアノを含むバンドセットを運び込んだり、モノローグを使ったりして各ゾーンの印象を大きく変えていた。透けるLEDスクリーンを緞帳代わりに夏織ちゃんを登場させたり、吊物に当てる照明の色の鮮やかさ、パワフルなレーザー、Diorama-DramaやRayRuleのVJを新調したり、ダンサーを立体的・遠近的に使ったり、序盤にダンスパートを持ってきたり。今までの「LIVE 石原夏織」に見られない工夫がたくさんあった。そして、いい音だった。どの曲も1位だ。どの物語も超大作だ。それは素敵なステージだった。


2022年3月は夏織ちゃんのソロアーティストデビューからちょうど3年の節目。その節目に行われたLIVE Starcastは、1st LIVE Sunny Spot Storyの1曲めのSunny Youで幕を閉じた。

今日、ステージの上の夏織ちゃんにはこの光景はどういうふうに映ったのだろう。このステージを作り上げた人達の目には、今日のこの光景はどういうふうに映ったのだろう。


声が出せないライブで、声が聞こえる。想いが通じ合う。

それは同じ強さで 同じ想いで 願っていたから。



…だったら嬉しいな。


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