うさぎが月に帰った冬

これは、高校3年生の冬、飼っていたうさぎのバンビが亡くなった日のことを綴ったものです。
誰かの目に止まって、家族やペットのことを少しでも考えてくれたら嬉しいです。


家に帰ったらお父さんが、バンビ頑張ったよ。って声を震わせながら言うものだから、なんとなく想像がついて、でも嘘としか思えなくて、え?嘘でしょ?って言った。こんなドラマみたいな感じなんだ、と頭の中は冷静だった。
部屋に入るとバンビが眠ったまま動かなくて、もう開きっぱなしの目がふやけてて、でも信じられなくてずっとずっとそばにいて撫でていた。辛くなって床が寒くて、布団に入るけど涙しか出ないし布団から顔を出すとバンビはまだ眠ってる。悲しくなってまたそばで撫でる。
わたしの体温で温かくなったバンビは今にも起き上がってぶるぶるって震えてあくびをして、跳ねてどっかに行くんじゃないかって思うくらいだった。でも少し離れたらまた冷たくなって、その現実にひたすら泣くことしかできなかった。声を出して泣いて、でも家族に聞かれるのは嫌だから誰かが階段を上がる音がしたらバンビから離れてティッシュをもって布団に潜って、スマホを見てるふりをした。
誰かが部屋を開ける音がして、お母さんがバンビを撫でて、お父さんも撫でて、鼻を啜りながら撫でて、部屋を出ていく。その間も声を殺して泣いてた。部屋を出る音が聞こえたら、またバンビの横に行って声を出して泣いた。
そんなことを繰り返していて、永遠に感じたけどそれでも時間は過ぎて行った。
お母さんがバンビを火葬するか、どうしたいか私に聞いていたけど、それにすぐに答えられるほどその時のわたしは強くなかった。
バンビと離れるなんて死んでも嫌だったし、このままバンビが腐っていくのを見るのも絶対嫌だった。結局お父さんとお母さんが火葬することを決めて、次の日にはバンビを連れて火葬場に行った。
その道中ダンボールの中で毛布に包まれて眠るバンビを抱く自分はどんな想いだったのだろう。
気を緩めると涙がでてしまうから、家族に涙を見せないように無心で流れる外の風景を眺めていた。
バンビが焼かれてしまう前、お母さんとお父さんはバンビにありがとう、と声をかけていた。あの弟ですら少し泣いていた。
わたしはバンビになんの声もかけられなかった。ただ泣くことしかできなかった。
もう家族の前だとか、そんなことは関係なかった。絶え間なく涙が頬を濡らしていた。
骨になったバンビを拾って、火葬場の人に「これが喉仏です」なんて言われたけど、だから何だ、バンビはもう骨になってしまった、だから何なんだ、もうここにはいないのに、とかそんなことしか考えられなかった。
小さな白い瓶に収まってしまったバンビをまただき抱えて、車で家まで帰った。渇いてしまったと思っていた涙はもう制御すらできなくて勝手に流れていた。
バンビと生活していた自分の部屋に戻って、飾ってある頂いたお花を横目に散らかったテーブルにバンビを置いた。すぐ布団に入ってまた泣いた。
毎日家を出る時バンビに行ってきますを言ってたのに、絶対撫でてから出かけてたのに、その日だけ急いでいてそのどちらもできなかったことを本当に本当にほんとうに後悔してる。
あっためてあげれなくてごめんね。ずっと大好きだよ。愛してる。

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