見出し画像

チバユウスケに別れを告げに行った俺はまだ生きる

行きの電車でチバユウスケのプレイリストを聴いていた。マスクの中でこっそり「あんたのどれいのままでいい」と口ずさむ。ミッシェルの曲を聴いていると、あの頃と変わらぬロックンロールがそこにあって、チバがもうこの世界にいないという実感がいまだに湧かなかった。

ミッシェルはとうに解散してしまったけど、バースデイはまだ続いているような気がした。自分が最近ライブに行っていないだけで、バースデイは今もどこかでツアーをやっているような気がした。また久しぶりにバースデイのライブに行きたいなとバカみたいに思った。

お台場に着いた頃、イヤホンからバースデイの「ALRIGHT」が流れてきた。早くも感傷的な気分になりながら、Zepp Tokyoでミッシェルのライブ当日券に並んで見たなぁ……バースデイとクロマニヨンズと浅井健一が出演するイベント(憧れの3大ロックスターだったチバとヒロトとベンジー!)も見たなぁ……と思い出に浸るも、ここにはもうZepp Tokyoもヴィーナスフォートも観覧車もない。

ダイバーシティ東京プラザ周辺は、観光客やインバウンド客で賑わっていた。そんな中、神妙な面持ちでバースデイのロゴの入った服やモッズスーツを着ている人とすれ違うと、何とも言えない切なさと同士感があった。

ユニコーンガンダムがそびえ立つお台場には、美しい青空が広がっていた。

バースデイの「涙がこぼれそう」を聴きながらゆらゆらと歩いていくと、Zepp DiverCityの前には大勢の人が集まっていた。

音楽の再生を止めて驚く。これだけの人がいるのに辺りが静まり返っている。ライブ前のようなざわめき感がほとんどない。神妙な雰囲気に包まれたチバユウスケへの献花の会。その空気を感じたくて、しばらく静寂を眺めていた。

黒のスーツといった畏まった格好の人は意外に少ない。黒い服装の人が多いが、普通に色味のあるカジュアルな格好をしている人もいる。服装の指定はないとは言え、自分はどんな格好をして行けばいいのか悩みに悩んだ。

モッズスーツも革ジャンも持っていない。白シャツにするか、黒シャツにするか、ミッシェルのTシャツにするか。いやミッシェルのTシャツってもろドクロなんだけど、そういう場に着て行っていいものなのか。ミッシェルのライブではそれが正装だったからいいんじゃないか。やはり白シャツの方がスマートに見えるんじゃないか。などとあれこれ考えた末に、黒の上着+白シャツ+ミッシェルのTシャツを中に忍ばせて着て行った。自分と同じミッシェルのラストライブのTシャツや、相当昔のミッシェルのTシャツを着ている人を見かけて妙に嬉しかった。

入場の待機場所にしばらく並ぶも、まだ明るい時間帯だったので思いのほか暖かかった。明日明後日は関東でも雪が降るかもしれないという。天気のいい日で良かった。上空にトンビのような鳥が旋回して飛んでいて、あれはチバとアベかな…なんて思ったりした。

16時台で入場。献花を終えた人とすれ違い、泣き濡れた様子を見て何とも言えず緊張感が増していく。電子チケットのチェック後、1本ずつ献花を渡され、自分が受け取ったのは可愛らしいオレンジ色のガーベラだった。

会場内にはバースデイの入場SEだったThe Crestsの「Sixteen Candles」が流れていて、物悲しさと高揚感が交錯する。通路には存在感を放ったチバの写真が展示してあり、ああやっぱりすげえカッコいいな……と1枚1枚噛み締めるように見ながら進んでいく。

フロアに入ると、バースデイの曲がライブ並みの爆音で流れていて圧倒される。献花台がリアルに目に飛び込んできて、ロックンロールが胸を打つように鳴り響いている。ステージ上には点々と小さな照明が浮かび、まるで星空のように光っていた。「星くずのひとつの気分はこんな感じ」「聞こえるだろう 星のメロディー」チバの歌がそこら中に漂っている気がした。

順路に沿って進んでいくと、壁際に展示されていた写真がちょうど目に入り、一気に心を揺さぶられる。ここに来て、チバの笑顔の写真ばかり!!!!!!!はにかんだり、決め顔をしたり、なんて素敵なんだ!なんてカッコいいんだ!大好きだ!くそう!泣きそうだ!この順番は泣かせる……

(展示の中で印象的だった2枚)
▽新保勇樹 - Instagram 2016.1.24

▽The Birthday - Facebook 2017.11.26

何とか気持ちを落ち着かせながら、ステージ前の献花台へと進む。ライブ以外でフロアにいるのは不思議な感覚だ。横一列に並んで献花を待っている。空いている端の方もどうぞとスタッフの方が促していて少し迷い、余裕があるのを見て真ん中に並ばせてもらう。

チバの写真が掲げられたど真ん中。間近に見ると迫力があり、現実が迫ってくるようだった。前で献花している人が肩を震わせて泣いていた。どうにも気持ちの整理がつかないまま、ついに自分の番に。献花台へ、オレンジ色のガーベラをそっと手向けて、手を合わせる。

心の中で〈チバ、ありがとう。ずっとずっと好きでした。高校の頃からずっと……〉と無我夢中で語りかけていると、10代からの思い出が走馬灯のようにグワァァァァーーーーと流れてきて、感情がドドドドドドーーーーと渦のように押し寄せてきて、どうしようもなく涙がこぼれてしまった。この場に来たらもうだめだ。純粋なものに飲み込まれる。言葉にならない涙がこぼれる。悲しくて、悔しくて、愛おしい涙が。

時間は限られている。チバに伝えたいことはなんだ。そうだ、〈安らかに眠ってください…〉祭壇を見上げると、真っ直ぐ前を見据えたチバの写真が凛として立っていた。

(公式インスタでの会場配信より)

再び手を合わせ、チバに別れを告げる。そして最後に空っぽになった心の中から出てきたのは、思いがけない言葉だった。

〈さようなら…………………
 …………………俺は、まだ、生きる!〉

えええ、何を言っているんだ自分は。3日前くらいに「人生終わりにしたい。リセットしたい。もう無理だ。生きていても意味がない。生きていくのがしんどい」と飽きるほど絶望していたのに、まさかそんな言葉が出てくるなんて。チバを前にして何か誓いたかったのか、自らに言い聞かせたかったのか、人生まだ諦めていなかったのか。自分でもよくわからないけど、「まだ生きる」とチバに誓ってしまった。 

献花を終え、出口の方へと誘導される。しかしフロアの後方で名残惜しむように佇んでいる人も多く、区分の制限時間まではフロア内にいても構わない様子だった。後方のスペースへと移動し、遠巻きに祭壇を眺め、チバの曲を全身で感じた。

近年のバースデイのアルバムやソロ曲はあまり熱心に聴いていなかったので、耳慣れない曲も多かった。おそらくまだ聴いていないチバの曲がたくさんある。自分にとってチバの新曲がたくさんある。これは幸せなことなのか、後ろめたいことなのか。

チバの曲に包まれながら、あれこれ考えていた。チバが天国に行ったとして、果たしてあの世で会えるのだろうか。自分みたいな出来損ないは、必死になって徳を積まないと天国には行けないだろう。今から頑張れば間に合うのだろうか。あの世でも階級があるとしたら、上下があるとしたらうんざりだ。あの世もこの世もしんどいならもうどこへ行けばいいのか。やはり今を頑張るしかないのか。

〈今から頑張ればまだ間に合いますか…?〉
祭壇のステージの写真に向かって、チバにそう問いかけてみた。

〈知らねえよ。てめえで考えて、てめえで頑張れ。俺に悩み相談するなよ。〉
自分の中のチバはそんなに甘くない。だけど冷たくあしらう感じでもなく、困ったように笑って優しくそう言った気がした。

故人との対話はつまり自己との対話だ。献花会やお別れ会というものは、生きている人が心の整理をつけるために行われるのだろう。別れたくない認めたくない行きたくないと最初は思った献花会だったけど、本当に行って良かった。

チバユウスケは最高にカッコいいヤツで、圧倒的なロックスターで、愛情深いパンクスで、とんでもない多くの人から愛されていた。それを再確認することができた。

終了時間が来て、帰りがたくもフロアの外へ。出口のところにもチバの写真があり、その横にはチバが描いたと思われる絵が並んでいた。

可愛らしいフォルムの生き物が肩を組んでいて、片方の頭上には天使のような輪が浮かんでいる。なんて素敵なんだろう。沈んでいた心が安らぐ。絶望ばかりの心が救われる。チバの描く絵が大好きだ。

どこかで見たような…と思って後々調べたら、バースデイのなかよしTシャツの絵(原画?)だったらしい。Tシャツは現在も公式のオンラインショップで売っていた。

(なかよしTシャツ 表裏)

天使か悪魔か、妖精かゴーストか、謎の生き物がものすごく愛くるしい。その正面と裏面の絵がそれぞれに飾ってあり、そこには様々な思いが込められているように感じてただただ胸がいっぱいになった。

「誰かが泣いてたら 抱きしめよう それだけでいい 誰かが笑ってたら 肩を組もう それだけでいい」と歌う、バースデイの「誰かが」を思い出した。

最後にメモリアルフォトを受け取り、建物から出ると辺りはすでに暗くなっていた。

これからの時間帯の人が続々と集まっている。それをしばらくぼんやりと眺めて、冷え込んでいく寒さに震えて、ふらふらとその場をあとにした。

ユニコーンガンダムが怪しく光っていた。今度ここに来る時はやっぱりライブを見に来たいなと思った。

ダイバーシティ内のタワレコに寄ってみると、バースデイの曲がずっと流れていて、チバユウスケのコーナーは見事に空っぽになっていた。みんな大好きかよ!そうだ、ミッシェルやバースデイやROSSOやチバの曲を聴こう。

ミッシェルの「ダニー・ゴー」を聴きながら、何かがまだ続いていくような気配と共に帰路についた。公式インスタでの会場配信を覗くと、「武蔵野エレジー」が流れていて胸にグッとくる。画面の向こうの献花台、沢山のガーベラ、語りかけてくるようなチバの写真、数時間前にはそこにいたなんて。不思議な光景だった。

祭壇には16本のキャンドル、マリア像、愛用のグレッチギター、アンプ、マイクなどが飾られていた…というのはニュース記事で知った。あの場ではチバの姿しか目に入らなかった。

メモリアルフォトを開けると、祭壇にも掲げられていたチバの写真が入っていた。写真家・新保勇樹さんが撮影した写真はどれも本当に素晴らしい。

▽The Birthday - Instagram 2019.10.10

メモリアルフォトをチバの本の隣に飾り、バースデイのなかよしTシャツをオンラインショップで注文した。

ミッシェルのTシャツを着て誰かと語り合い、バースデイのなかよしTシャツを着てライブに行きたいと思った。

俺は、まだ、生きる。
チバの前でそう誓ったから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?