怯える水曜日

　必死にミルクをかき集め、無事に逆先夏目くんのバレンタイン称号を手に入れた。ミントといちごは良いからミルクをくれ……と30分おきに画面を更新した甲斐があったというもの。あんさんぶるスターズくん、基本的にプロデューサーの私生活を考えてない破茶滅茶スケジュールを組んでくるので、今回はまだ優しい方かも知れない。
　
閑話休題
　
　水曜日だった。1週間の中で最も忙しい曜日であるため、今日も午前は残業をした。とはいえ特別何か作業をする予定があったわけではないので、お昼ご飯を食べた後割とすぐに昼寝をしていた。昼寝することおよそ1時間半、休憩室の扉をノックする音で目が覚めた。
　基本午後から出勤してくるスタッフはドアのノックと共に中に入ってくるので、これ自体は珍しいことではない。私たちはその音で静かに目覚め、むくりと体を起こしていた。が、誰かが入ってくる様子がない。顔を見合わせる3人、最初に私が聞き間違いだと決め込みもう一度横になった。普段起きる時間よりも10分ほど早かったのだ。まだ寝れる、まだやれる。休憩室での睡眠は欲に忠実でなんぼなのだ。
　私に続き二人の後輩も再び体を横にしたところで、もう一度扉がノックされた。相変わらず扉が開かれる様子はない。

私「なんで入ってこんのやろか」
後輩「風ですか？」
後輩「人やったら声かけてくれますもんね……？」

　などと言いつつ、一番扉に近かった後輩が恐る恐る扉を開けて確認してくれた。そこには何故か、両手にミスタードーナツの袋を抱えた先生が立っていた。

なんで？？？？

　よくは分からないが、どうやら昨日居残りで仕事をした人には昨日同じものを買って渡したので、今日はその時いなかった人たちに渡しに来たという話だった。でも聞きたいのはそういうことではない。私は今の職場に就職してもう結構な年数になる。企業とかで言うなら中堅くらいだと思うが、今まで先生がそんなことをしてきたことはなかったのだ。いや、正確には一度従業員が足りなすぎてスタッフが疲労困憊になっていた時に一度、寸志という形で臨時収入を貰ったことはあった。つまり、今回もそういうことなのだろうか？
　恐る恐る中を見ると、そこにはゴディバとコラボしているあのハートのドーナツが2種類入っていた。どういうことだ？これは、この350円くらいするミスド二つ分で私たちは何をさせられるんだ……？先生の真意が読めず、休憩室に居残りしていた3人は怯えた。そんなに怯えられたんじゃ先生も買ってき損だろうという話だが、日頃の行いがそういう感じなので仕方がないだろう。

私「えっ何？どういうこと？これの見返りに何をやらされるん？」
後輩「レセが電子になって大変やからとかですか？」
私「でももう今月の分終わったで」
後輩「嫌いな患者さんの手術勝手に入れたからちゃいますか？」
私「これやるから黙って居残りしろってこと？」
先輩（話してる間に出勤してきた）「でももっと嫌な患者さんなんかなんぼでもおるで」
私「確かに」

　様々な憶測が飛び交う中、取り敢えず貰えるものはもらうか……という話になり午後の勤務に臨んだ。その日の帰り、

同期「そういえば先生に聞いたんよ、あのドーナツなんですか？って」
私「聞いたんや」
同期「別になんもないで。美味しそうなんテレビでしとったから……言うてたわ」
全員「絶対嘘やん！！！！」

　うーん、この信用のなさ、おもろい。
実際何を見返りに求められるのか分からないが、正直700円程度では何もできないのであった。

おしまい