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Eno.139火焔魔王エーヴェルト 日記まとめ(シマナガサレ)


【『ムアン』との出会い】

この孤島に一人の男と出会った。
その名もムアン。
と言っても実は女だった方の(我が愛して止まない)ムアンではない。
「エーヴェ教教祖」のムアンだった。
以前は詳しく聞けなかったが、どうやら「もう一つの世界にいる」方だという。
うーむ。平行世界というものだろうか。

「安心してください、貴方の事は私がお守りしますので」と言っていたので
確実にムアンだ…。ムアンであることに違いない。
いやしかしどうして宗教を立てる必要があったのだろうか。
ファンクラブではいけなかったのか?

謎は尽きないだろうが、
それで自分の世界の悩みが解決するなんてこともないし、ましてや脱出できる回答を見出せるわけでもない。

今はこのムアンと協力し、この島から脱出する必要がある。
そのムアンに、未来の妃であるムアンの作った「桃色の桜型クッキー」を渡したのだが…嫉妬していないと良いな。

代わりに貸してもらったこの斧を使って伐採でもしているか。




――"ムアン"、心配するな。オレは必ず帰ってくるからな。待っていろよ!


【『オレ』という魔族】

材料を集めて作り上げた。火。叡智の火…なのか?
それを見て過去を思い出した。

最近自分のこと「オレ」と呼ぶようになった。
何故だか知らないが…魔王になる前はそう言っていた。
それはよく覚えていた。
ここにいるムアンを前にしてそう言っているのかもしれない。
未来の嫁ムアンには一度も言ったことないはずだけどな。

スラム街出身であることは四天王以外には言っていない。
寂れて色々奪われて、また奪っていく街に、家族4人でオレは住んでいた。
両親はいたことはハッキリしているけど、思い出そうとすると真っ黒になるだけだ。
けれど兄弟のことは覚えている。

弟のエルジェーベト。エルジェだ。
エルジェは同族だったが、ある日を境に吸血鬼となった。
アイツの話では、どうやら絶滅の危機に晒されていた吸血鬼から吸血鬼にならないかとお願いされて、そのままなったらしい。
お人よしすぎないか?まあ自分も言えたもんではないがな。

弟が吸血鬼になったからと言って不仲じゃない。
互いの『世界』が違うだけで出会った時は、釣りに行ったり、どっかに食べに行ったりしている。と言っても何をするにもだいたい曇りの日か、夜だ。あっちはそういう種族になってしまったからな。
魚や肉の血を吸っているのはびっくりするが、魔族や人間の血は奪わないらしい。
ただ衝動に駆られて吸ってしまったことはあるようだな。

エルジェを思い出していたら肉が食いたくなってきたな。
寿司は到底無理だろう。稲なんてないだろうしな…。
と書いたら眠くなってきた。ひとまず寝るか…。



【夢と幻影】
夢を見た。
そいつは向こうから歩いて現れた。
黒いシルクハットをかぶり、長くて黒い上着黒のロングコートを羽織っていた気がする。


どこかで見たことあるような、ないような。
そいつはいきなりこう言ってきた。

『今いるムアンは貴方の未来の嫁ではない。
エーヴェルト教という宗教を作り上げたもう一人の、もう一つの世界のムアン。
そしてそれは…貴方が封印され続けていたら、貴方のムアンもそうなっていた可能性があります』

と空中に座りながら。

そうか。オレがもし聖剣の中にいたらムアンは寂しくなってオレを崇める場所を作るのだ。
それはそうだろうな。奴は告白した時に会った時から好きだと言ってくれたから。

ん?会った時?それはスラム街で出会った時か?それとも城か?
後で聞いてみればよいか。

『貴方は両親の記憶がないそうですね。
貴方の世界では何かを職に就けば忘れる。そういうことになっている。
それはほんの一部の記憶にすぎません。
そしてそれをなさっているのが――私、ではありませんが、
神に近い存在がそうしているのです。そうしないと世界が成り立たないから。
決してそれを倒そうとしてはなりません。『彼または彼女』は柱として存在しているのですから』

ぺらぺら喋るなこいつ。
要するに記憶を意図的に消してるみたいなものか。
意図的か適当かは知らんが、そういう存在がいるのか。
ムアンと結婚して記憶が消えるのか?いやそうはならないだろう。

『結婚は大丈夫だそうですよ。…さて私がいられるのもここまでですね。
では失礼します…』
黒帽子はそう言って消えていった。

いったい何者なんだアイツは?

【そろそろ時間だろうな】

また夢を見ていた。
一緒に弟と暮らしていた夢。
ムアンとスラム街で出会った夢。
寿司と初めて出会った夢。

夢というよりどれも……過去の出来事だった。

やっぱり両親の顔は覚えていない。いたことだけは覚えている。
今度実家に帰ろうか。帰って思い出の品が見つかるだろうか。
ムアンたちと一緒に実家へ行く。
もう実家の跡形もないかもしれない。
オレが育ったスラム街は…南東ではなく、南西だった。
入るのは許されるだろうか。まああの狼魔王だから何とかなりそうだな。

それと弟と暮らした家もある。あちらはどうだろう。たまに弟が帰っているらしいが。
さて船の汽笛だ。何年ぶりだろうか。
オレはここを出て、もう一人のムアンと共に帰る。
そしてまたムアンに――未来の嫁に会うのだ。

【良い終わりかもしれない】

火の力も戻った。
あのシルクハット…謎だがいつか会えるだろう。
ムアン…今会いに行くぞ!
…いやこっちのムアンではなく!ハリセン女王のムアンだ!
会ったらハグして…いやそれはダメだ。
あいつはスキンシップとやらを嫌がるからな…。


なんでこのムアンは嫌がらないのだ?

まあ良いか。とにかく我は城へ向かう!
さらばだ、沈む島よ。いつか会ったら…まあその時はまた島から出るだけだ。

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