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依頼小説(一次創作 ダニエルとテオ)

「次の依頼の場所に行くには、村そして山を越えて行かねばならないのですね。全く面倒ですよ…」
ふう、とため息をつくのは、黒スーツを着たチャコールグレーの髪色で、金色の目をした高身長の青年であった。
それに対して、隣の黒髪で赤い目をした青年が呆れた顔をした。
「めんどくさいって言いながらも、何で付いて来たんですか?」
「そりゃもう!テオが心配で心配で…お店のことよりも心配だからですよ!」
「はいはい…。全くダニエル先輩ったら何回<臨時休業のお知らせ>の紙を貼ってるんです?そのうち客足が途絶えても知りませんからね?」
「大丈夫です!そろそろ可愛い女性メイドが来るのですから、何も心配はいりません!」
「そうやってオレの幼馴染をダシにするんじゃなーい!!」
という黒髪の青年の叫びに対して、ダニエルは爽やかな笑顔だった。
金目の青年はダニエル、黒髪の青年はテオと言う。
この二人は先輩と後輩でありながら、師弟の関係を持っていた。
厳密にいうと『学校の先輩と後輩であり、ダニエルはテオの物理技を教えた師匠でもある』ということだ。

二人が歩くとやがて村が見えてきた。
地図には記載されているが、名も無き村だとダニエルは説明した。


*危機に陥った村と師弟と*


しかし村は人影もなく荒れ果てていた。
「ええ~?前に来た時は賑やかな村でしたよぉ…?」
「あのお、先輩それっていつの話です?」
「150年前ですね!」
「だいぶ前だな!?」

師弟お決まりの漫才が始まった。

ダニエルは元の姿は<悪魔>で、世界が誕生したときから約数千年生きていると言われている。当然ながら現在も悪魔の姿になれるが、人間の姿がエンジョイしているようで、悪魔の姿になることが少なくなったようだ。
「ということはとっくに滅んでいたということか…?」
テオは独り言を言いながら、辺りを見回していた。
「でも魔力はまだ残っているな…?」
魔法学校を卒業し、魔導士としてギルドで働くテオ――テオドシオという青年は、魔力感知に長けていた。
「ほう、では近くに魔物がいるのですか?」
「いやそれはどうだか…。とりあえず村を調べていく必要はありますね」
「ギルドの依頼はどうするんですか?依頼放棄~だなんてさすがの俺でも嫌ですからね?」
「時々スタッフ任せの先輩が何言ってるんだか。石の採取だけなら今から寄り道でも遅くないですし、最悪、先輩が石拾いに一人で行けばいいと思うんですよね」
二人――正式にいえばテオに任された依頼は、特定の場所でしか生まれない石の採取のみ。持っていくのは重たいとのことで、石のみが軽くなる魔法の袋を持たされている。
「え~悪魔の姿になるってことじゃないですかあ。それはちょっとポリシーに反するのでダメです」
「はあもう…。先輩、すぐ否定するの良くないですよ」
とテオは半ばため息をついた。
村をくまなく調べ回った結果、人の気配はなく、どこの家も鍵が開いておらず、中からは同じ魔力が感じられることが判明した。
鍵を開ける術はあるものの、勝手に侵入はできないため、テオが呪文を唱えて魔力感知をするほかはなかった。

二人は人気のない村のベンチに腰掛けた。ベンチの上には砂が乗っていたため、ダニエルが弱い風魔法で吹き飛ばしていた。
「魔力は同一人物と見て間違いないですね。推定するとそれなりに強い魔力の持ち主です。ああ、心配しなくともこの魔力は<悪魔>じゃ無いですよ。人間ですから安心してくださいね」
「別にあいつらの誰かと対立したって<今の俺>には関係ないですよ。しかし人間…いったい何のために。これは魔力で家にいた人間を一斉にワープさせたんでしょうね」
「あ~。かなりの時間と魔力の消費はかかりますけど確かにオレもできなくはないかな…。外から同じ魔力はなかったからそうなると寝静まった夜か…」
会話しながらもペンと紙を取り出し、書き出していく。
「もしテオが一斉に人を移動させるなら何が目的だと思います?」
ダニエルは魔法の使い手であるテオに質問を投げかけた。
「そうですね…。人か…魔力の媒体には必要になる場合、とか。ただ多人数を利用した術というのは大抵人を犠牲にするのが多いですよ」
「フフッ、たくさんの魂が貰えてしまいますね?」
ダニエルは愉快そうに笑った。そうなればまた悪魔として一時的な契約に利用できると思ったのだ。
「今度、ドリアンでも贈っておきますね。それよりも、その人物を早く見つけないと術に使われて、多くの命が失われて大変なことになりますから!よし、追いかけるぞ!」
そう言って来た方向とは反対側、しかし本来ならば向かう方向ではない方角へと彼は走り出した。
「え~助けるんですか~?」
早々と追いつき、隣に並んだダニエルが問う。
「助けるに決まってるでしょ!許せないんですって!」
どうやら堪忍袋の緒が切れたのか、近い職業としての何か(プライド等)が許さなかったようだ。
「お~。珍しいこともあるものですねえ。これは面白くなりそうです」
見世物感覚で付いていく師匠に、テオは走りながらも軽いため息をついてしまった。
そして辿り着いたのは繁みの中に隠れた洞窟だった。
テオとダニエルは慎重に侵入する。どうやら巧妙に隠されているせいか、侵入者対策は薄く、罠も容易に解除できた。ほぼテオの魔法によるもので、魔法感知も無いと判別できたため、安心して魔法が使用できた。
もちろん音を立ててしまえば響きやすいため、どの罠もさらに慎重に解除しなければならなかったが。

そして最深部。テオによればこの木製の扉の奥に多くの生命と肥大する魔力を感じるとのことだった。
いい方法がある、とダニエルはにやりと笑みを浮かべる。テオはきょとんとしたその時、なんと取り出した刀の柄で思い切り、ドアを破壊した。
すかさず最奥の部屋へと侵入したダニエルは、目にも止まらぬ速さで、振り向いた動作を見せ、驚いている紫のローブを纏った男の腹を蹴った。
その合間に魔法陣を発見したテオは解析しつつ、効力を失わせた。終わりに呼び出した漆黒の剣で黒くバツ印を描いた。
呼び出した剣をしまいつつ、突然強行突破したダニエルのほうを向いて叫んだ。
「先輩!!ビックリしたじゃないですか!もうっ!」
「いやあ~。そろそろ刺激が欲しかったもので。でも良かったですねえ、魔物を召喚されなくて」
「魔術師が狡猾だったらとっくに召喚されてましたよ。…っと」
今まで向けていなかった方に目をやれば、老若男女の捕らえられている人々がそこにいた。
ざっと数えて数十人。自分たちが依頼を受けておらず、そうだとしても気づかなかったら、あの村はどうなっていただろうか。
テオはぞっとしたが、今は解決したのだ。こうも簡単に終わるとは思わなかったが。歩き出すとびくりとさせる者が多かった。身なりから露出が一切なく、群青のマントをはためかせ、こちらに向かってくるその姿はダニエルが気絶させた魔術師と似ているのかもしれない。
「ええと…安心してください。た、助けに来ただけなんです!」
咄嗟に頭が回らず、苦笑いをしながら両手をひらひらさせた。
「君は助けに来てくれたのか?」
若者の男性が質問をすると
「はい。偶然村に立ち寄ったギルドの者ですが、助けに来ました。あなた達を攫って悪事に利用しようと企んでいた奴は、同行者が気絶させています」
と先程とは打って変わって凛とした態度で答えた。
「そうか、我々は救われたのか…!」
牢屋の中の老人が言うと、捕らわれた人々は歓喜の声が上がった。
「ああそうだ、鍵…いいや、開けちゃえ!」
錠を持って呪文を唱え、そこを引いただけで牢屋の扉は開いた。
「勝手に出ないでくださいね。転移はしたいのですけど、トラウマな方もいると思いますから、村へみんなで歩いて帰りましょう」
テオは笑顔になりながら全員を牢から出した。
最後に出た中年の女性がテオにお礼を述べた。
「貴方たちがいなかったらみんな実験材料にされて、呪われた村にされるトコだったわ。ありがとう、えっと名前は?」
「魔導士のテオといいます。あっちにいるのはダニエルという剣士です」
厳密には刀使いだが刀があまり布教していないこの世界では<剣士>と名乗るようにしているとダニエルから聞いていた。
ダニエルは上手く魔術師を縛り付けているようだ。のちに騎士団の詰所に突き出すのだろう。
「そう、テオさんとダニエルさんね。本当にありがとう」
満面の笑みを浮かべて女性とテオは同時に洞窟を出た。ダニエルは魔術師を軽々と担ぎながら、最後に外へと出た。
洞窟では本来ならば目的さえ達成すれば目ぼしいものが無いか、漁ったりすることもあるが、救出優先なので、それは後回しということになり、二人は村の人々と村まで見送った。
ダニエルが魔法で眠らせ、縛り付けて動けなくした魔術師は、後にテオの造った伝書鳩によって騎士団に伝えられ、数時間後駆けつけた彼らによって運ばれることとなった。
村の長に村に一泊して欲しいとお願いされたが、正直に依頼があるからと二人は丁重に断った。長は恩は忘れないと言いつつ、せめて食事だけでもということで歓迎ムードの中、食事を村人たちと楽しんだ。
楽しんだとはいっても、ダニエルだけは黙々と食べていただけだ。たまに村人に驚かされ、食べている最中にむせてしまっていたり、ときには村人の話に苦笑いを浮かべたりしていた。
テオとダニエルは果物や木の実の入ったカゴを頂き、村を後にした。
帰りも寄るのかという村人の問いに対して、夜遅くなるので次の町で泊まっていくとダニエルが答えた。
こうしてひとつの村が再び息を吹き返し、かつての賑やかさを取り戻した。

しかし弟子と師匠の依頼に終わりはないだろう。

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